本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

プリンタにおける画像処理技術と色再現の動向

2006年2月2日PAGE2006コンファレンスで開催されたグラフィックストラックの「プリンタにおける画像処理技術と色再現」では,ニコン 映像カンパニー第一開発部 芝崎清茂氏,ヒューレット・パッカード・カンパニー イメージング・プリンティング・グループ 吉田 正氏,ノーリツ鋼機 開発第二部 貴志卓二氏,セイコーエプソン IJP設計部 藤野 真氏にデジタルカメラやプリンタの色再現動向についてお話を伺った。



高品質のデジタルスチルカメラの普及に伴い,広色域の画像データが流通することが多くなった。カメラは「きれい」を追求し,高度な画像処理により印象的な写真を出力している。一方,プリンタは画像解析技術を駆使して,入力される画像データ毎に画像処理を変化させ,最も好印象となるプリントを出力する手法を搭載し,銀塩写真を凌駕する品質を目指している。デジタルデータを中心に,各メーカーによる画像処理技術や色再現の考え方について探っていった。

デジタルカメラについて

2005年のデジタルカメラ一眼レフ市場は400万台と活況であった。高画質を手軽に楽しめる環境になったともいえる。A3サイズを超える大型プリントでも十分な画質を実現する解像度,階調特性,色再現性を持っている。メーカー各社のRAW現像ソフトウェアも充実し,デジタル写真の楽しみをさらに加速している。

入力デバイスの画像特性の3要素は以下のものがある。
・色再現
 選択可能な色再現モード
 人物撮影の肌色や風景撮影の高彩度モードなど
・階調再現
 複数のγカーブによる被写体ごとの最適化
 ワイドダイナミックレンジ化
・精鋭感
 1000万画素を超えるデジタル一眼レフ(低価格化)

また,入力デバイスがデジタルならではの機能として,高画質化や印象的写真表現技術がありその項目は以下のものである。
・ノイズリダクション機能
 高ISO設定時のランダム雑音低減
 長時間露出時の暗電流雑音低減など
・階調圧縮技術
 より写真らしさを目指して,人間の視覚特性に合わせた補正
 印象的な作画
・光学特性補正機能
 周辺光量低下補正,歪補正,色収差補正など,アプリケーションソフトウェアに実装

一方,出力デバイスであるプリンタは,独自に画像処理を行い,デジタルカメラが記録したデータをさらに「きれい」にしている。しかし,以下の問題点もある。
・同じカメラのデータを異なるプリンタで出力すると印象の違ったものになる
・モニタで見る画像とプリントのマッチングが難しい
・カメラで強調された被写体がプリンタでさらに強調されると違和感が生じる
・インクジェットプリンタ出力を印刷の色見本として持ち込む場合の問題点など

インクジェットプリンタの画像処理技術

インクジェットプリンタの画像処理フローをみると,画像処理は基本4機能(自動補正処理,カラーマッチング,セパレーション,ハーフトーニング)に大別され,さらに機体差吸収のための'キャリブレーション'が加わる。
また,顧客のセグメントによって,ニーズならびに対応画像処理機能が異なる。例えば,コンシューマー向け機能では,画像データに依存して補正や強調を行い見栄えを良くする(RGB画像データをR'G'B'画像データに補正・強調処理する)。

これらの背景として,デジタルカメラ撮りおろしデータを忠実にプリントしても,必ずしも「きれい」でない。「きれい」にするには,画像データに応じて補正が必要であり,「簡単」にするには,自動処理が必要である。
また,人物や背景などの絵柄によってプリンタに望まれる処理が異なる。したがって,絵柄の自動的な判別能力の向上が必要になる。⇒人物検出アルゴリズムの導入
一方,ハイエンドの顧客が要求する高い色再現精度を満足する(プリンタのコントロール性能向上の一貫として)目的も必要である。これらに対応するため,顧客の出力環境下における機体の出力特性を基準機体の特性に合わせるための,簡単なカラーキャリブレーションツールもある。

インクジェットプリンタにおける画像処理についてまとめると,以下のようになる。
1.顧客のセグメント・ニーズの分解が進んでいる
2.コンシューマー対象には,「簡単・きれい」実現に向けてのインテリジェント化が重要
3.ハイエンド対象には,プリンタコントロール性能向上が重要

高品質なプリントとは

高品質なプリントとは,どのようなものなのか。
 色がいいの?
 濃度がいいの?
 鮮やかだったらいいの?
プリントメディアの色空間は,自然界の色空間を全て表現できない。
また,画像の評価は人間の視覚特性と個人の嗜好に密接に関係しており,絶対的な評価が難しいとされている。
このような条件で絵作りを極めるための目標立てが最も重要になる。
ノーリツ鋼機では,ミニラボを開発して以来28年間に経験したお客様の声を反映し続けた結果,現在は17項目(階調,コントラスト,シャープ性…総合評価など)で画質を評価している。

この評価方法の中で最大のポイントは,総合評価は他の詳細な評価結果の合計ではないということである。
最も良い画質とは画質形成要素各々が最大値を示すことではなく,シーンによってそのバランスが優れていることが重要である。
したがって,表現方法をかえるともっとも違和感のない画像が最も良い画像であるといえるのではないだろうか。

(PAGE2006コンファレンスD1セッション)

2006/02/16 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会