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2005年の印刷業界を振り返る

微妙な2005年の景気

2005年、日本経済はバブル崩壊の後遺症を脱し新たな成長段階に入り始めたといわれている。負の遺産の整理に目途がつき、GDPが安定成長の軌道に乗り始めたということだけではなく、日本の先端技術や製造業の強みの再認識も背景にある。
印刷業界の景況は微妙である。製版印刷資材の動きを見ると、2003年以降、5%を越える高い伸びを示してきた平版インキの出荷販売量の伸びが2005年度に入って鈍化してきており、印刷用紙の出荷販売量も横ばいでの推移になっている。いままで印刷市場におけるプラス要因であった商業宣伝印刷物市場の伸びに陰りが見える。一方、上場企業の2005年度上期中間決算は全体として売上が1.3%増の増収増益となり、中小印刷業界の売上も、製版印刷資材の動きとは逆に8月以降4ヶ月連続で前年を上回り、2005年度第3四半期までの売上前年比は1.1%増になっている。しかし、これら企業の業績と先の関連資材の逆の動きの理由がはっきりせず景況判断は微妙なところである。
ただし、売上が伸びているといってもいずれも1%強であり、市場から退出していった企業のマイナスを加味した印刷業界全体の出荷額は2005年も前年割れになった可能性は大きい。JAGATとしては▲1〜▲2%と予測している。

縮小の兆しが見えた経済一般と印刷産業の景況と乖離

印刷業界の景気を経済一般から乖離させていた要因の影響力は少しずつ小さくなってきている。
印刷産業全体の出荷額をマイナスに押しやっていたプリプレス工程の売上の減少幅は、CTP の普及がある段階に達して印刷工程の売上増を打ち消すほどのものにはならなりつつある。 価格低下をもたらしてきた供給力過剰だが設備の持ち方に変化が見られ始めたようだ。製品仕様毎に最適な設備を揃えるのではなく、自社の中核となる機能に焦点を合わせた設備を行い、それ以外の仕事は外注に出すことを基本としながら、必要ならば効率如何に関わらず空いている社内の設備で処理するという傾向である。設備価格の低下と人件費削減の方向の中で、個々の機械の効率ではなく全体としての効率を重視する考え方で、事業所数の減少とともに供給力過剰を調整する方向への動きと見ることができる。

限定的だった日本の印刷業界の原材料コストアップ

2005年は、世界規模で原材料価格が上昇し印刷業界でもその影響が見られ始めた。ただし、日本の印刷業界での影響は世界的に見ると限定的であった。米国では、印刷用紙、各種資材が約4%、エネルギーコスト自体が9%程度上昇しているという。英国では、エネルギーコストが倍近くになった印刷会社も出ており大きな問題になっている。欧米に比べて、コスト上昇が限定的であった2005年の日本の印刷業界だが、中長期的には世界の趨勢から外れて推移するわけには行かない。

デジタルネットワーク社会の到来を実感

印刷業界を取り巻く環境の動きとして注目すべきことは、インターネットと携帯といった情報通信のインフラ普及が数年前にある閾値を超えて、幅広い範囲にさまざまな新たな動きを起こしつつことである。デジタルやITに関わる企業が経済、産業の前面に出始め、携帯電を中心に新たなメディアビジネスの動きが加速してきた。インターネットの普及によって通販市場は大きく押し上げられ、インターネット広告は数年で雑誌広告市場を追い抜く勢いで伸び、身近なところではインキジェット対応のはがきが年賀はがきの過半数を超え、インターネットでデータを受信しアルバム製本するサービスが好調といった状況が見られた。
従来からいわれていたデジタルネットワーク社会の到来を実感せざるを得なかった2005年である。

JAGAT会員企業にとっての2005年

ここで、JAGAT会員企業からの2005年の総括と2006年の抱負等について寄せられた声の集約を紹介しよう。
2005年は相変わらず価格低下が続いていた。「『価格破壊』は既に死語と化し05年は前年にも増して受注価格競争が激化、『景気の踊り場』との実感は全く持てない1年」で、「物量は前年と大差なかったが、価格競争が激化しており利益の確保に苦労している」。
需要自体については、「市町村合併と各官庁の予算削減による各種イベント減少等で厳しい営業競争を行った年」、「県庁の電子入札により取引額がゼロになる。市場での価格競争、止まることなくますます激化の一途」など、市町村合併や電子入札施行など官公需の減少を指摘する声が例年以上に目立った。「顧客のニーズの多様化がますます進んだ。そのため社内設備と需要のギャップが拡大している」との声はいままでにないものであった。

一方、2005年が業績面で満足いく年であったとの声が1割あった。「底をつき終わり新しい動きは企業の中で始まってきた感じがする」との声を寄せた企業は、2006年の見通しとして売上4〜6%増、利益も増益としている。「3月以降、主たる得意先からの受注が首都圏、東海地区で大幅に伸びて業績も伸張した」企業もある。2005年は、個人情報保護法施行があり、印刷業界へのプラス面の影響として「BF印刷の下げ止まりが見えた」という企業もあったが、同社でも「受注増は期待ほどでもなかった」という。
分野を問わず、企業の不祥事が続き、従来以上に企業の社会的責任が意識される中で、印刷業界でのISO、Pマーク認証取得などが増えた。この動きは2006年にも続きそうだが、その反面で、「リスク対応に向けての活動時間増大」に困惑している企業も多いのではないだろうか。
設備投資では、競争力強化のためのCTP導入、新市場開拓のためのデジタル印刷機導入などの声が目立った。

2006年の業績については、「増収」との回答が約半数で、減収との回答のほぼ倍あった。目標という意味の回答も含まれているが増収との声は昨年よりも5割程度多くなっている。まだまだ厳しい状況にあるとはいえ、景気回復のプラス面が実感されての結果であろう。ただし、利益に関しては「2005年」と「増加」がほぼ同数で慎重な見方になっている。

施策はさまざまだが、基本は不変

2006年の課題、抱負は当然さまざまだが、直に「コストダウン」と回答した件数はかなり少なくなっている。いままでにできることはかなりやり終えているからだろう。そのような中で、売上の改善と人材育成の取り組みを掲げる企業が多い。
売上改善では、営業力強化といった声はれ以前に比べてかなり少なく、「需要低迷と同業者との競合で大変厳しく、我社が生き残るために他社にない商品を開発したい」、「2005年はモノクロオンデマンド化、デジタル名刺印刷機の増設と大きく設備投資を行い、2006年からの売上アップに向けて準備を行った」、「顧客のクロスメディア・プロモーション・センターとしてのサービス体制確立」、「商品仕入れ販売を中心として事業部を設立し、印刷以外の商品の新規拡大とIT化の推進、生産技術の向上を重点的に行っていく」など、新らたな商品開発、事業分野の開拓などの取り組みに関する声が多いことが今回の特徴である。
人材育成については、「長い将来も存在している企業でありたいため、人材育成、確保、活性化に余力のあるうちに力を入れたい」との声が印象的である。管理体制面では、2006年もISOや個人情報保護関連の認証取得を目指す企業が多いようだ。

2006年における基本スタンスとして、「小さいことをこつこつと積み上げる年」、「これからは地道に一歩一歩気を引き締めて堅実に経営に邁進したい」、「愚直に、愚直に」といった堅実に進めようという声、「想像、創造、そして改革」として改革を掲げる声、あるいは「海外事業への更なるアプローチ。電子メディアコンテンツへの体制強化」など、さらに拡大していこうといった声などがあった。
いずれにしても「時の流れは続いている。1年の区切りで見ずに絶えず自社のあるべき姿を追求し続けるのみ」、「正しいスタンスで最適経営を目指したい」という基本は、どの企業にとっても変わるべきことではないだろう。

2005/12/31 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会