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地図出版のデジタル化とWeb・印刷利用への展開

昭文社は1960年に設立された地図を中心とする出版社である。1970年代からガイドブックのマップルシリーズを刊行し,現在は多様な実用書も出版している。また,電子事業の取り組みを行っている。
地図出版のデジタル化とその応用について,同社デジタルコンテンツビジネス本部長,内田次郎氏に話を伺った。

昭文社の電子事業の歩み

1994年より,SiMAPという地図データベースの構築を始め,1999年までに130億円を投入し全国整備を完了した。これは電子事業のためというより,印刷前工程効率化のために始めたものである。しかし,世の中のGISの機運が高まったことで,1997年にGIS営業部を設立し,SiMAPによる電子事業へ取り組むこととなった。また,北海道から沖縄まで全国のさまざまなガイドブックを出版しており,これらのデータベース化も2001年に完成した。
当初は地図とガイドのコンテンツを企業に提供し,その企業がコンテンツを利用したサービスを行うものと考えていた。ところが,それだけではなかなか浸透しない。そこで,2002年にインターネットの配信技術や印刷用のデフォルメ技術に優れた日本コンピュータグラフィックという企業を買収し,コンテンツ提供会社からサービス提供会社へと業務を拡張した。

SiMAPの構想と特徴

デジタル化する以前の地図製版は,色数以上に線・文字・網・ベタの版がある特殊な方式であった。昭文社では以前から製版工程を内部で行っており,デジタル化を進めるためのSiMAP構想が生まれた。SiMAPはCADなどと同様で,パソコン上で文字や線・面を配置することができ,データベースとして保存することができる。それまでのフィルム製版に比べ,6割ほどの工程圧縮を実現した。今では出版事業と電子事業の両方に使用しており,昭文社のコアコンピタンスとして位置付けている。

地図データベースと従来のフィルムとの一番の違いは,地図が座標を保持していることである。今後は携帯電話にもGPSが搭載されるなど,さまざまな場面で位置情報の重要性が増大している。
2つ目の特徴が,線・面の要素をベクトルで保持していることで,道路の色や太さなどの表現を自在に変更できる。
3つ目の特徴が,オブジェクトに属性をもたせていることで,建物であれば何の建物かを属性として保持している。約1000分類の属性を保持しており,目的に応じてさまざまな地図を出版することが可能である。
4つ目の特徴に,切り出し機能がある。フィルム方式の場合,例えば世田谷区の地図を製作するなら4メッシュ必要であり,フィルムをつなぎ合わせ,反転してネガ撮影するなどの作業が必要だった。SiMAPでは,メッシュで管理されてはいるが,どのようにも切り出すことができるため,製作効率が大幅に向上した。
5つ目は,図式の管理である。地図における線の太さ,色,注記のフォント,文字サイズなどを自在に変更することができる。

地図の情報源とメンテナンス

地図の基になる地形の情報は,国や官公庁,地方自治体,国土地理院から購入している。道路,住所,鉄道,公共施設,沿道情報など,地図に掲載する情報は,それぞれの企業や機関から入手している。これらの情報を基に地図をメンテナンスする。
昭文社では常時更新と定期更新という2つの考え方をもっている。市町村合併や高速道路の新設,住所変更など重要な更新はすぐに直すべきもので,常時更新を行う。それとは別に,昭文社自身で町を調査し,地図上にいろいろな情報を掲載する作業がある。都市部においては年1回,地方においては2年に1回調査し,定期的に更新する。

地図はMDXフォーマットという昭文社独自フォーマットで製作している。GISにはSHAPE,DXF,MapInfoのTABなどのエンジンがあり,データのやり取りには,それぞれの地図フォーマットへの変換が必要である。今はG-XMLというオープンなGISフォーマットがあり,これから主流となるだろう。昭文社のMDXフォーマットは,変換ツールでSHAPEやDXFにコンバートすることができ,すべてのフォーマットに対応できる。

法人向けインターネット地図配信サービス

「ちず丸ASP」とは,法人向けにインターネット上で地図配信するサービスである。Webブラウザで地図を表示して,店舗や物件を検索し位置を表示することができる。SVG技術を使用しており,各企業がもっている独自のデータベースと重ね合わせて表現できる。

導入事例として警視庁や県警の110番通報に使われている。大きなスクリーンが通信指令システムの中にあり,パトカーが今どこを走っているのかを把握している。通報があると住所を聞いて地図をクローズアップし,それをすぐ管轄の警察署に指令し,人を手配するといったことが行われている。47都道府県中33県に採用されている。
また,通信キャリアが電波の障害などをシミュレーションする電波管理システムでも地図が使われている。あるいは,建設会社やフランチャイズの本部向け出店管理システムにも使われている。セコムや綜合警備保障では,通信指令システムと同様に,基地側にて位置情報を管理している。セコムにはココセコムというシステムがあり,携帯電話で自分の位置を確認することができるが,そこに昭文社の携帯電話用の地図が使われている。携帯端末としても,EZナビウォークなど,au関係で使用されている。

略地図作成アプリケーション

「デフォルメマップ作成ツール」は,日本全国の略地図用のIllustrator形式の印刷データ,インターネット用の画像データを作成するものである。オペレーションは4段階あり,当該となる場所の地図をパソコン上に表示し,図郭取りを行い,編集して保存する。
ユーザが必要な地図を制作するには,情報の変更や,道路を強調するなど,用途やデザイン方針に応じた編集作業が必要であり,そのための編集機能を実装している。色や文字サイズなど,出力イメージを任意にユーザが変更する機能をもっている。Illustratorのソフトがなくても出版用の地図制作ができ,印刷することができる。
このソフトを使ってIllustrator形式で保存した地図は,使用許諾上,紙面での使用サイズを10cm四方に限定するという規則がある。

「デフォルメマップ作成ツール」は,不動産業界や求人雑誌の発行会社など,さまざまな企業に納めている。自動車ディーラーの案内図や宅急便のセンターの場所,また新築マンションなどの折り込みチラシにある案内図などに活用されている。

昭文社が目指すデジタルパブリッシングiMAPの構想と特徴

昭文社は,出版社から情報提供する会社になることを目指している。
インターネット上で無料で地図を見ることができ,簡単にプリントアウトできるとなると,地図出版だけのビジネスは成り立たないという危機感をもっている。その上にかぶせる価値あるコンテンツは何なのかということを模索しながら,情報を集めて提供していく。
出版物は出版物ならではの良さがあり,持っている安心感というものはなくならないだろう。そこをうまく利用しながら,昭文社のメディアミックスのサービスをしていきたい。

2005/12/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会