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顧客の捉え方を変えはじめた顧客

今回のPAGE2006は「メディアを活かすビジネスコーディネーション」を全体テーマに行なったわけだが、その初日を基調講演にあて、A0「コンテンツビジネス戦略の現在」を中心に都合5つのセッションを1日かけて展開した。

メディアビジネスのコーディネーションがきちんとできあがり、それがうまく回るためには、発注側、受注側含めて信頼関係に基づくパートナーシップが必要である。しかし印刷会社の反省として、これまで顧客の考えをきちんと聞いてこなかったということがある。そこで、基調講演A0とB1、B2セッションは、顧客側、コンテンツビジネスのより上流側の戦略を聞き、それを理解することをひとつの目的に組んだ。
中でも、B1セッションは「顧客の考えるメディアの活用価値」と題し、印刷会社の発注側にとってメディアをどのように活かしていきたいのか、その真意を探ってみたいと考え企画した。

そこで、印刷会社への発注側である3氏にご協力いただき、三菱電機121ビジネス推進センター長・西館博章氏にモデレータを、本田技研工業宣伝販促部ホームページ企画BL課長・渡辺春樹氏、翔泳社取締役副社長兼コミュニケーションデザイン局長・篠崎晃一氏にスピーカーをお願いし、2時間のセッションを行ったが今回はそれぞれの個別戦略の部分を報告する。


まず篠崎氏によれば、翔泳社は一般的にコンピュータ関連の出版社と思われているが、出版事業は全体の60%ほど。他にコーポレートサービス事業、ソフトウェア開発事業の2つの事業部門があり、それらに共通するドメインはITである。版元としてのメーカーのスタンス、コーポレートサービスという受託のスタンス、ソフトウェア開発事業というベンチャーのスタンスを持っている。
そしてそもそもは、20年前にマイクロソフトが日本法人を作り、そのマニュアル、パッケージを作ったのが会社のはじまりである。

その中、篠崎氏のコミュニケーションデザイン局は、コーポレートサービスを行なっている。制作会社とか広告代理店の役割で、クライアントに対してセールスプロモーションお中心としたサービス提供をしている。ITという先進的な業界ながら、提供するサービスは実はレガシーなものである。
また、マイクロソフトはじめIT関連の企業からブランド管理を任されている。例えば、ロゴを変更する場合その日本展開のための管理を行なう。
その中でひとつ代表的な例は、マイクロソフトは何年かに一度、OSを改変する。実際、去年の秋、WindowsVISTAを2006年中に出すことを宣言している。するとそれを載せるマシンが開発される。ソフトウエアが開放され、マシンにバンドリングされ、そして一緒に同梱するソフトウェアが、OSを含めて全部パッケージ化される。このようにマイクロソフトがコアになった時に1年間のスケジュールができ、業界ごとに動いていく。そしてブランドもそれに合せてどんどん展開していく。そういう特徴がある業界の中にどっぷり浸かってサービスを20年間続けてきた。

そして、ITによる業界ごとののネットワーク作りやそれに伴い結果がでやすくなる環境の中、サービスの性質がこれから変わってくると考えていると結んだ。


次に渡辺氏は、宣伝販促部を、宣伝はマスで、販促はセールスプロモーションで、カタログからTV広告までみんなやっていると説明。その中、渡辺氏の部署は、社内の数多くの事業部のホームページを統括、運営しており、そのバックエンドで考えていることを述べるとした。
ホンダのWeb戦略には、「関心層」「潜在顧客層」「優良顧客層」という3つの領域に向けた4つの目標がある。「集客」「販売促進」「コミュニティ」「ブランディング」の4つである。

「集客」の目標値は、2010年までに会社のトップページを通過するIPが5,000万人くらいにしたいという考え方。それにより自社のホームページをマスメディアとしたい、ということ。ちなみに現在は3600万人ほどである。
そこで、関心の高い人に情報を渡せる販売促進の仕組みを提供する。メールなどで顧客との長期的な付き合いをしてコミュニティを形成することで、優良顧客がさらに増加する。優良顧客の増加が企業ブランドの価値創造に結び付き、売り上げにつながる。
そのコミュニティ作りのためにも、今53種類、65万人の登録があるメルマガの登録数を100万人くらいにしたい。いずれRSSなどを活用することになるかもしれないが、今はメルマガが有効。

いずれにしてもメディアは将来融合してしまう。これまでマス業界は視聴率、発行部数と言っていたものが、2010年頃には実力ベースで戦う時代が来る。そのためにも少なくともマスメディア系サイトの10分の1くらいの力をつけ、それによってコスト競争力を持とうという目的である。実際今、100万部程度の月刊誌を持っているくらいの力になっている。
そして、購入者の2人に1人はネット利用者で、そのネットのよい点は顧客の関心事が瞬時に理解できることにある、とした。


最後にモデレータであり、システム系のITを専門とする西館氏は「篠崎氏、渡辺氏の話でも顧客の捉え方が変わってきているということが分かる。これはどの業界でも同じで、IT業界でも印刷業界でも、顧客をきちんとみていかなくてはいけないと考えている」というところから話を始めた。

今、顧客との会話がなかなか成り立ちづらくなってきた。にもかかわらず、システムとかコンピュータに携わっている人間は、事業の話しをしたい、端的に売上を上げたい、こういう効率を変えたいというときに「じゃあコンピュータでどうしたいんですか」と聞いてしまう。印刷業も同様で「こんなビジネス、こんなプロモーションをやりたい」というときに「では原稿下さい」と言ってしまう。

当然顧客の先にはビジネスを成り立たせている顧客おり、顧客の欲求のほとんどがコミュニケーション戦略に代表される顧客戦略が主体になってくるだろう。それをマクロで見ると単なるプロモーションだけでなく、当然その前段の戦略をどう組み上げ、IT、Webも関わりながらそれをうまく動かす、そういう中で考えていくことになる。
しかし今までのやり方ではそこに関してはなにも見えてこない状況が発生してしまうと考え、上流へ行こうと決めた。それも、ITのコンサルティングをすることを上流と捉えても、顧客からは、大きく見れば同じIT屋さんでしかない。顧客のターゲットである顧客は誰で何をしなくちゃいけないのかを一緒に考え、事業を一緒に考えていこうと考え、コンサルティングという言葉を廃止した。

今どの企業も困っている。顧客もどうしていいかわからない。以前はプロモーションすれば売上が上がり、システム構築をすればコストが下がった。しかし最近はビジネスが難しく、ちょっとした思い付きで何かが変わるということがなくなってきている。そのため顧客から明確にこうしてくれと言ってもらえなくなっている。
もう1つがビジネスが非常に膨らみ多様化してきたため、顧客がすべての専門性をもてなくなってきた。そこにチャンスがあると思っている。
顧客が1,000社あれば1,000とも違い、同じ流通でも絶対同じビジネスやってないという背景があるので、まず最初に分かりません、一緒に考えさせてくださいというところから入る。その中で自分たちの専門性を活かすことによって顧客のビジネスを少しでも高めることができる活動が見えるのならば、そこを一緒にやっていこうというのがこのビジネスの基本。
しかし、これをやって1つ問題が発生した。このスタンスで顧客のところに行くとシステムではなく、戦略立案、プロモーションの相談がどんどん入ってくる。だがこれを受けなくては顧客との関係が成り立たないと考え、自社だけでなくパートナーシップを活用してやれることはやっていこうというスタンスにした。
その結果、今、実はプロモーション系の売上が半分に膨らんだ。そうすると本当にお客様からのコンタクトが増えた。

最後に、印刷という単体で価値を求めて上に上がろうとしても受け入れてもらえない、ビジネスが拡がらない、さらに最悪のケースは価格をたたかれて、というケースになる。それをトータルな形でやることによって価値が変わってくるということを実感したのである、と結んだ。


この後、ディスカッションが行なわれた。「多様化するニーズに対応するには、特にWebでは「情報の質より量」である」「印刷会社に期待される人的リソースが変わりつつある」「戦略への組み込み方によって印刷物は増える可能性がある」などキーコンセプトが多数だされたが、その報告は場を改めて行なうこととする。

2006/02/20 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会