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3G・定額時代のケータイがもたらす社会の変化

これまでの携帯電話ビジネスは,端末やコミュニケーションへの依存性が高く,さまざまな制限の上に成立したモデルだったが,3G・定額制時代は制限事項がなくなり,前提条件が大きく変革する。
定額制の契約率は2006年3月時点で約20%になるという予測がある。携帯は「二八の法則」が当てはまり,一般的に2割のユーザが8割の収益を稼ぐ業界である。ヘビーユーザが後1年で定額制に移行すると,定額制を前提としたビジネスを考えればいいという状況が起こってくる。
3G・定額制の携帯電話を中心にモバイルビジネスの現状と展望についてモバイル・コンテンツ・フォーラム事務局長の岸原孝昌氏に伺った。

モバイルビジネスの市場規模

モバイルビジネスの分類は業界の中で大きく4つに分けられる。第1はデジタルコンテンツの販売,第2はモバイルコマース,第3にキャンペーン,第4にモバイルソリューションがある。
モバイルと言うとチャネルであり,メディアであるので,いろいろな業界がビジネスを行っていくのがモバイルビジネスの全体的な構造である。
これまでの大きな流れは,先進ユーザがけん引してきた成長率モデルとして伸びてきたが,約7000万人以上のマスユーザが利用するようになって,全体としては普及率モデルに移行している。
モバイルコマースの代表的なものの一つはオークションである。Yahoo!オークションの総額は5500億円ぐらいだが、約2割はモバイルの流通である。オークションが伸びてきている理由は,携帯電話自身がコミュニケーション機能をもっていることが挙げられる。オークションの中にもCtoCとBtoCという2つの区分がある。コンシューマー同士でも1人当たり月に1000万円ぐらい取引する人がおり,どこからがBtoCでCtoCなのかも分からなくなってきている。
事業者の市場規模としては,オークションは別枠になってくるが,物の取引では無視できない領域になっている。昔から携帯電話はオークションに近いメディアだと言われていたが,実際に本当だった。PCでオークションをやっている人も,夜9時が締め切りだと,会社が終わった後も帰宅までの間にオークションに参加する。飲み会の間オークションをやっている人も多く,24時間入札ができる。ほかに携帯電話のカメラ機能で出店する。事業者が考えている以上の広がりが出てきている。
モバイルコマースとPCコマースの2つを分けて考えてみると,モバイルコマースはPUSH型のマーケティングが成功モデルとなっている。PCの場合,検索して探して買ってもらうというPULL型のマーケティングが主になっているが,モバイルコマースの場合,通信料が定額制,従量制というほかに一覧性や検索機能が十分ではない。

モバイルビジネスの成立要因

モバイルビジネスはユーザのリテラシー,能力,端末とポータル&ネットワークの3つに依存した形で成立をしている。ポータルの役割は大きく,日本の場合は通信事業者が作ってきた。
いくつかの要件が料金回収代行,ユーザID,公式サイトのメニューリストである。今後メディア連携が始まってくると,例えば雑誌などをポータルにしてコンテンツサービスにつなげていくという時にも,同じ機能を提供することによって成功モデルが作れるのではないかと思っている。
ポータルが何を提供していたかと言うと,大きく3つのポイントがある。第1はナビゲーション機能。コンテンツを提供するために携帯電話のキャリアのポータルの場合,メニューを提供し,カテゴリー分けをして案内する。雑誌,テレビとそれぞれの媒体によってナビゲーションを分けていいのではないかと思っている。
第2はプロモーション機能。多様なコンテンツを集める場合には,プロモーション機能をポータルが提供していくというのが重要ではないかと思う。
第3はユーザが安心して利用できるというブランディングの機能。一つひとつのコンテンツの良しあしを見極めるのではなくて,サイトにあるものは安全でないとネットの中ではサービスがやりづらい。

3G・定額制時代

第3世代,定額制のモバイル業界を分析すると,クリエイティブ力を自分たちで開拓していかなくてはいけないことが弱みである。全体的に企画は得意であるが,例えば新しい作家を生み出す,アーティストを生み出していくといったことにも関与していかざるを得ないのではないかと思っている。
第2世代のコンテンツは着メロのような端末やコミュニケーションに依存性が高いコンテンツだった。第3世代以降のコンテンツとしては,次の4パターンが出てくるのではないかと思っている。第1は,端末・コミュニケーションへの依存性コンテンツで,コミュニケーションに依存性した着メロ・着うたなどのコンテンツである。第2は,サブカルチャー的な映画,音楽コンテンツとして,映画のアナザーストーリーや,外伝を携帯電話で作る。第3は,コンテンツ力を生かしたコンテンツとしてパッケージコンテンツである。音楽ではシングルCDと同じものが,携帯電話の中で配信されている。第4は,ユビキタス環境でのコンテンツである。携帯電話をツールとして認証機能や課金機能を使うことによって家電などでのコンテンツビジネスが可能になってくる。
また,携帯電話のマイナス面の一つとして,テレビや雑誌などに比べて利用時間が短い。ユーザの利用が能動的か受動的かということになると,インターネットはPCも携帯電話も何かを探すために能動的に利用しているといえる。
携帯電話はメールが着いたら75%がすぐに開封するという調査結果がある。面白い利用としては,企画会議の最中に,1,2問の質問をケータイモニターに投げ,会議が終わるまでに回答を出すといったことができる。

モバイルコマースの可能性

第2世代,従量制時代のモデルとしてはPUSH型のモデルであったが,いろいろな形で増えていくと思う。動画が配信されるようになりコンテンツの表現力が広がったので,第3世代ではコンテンツが伸びるのではないかと言われている。ただし動画コンテンツを2次利用することの取り決めがまだなされていないなど,著作権などの権利関係の部分が整備されていない。
コマースに関してはビジネスモデルが第3世代になったからといって変わりがないので,画面の表示能力が上がり取扱商品が広がってくることで,比較的簡単に広がりやすい。権利関係がクリアになれば,コンテンツも一気に出てくるということも考えられるが,単純に表現力が広がって取扱商品が増えてくるという部分では,ここ1年ぐらいはコマースのほうが有望である。
モバイルシーン商品の拡大とは,ある時ある場所によって新しい商品の購買ニーズが発生してくる。イベント会場の前の所で位置と時間などが分かると,安売りチケットを配信することもできる。例えば雨が降るとホテルの稼働率が低くなるので,ある大手のホテルチェーンは雨の日用の割引クーポンを配信している。PCでは自宅に帰らないと分からないので意味をなさないが,携帯電話では可能になる。
その他,月刊誌などと連動した形でモバイルシーンの商品,情報提供といったものも考えられる。

(通信&メディア研究会)

2005/07/09 00:00:00


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