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技術の発展と人材の課題 その4

これからは社会全体がクロスメディア化するといわれていますから、クロスメディアの全体像とその本質を理解しなければなりません。クロスメディアとは「こんなものなのかなー」という漠然としたイメージは浮かびますが、その本質であるとか、実体を伴う将来像を把握するのは難しいことです。難しいからといってそのままにしていては時代の先頭に立つことが出来ず、新しいビジネスチャンスを逃がすことになります。何が何でも勉強をしてクロスメディアの理解を確実なものにしなければなりません。

幸い、JAGAT副会長の和久井先生がクロスメディア曼荼羅を提供してくれています。曼荼羅とは仏画の一種ですが、仏が司る宇宙全体を表現し、仏の教えの本質を図示、図解したものといわれています。 和久井先生はクロスメディア曼荼羅でクロスメディアの全体像を示してくれました。 そこには写真・印刷・出版が入っています。フィルム・紙も入っています。コンピューター、情報通信ネットワークが入っています。この曼荼羅は単純に技術の繋がりだけを示したものではありません。経済産業省と総務省が図示されているように、行政にも踏み込んだ文化的要素も組み込んだ全体像です。この曼荼羅を目の前に置いて、クロスメディアの全体像を考えると実体に迫ることが出来ると思います。 と、申しても、この曼荼羅を眺めているだけでは全てが理解できるものではありません。 深く考える必要があります。あくまでも、これはクロスメディア理解の入り口であり、また、出口であると思います。プロデューサーを目指す人は、クロスメディアの全体像と本質を捉えながら各論を深めて欲しいと思います。全体像と本質の理解を後まわしにして、各論から入りますと、結局は迷ってしまい、目的地への到着が出来なくなります。 JAGAT Info4月号、5月号に掲載されている和久井先生の論文をお薦めします。

クロスメディアビジネスに着手しようとする人がいると思います。その人がこれまでの受注型の発想のまま新プロジェクトを進めると失敗する危険があります。クロスメディアビジネスではプロデューサー、ディレクターといった役割を明確にしてプロジェクトを進める必要があります。ここでも全体像の把握が重要となります。

このモデルをJAGATの小笠原さんがPrinters Circle の4月号で解説しています。クロスメディアビジネスは得意先と印刷会社を単純に一本線で結んで成立するものではありません。クロスメディアのビジネスを進めるにはプロジェクトの全体像を理解する必要があります。ここでは、マネジメント、ディレクション、現場という階層構成を図示して理解を助けています。全体像が把握出来れば、プロジェクトの中で自社で対応すべき部分と、他社と連携した方が良い部分が明らかになります。その理解の下でプロジェクトを効率的に構築し、また運営していくことが重要と思われます。いずれにしてもクロスメディアビジネスを展開するには勉強が欠かせません。

長い間、印刷業界は先輩が蓄積した'技'を武器にして技術革新を実現し、ビジネスを成長させてきました。これからは先輩の'技'ではなく、現役の'技術と知恵'で勝負をすることになります。このことを肝に銘じて人材の確保、育成をしていかなければなりません。 JAGATはそのお手伝いをしようと頑張っています。 最後に、一言付け加えさせて下さい。いろいろな情報が氾濫している中で、本当に仕事が出来る人は、知識のある人ではなく、実行が伴う知恵のある人です。他人が考えたことを整理するだけで、それを自分が考えたと思いこむ人は困ります。 「知ることと考えることは別である」とわきまえた人材を、印刷業は求めています。

ご清聴ありがとうございました。

2005年6月23日「JAGAT大会2005」講演より

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2005/08/25 00:00:00


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