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ワークフローの再構築とinter-Graphicsの有効性

パートナー企業と連携・協力し,従来のワークフローを再構築するための色における標準を目指すリモートプルーフソリューションの事例を,グラファインの赤羽紀久生氏に伺った。

ワークフロー再構築が必要な理由とポイント

「デジタル化のメリットを得るため」には,ワークフローの再構築が必要で,スピード,コスト,クオリティ,さらにタイムリーとフレキシビリティという要素がある。タイムリーは欲しい情報を欲しい時に与える。フレキシビリティは,マルチユースに代表されるような,一つの情報をどのようにマルチに自由自在に扱っていくかである。
再構築のポイントは,「役割分担の見直しと標準化」である。企画やアイデアがあり,パーツを制作し,デザイン・レイアウトをして,プリプレスで色変換や検版をして,印刷,加工を行う。各工程で責任を明確にしないと,効率良く回らない。

また,以前はEPS形式で作業のやり取りをしていたが,試行錯誤しながらデータ作成を進めたり,後戻りが行いにくい。ネイティブファイルで作業することで,より無駄をなくすことができる。
さらに,PDFファイルを中心とする情報共有がある。ビジネスのスピードが早くなっても,人によるチェックを受けずに物や情報が世の中に出ていくことはない。大きな企業になれば,研究所,販売,法務などの部門が絡んでくる。従って,情報共有も重要である。
さらに,汎用性のある色基準の運用が必要である。勝手なルールでは前に進みづらいので,JapanColorなどの色基準が重要になる。

最後のポイントは,「完全データの作成と出力を完全に分離すること」である。印刷会社の中で両方こなすのはけっこうだが,責任としてこの部分を分断しないと,自由自在に完全データを流通させることができない。完全データが流通するようになれば,自社の仕事だけでは空きが出る印刷機をより効率良く回すこともできる。また,完全データを作ることに特化していくこともできる。

事例紹介とinter-Graphicsの有効性

最近,InDesignで仕事をしており,大変楽に進められる。今回,ある広告会社の依頼で,小冊子を手掛けたが,作成に当たりinter-Graphicsのサービスを使用した。
印刷物の企画からコピー,デザイン,プリプレスまで一切ほかの人の手を借りずに印刷物の完全データを作成した。15年ほど前であれば,写植を打つ能力,スキャナで色分解する能力,平台校正を動かす能力をもち,すべてのハードももって成立する話であるが,現在ではパソコンとソフト,スキルさえあれば一人でできる。
使用したディスプレイは,精度が高いわけではないが,カラーマネジメントしているので,原稿作成時はディスプレイを見ながら行い,実際に全ページ出力したのは2回程度である。その際,inter-Graphicsを使って出力した。今回は完全データを作るところまでを行い,印刷会社の選定は広告会社が行った。
プルーフ出力時には,プリントをクリックしてinter-Graphicsを選択すればよい。これでアップロードすると,サーバ上のRIPで処理する時間を要するが,自社のPM4000プリンタ用カラーマッチングRIPと同時に,クライアントにあるDocuColor1256用のRIP処理も行っている。RIP処理終了後には,inter-Graphics側からその旨を記したメールが到着するので,ダウンロードすればよい。

この仕事を進めるに当たり,クライアントとはほとんど会っていない。何度か打ち合わせはしたが,ある程度中身が固まって以降は会っていない。
また,このデータには最初からトンボを付けていない。RIP時に紙面の確認のために付けたが,最終データを書き出す時はトンボを付けずに作っている。面付けは出力側に任せるので,その際トンボを付けてもらうのである。トンボなしのページ単位の状態で作った完全データであるが,3mmの逃げまでは入っている。このようなデータであれば,どのような面付けもできる。最後に完全データにまとめたものを,PDF/X-1aに書き出している。
印刷会社の担当者とは,顔合わせと面付けなどの確認以外は会っていない。後はinter-Graphicsの共有フォルダに前述の完全データをアップロードして,印刷会社にグループに加わってもらい,ダウンロード後出力してもらった。仕事の流れとして,それですべて完了している。
この例のように,大変簡単に仕事が進んでいく。カラーマッチングとファイル共有が簡単にできることがinter-Graphicsの有効なポイントである。

私は,ハイエンドDDCPが不要とは考えていない。デリケートな写真や大企業の大きなキャンペーンになると,1ビジュアルに数百万〜数千万円掛けており,いろいろなところに露出する。そのような場合は簡単な色の確認で済ませるわけにはいかず,ハイエンドDDCPが必要なケースもある。掲載したらモアレが出てしまったというような言い訳は通らないので,より慎重なチェックが必要である。
ただし,そうではない印刷物も世の中には山ほどある。そのような印刷物では,簡単なカラーマッチングとファイル共有ができ,スピード,コスト,クオリティ,タイムリー,フレキシビリティという前述のデジタル化のメリットを持ったワークフロー再構築を補助する優れたサービスが利用できるようになる。
今回のカラーマッチングで使った費用は,全ページ2回程度と,部分的な見開き出力を合わせて,数千円である。企画からコピーライティング,デザイン,プリプレス,すべて一人で行ったので外注費は掛かっておらず,効率の良い仕事になった。このようなケースはあまりないとしても,役割分担すれば不要なものは排除できる。

印刷業に必要なビジネスモデルの改革

印刷業に必要なことは,「ワークフローの再構築」と「業務の選択と集中」がある。刷りに徹していくのも一つの道であり,ワンストップショップで無駄のない流れの中ですべてこなしていくのも一つの道である。しかし,何をやっていくのかもう少し明確にしたほうがよい。
さらに,「スタッフと営業マンの再教育」が必要である。私が広告制作の現場にいた時,適切な知識をもった印刷会社の営業には一人もお目に掛からず,とにかく知識が乏しかった。
今回の仕事も営業は必要なく,従って一切営業が動く局面もない。クリエイターにとってのサポート役や,仕事全体のデジタルワークを動かしていくディレクション能力を身に着けない限り,営業の生きていく道は少ないのではないだろうか。

また,印刷業は「生産性・利益重視」の業務をすることが重要である。広告会社でもそうであるが,売り上げ至上主義で売り上げが減ることはマイナスであるという見方が多い。しかし,売り上げが減っても利益があればよい。売り上げを減らさないと,クライアントである依頼者は納得しない。売り上げを減らすということは外注費を減らすことなので,生産性や利益を重視してほしい。
さらに,「将来に対するビジョン」がある。従来の印刷物をそのまま作ろうというのなら,印刷業全体が衰退していくと考える。そうではなく,より細やかなコミュニケーション,より美しいコミュニケーションを行うようなビジョンをもつことが重要である。これらは「ビジネスモデルの改革」である。

(テキスト&グラフィックス研究会)

2005/08/26 00:00:00


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