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印刷工程の注目技術

周知のとおり短納期,小ロット化が進み競争激化により低価格化の歯止めは掛かりにくい状況でもある。こうした市場環境に対応するため印刷会社は徹底した合理化を目指した生産体制を確立しようとしている。また,環境に優しい方法での生産にも取り組まなければならず課題はたくさんある。ここではJGAS2005を踏まえ印刷工程の注目技術について述べる。

■ユニークなインキつぼ装置

 JGAS2005でアイマー・プランニングでは印刷機のインキつぼ部分に装着できるユニークなインキつぼを発表していた。インキつぼの元ローラのキーは一定であるが,呼び出しローラが分割されている。そして個別に分割されたローラがエアー駆動により元ローラに接触し,その接触幅によってインキ量を調整しようというものだBR。  インキコントロールには専用ソフトがあり,印刷中の絵柄とインキ量のデータを同時に微調整できる。また,つぼの洗浄が簡単で,ラップのようなロール状になっているフィルムがつぼ全体にセットされており,インキつぼ洗浄時にはインキの付いたフィルムをドクターでかき取って巻き取り装置に巻いてフィルムを交換する。
 この装置は枚葉印刷機,ラベル印刷機,飲料缶印刷機,BF印刷機などの機械に装着できる。インキ供給を安定させ,刷り出し時のヤレの削減により作業効率のアップが可能になる。

■コスト削減につながるロールtoシート
 枚葉機のフィーダ部にロール紙から印刷機に給紙する装置がある。JGAS2005ではアキヤマインターナショナルが「JprintRF」を出していた。これは寸法を設定してカッターで切り,シート状で給紙する機構だ。
 欧米で開発されたものであるが,その背景には,欧米には日本のようにさまざまな紙が簡単に供給される物流システムではなく,そこから生じるコスト面の無駄やフィーダートラブルへ対応するところにあった。導入している印刷会社では,合理的な紙の取り方ができると評価している。
 この装置は,大ロットの仕事または同じ用紙を使う仕事が多ければ,コスト削減・生産性向上につながる。また,そのつど紙積みをする手間が掛からないので作業効率が良くなる。

■新たな営業展開が期待される水性ニス
 ハイデルベルグ・ジャパンは,ワンパス両面水性ニスコーティングできる枚葉10色機「Speedmaster SM102」を出していた。
基本的に水性ニスはアルコール系であり油性インキとの相性は良いとは言えず,水性ニスコーティングはハードルの高い課題とされていた。ヨーロッパではこのシステムに適する材料があったようだが,日本ではなかったが,国内のインキメーカーが油性インキの上に水性ニスコーティングしIR乾燥する新しいタイプの水性ニスを開発した。
 機構は,水性ニスコーティングが必要な時にブランケット自動洗浄装置を取り外し,水性コーティング装置に交換する。そして,5胴目の後と10胴目の後,排紙部でIR乾燥する。
 この両面ワンパス水性ニス印刷は,印刷表面の傷・汚れを減少させる。そして一番大きなメリットは,UVインキ使用に比べて低コストで乾燥時間の短縮による短納期対応が可能になり,新しい営業展開が期待できることだ。

■特殊原反の印刷機能が営業活動の幅を拡大
 小森コーポレーションは,蒸着紙・透明原反・ユポ紙等の特殊原反へ印刷可能な印刷機「LITHRONE S40」を出し注目を集めている。
 通常の油性インキは乾燥に時間が掛かるため,特殊原反にはUVインキで印刷されることが多い。UVインキを使用する場合,印刷機の仕様も油性インキを使用する場合とは違う。UV専用の版,インキローラ,インキ洗浄液,UVランプなどが必要となる。特殊原反の印刷ではインキ・湿し水の吸収性が悪いため乳化も起こしやすく,給水装置も工夫されていなければならない。
 印刷会社がこのような特殊仕様の印刷機をもっていると営業活動の幅も広がり,価格競争に巻き込まれにくくなる。

■スピード・精度がアップした印刷物検査装置
 検査装置はカメラまたは光源により読み取ったデータと前もって登録された正しいデータとを照合して,印刷物上の傷や汚れ,見当ズレなどを検出する。JGAS2005でヒューテックは従来機よりもスピードと精度が向上した装置を出していた。通常,印刷物は表面の検査をしているが,特にシビアな検査を要求される医薬品のパッケージを取り扱う印刷会社には朗報と言えよう。
 今でも多くの印刷会社では目視による検査を行っている。しかし,人間が検査していてはスピードに限界があり,体調によって精度にも影響してくる。従って,人海戦術に頼っている検査作業は装置の性能向上により機械に移っていくことが予想される。

■期待される単独駆動枚葉機
 作業効率アップのための自動化技術としては,ローラ上のインキ膜圧が一定に保たれるインキング機構,版替えの全自動化,ブランケット洗浄装置,オフ輪については折りの仕様が変わった時にその仕様に合わせて自動的にプリセットするものなどは一般的になってきた。オペレータの負担がかなり軽減できることから,女性をオフ輪工場に配属している会社もある。
 単独駆動はオフ輪では一般的になっている。従来の印刷機は機械全体が一体として動いていたが,単独駆動は特殊モーターで1胴ごとに駆動していく。版交換の作業効率向上が目標になる。従来は版の交換を1胴ごとにしなければならず,色数が増えればそれに準じて版の交換時間が掛かってきた。これが版胴の単独駆動となると一度に全胴の版交換ができる。
 機種によっても多少の差はあるかもしれないが,実際に導入している印刷会社では切り替え時間の短縮が実現され,オペレータの負担も軽減されている。今後,単独駆動の枚葉機の登場が期待されている。

■尽きることはない環境問題
 JGAS2005で日本グラフィックコミュニケーションズ工業組合連合会は,環境保護印刷推進協議会の発足と「環境保護印刷マーク」交付の認証登録制度を発表していた。これはISOのように管理体制のいかんを問わず,とにかく環境に配慮した材料や薬品を使用することを推奨するものだ。富士フイルムグラフィックシステムズは湿し水ろ過装置,湿し水,版面クリーニングガム,ブランケット洗浄液,給水ローラクリーナーなどを環境対応ソリューションとしてワンセットで紹介した。
 無処理タイプのプレートも出てきた。これも環境対応型の生産手段として顧客にアピールできる。
 環境対応のプレートと言えば水なし平版が挙げられる。顧客のバタフライマークへの関心が非常に高まっていくことから日本WPAへの登録社数も現段階でメーカーを含めて130社を超えている。
 水なし平版は露光の後に前処理液で露光されたシリコン層を膨らませ,その部分をブラシでかき取り,視認性を高めるために画線部を染色してから水洗いしている。廃液が出ないことで環境に配慮した方法であると言える。これが無処理タイプになればより注目度が高くなるだろう。
                                 (伊藤禎昭)

2005/12/12 00:00:00


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