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顧客のビジネスを知ろうとする意欲

製本のノウハウは本屋の本棚に並べたときにカッコよく仕上げることではなく、辞書なら辞書の利用局面を想定して使用に耐えられるように、上製本ならその重量に見合った丈夫さに、教科書なら開きやすく、などユーザの使用適性にかなったものが必要である。パッケージ印刷も中身の保護など機能性が求められ、その商品がどのような流通経路を辿り、どんな目に遭うのか、またいらなくなった時に破棄する人にとって具合がいいものなのかが問われる。

つまり製本やパッケージ印刷でのノウハウは利用している人をよく観察しないと得られない部分を含んでいる。これはデジタルメディアにおいても同じで、WEBページがカッコよければよいのではなく、そのメディアを必要とするビジネスの目的および過程に密着していくことが、メディアやコミュニケーションに関するビジネスの基本となる。特にWEBは漠然と眺めるものではなく、目的指向のメディアであって、用が足せることが第一であり、長い時間見てくれたからよいというものではない。

JAGATではクロスメディアエキスパート認証制度をスタートした。印刷会社がデジタルメディアに関わる局面は、商業印刷からWEBへというつながりが多いが、上記のようにWEBの特性は目的指向・機能的であり印刷物やTVとは大きく異なるところがある。印刷会社のWEB対応で最も努力が必要なのはこの点であろう。クロスメディアエキスパート認証試験は単なる知識の詰め込みではなく、目的指向を身につけた人であるかどうかをみようとしている。

よく考えると目的指向はソリューション提案を行う何のビジネスでも必要で、印刷ではバリアブル印刷・オンデマンド印刷など、その要素の強い仕事が増える傾向にある。2006年2月に開催されるPAGE2006においても、テーマを「メディアを活かす ビジネスコーディネーション」としたのは、もはや特定メディアに固執していれば仕事がやってくる時代ではなく、目的やタイミングや局面に応じてメディアは組み合わされ、使い分ける能力が問われているからだ。

メディアをコーディネーションして提案することは、従来からそれを専門領域としていた広告代理店に限らず、出版社などコンテンツのホルダーがエンドユーザに対して行うことも必要であるし、制作の立場からはメディアが増えてもコストがかさまない効率的なクロスメディアのシステムを構築する上で必要であるし、メディアの流通という点ではエンドユーザとの接点であり「店頭」に相当する配信業者、フルフィルメント業者、代行業者もその対応が必要になる。

その意味ではメディアやコミュニケーションに関するビジネスはますますクロスメディア的になっていくが、こういったビジネスの各過程の業者間の連携も非常に重要になる。印刷の世界の分業は紙というモノを媒介としたつながりであったのが、デジタルメディアビジネスでは形のないつながりになるので、一層の信頼関係が求められる。印刷の企画提案に長けたところが、その顧客との信頼関係を損なわないように、デジタルメディアのリテラシーも向上させることを期待する。

2005/11/01 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会