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印刷会社の総合力が問われるWeb toプリント

印刷物を発注する側である顧客がWebブラウザ上でレイアウトデザインを行い,印刷データを作成して校正までをおこなうという仕組みが,徐々に広まっている。Web toプリントや,オンラインDTP,オンラインパブリッシング,ネットワークパブリッシングなどと呼ばれることもある。

PAGE2006コンファレンス・グラフィックストラック「制作プロセスを変革するWeb toプリント」では,法人向け,企業向けのサービスとして,チラシなど定期的に製作する印刷物のレイアウトと受発注のワークフローの効率化について,議論を行った。


オンラインパブリッシングの可能性

株式会社ディジタルメディアシステム 代表取締役社長 江本 博治 氏

Web toプリント(オンラインパブリッシング)を実現するポイントのひとつは,データベース活用である。ロゴや写真等をデータベースに登録しておき,何度も繰り返し使用できるようにする。また,作成したドキュメントも流用する。
また,Web toプリントとEDI(電子送稿,電子伝票)は非常に密接な関係にある。伝票の電子化と印刷データ作成を連動することで,運用負荷を軽減すると共に,経営戦略や営業戦略を向上させることが重要である。

新聞社向けに,新聞の案内広告をWebブラウザを使った組版指示,印刷データ作成,電子伝票を作成するシステムを構築した。
電子伝票には,広告の申し込み情報として顧客名,掲載期間等を入れる。事前にデータベースに顧客情報が登録されており,データベースからプルダウンして,メニューで見ることができるし,コード番号や管理ナンバーを打ち込んで取り出すこともできる。案内広告を作成する場合は,新規で小組作成をおこなう他,在版を流用することもできる。広告が全てできたら,電子伝票と共に送信し,大組みの工程へと進める。

EDIとWebブラウザでの組版の効果は,コストダウンだけではない。従来は営業が伝票を手書きしていたが,データ入力によって履歴や全体像や明確になり,経営改善の目標が明確になる。広告情報のデータが取れることにより,次の戦略に反映することができる。例えば季節ものの広告なら,どういうジャンルが有望か。自動車の広告なのか,求人広告なのか判断をおこなうことができる。

ネットパブリッシングサービス

凸版印刷株式会社 商印事業本部IT開発本部システム開発部 課長 鈴木 高志 氏

凸版印刷のネットパブリッシングサービスは,ASPで提供する独自開発ソリューションである。顧客が持っているデザインや商品情報等のデータをWebを介してエントリーしてもらう。データベースの中で,商品情報や店舗情報,デザイン,テンプレートを管理する。
Webを介して各エリアの店舗や支店の担当者がアクセスし,印刷データを制作する。プリンタで印字することもあるし,オフセットの大量印刷であれば必要な部数を発注してもらう。顧客側で編集発注を行うので,承認を含めたワークフローを整備することができる。

店舗など顧客側でチラシの紙面を構成する際,まず企画情報を登録する。内容や期日,配布部数などの基本情報が入力される。紙面制作では,基本的なテンプレートがあり,差し替えたい部分の情報を指示する。編集完了というボタンを押すと,PDFを生成し紙面確認ができる。
内容がOKなら企画発注申請をおこなう。承認者の画面に発注申請が送られ,承認者がOKすると正式発注を行う。これらのワークフローは顧客の業態によってさまざまであり,それに併せて機能を開発し提供している。

基本的なレイアウト操作は,テンプレートにしたがってデータベースから情報を流せば,自動的に小組が完成する。たとえば,競合店の動きにより価格を変更したり,目玉商品のレイアウト変更,文字飾りや見出しなども臨機応変に変更することができる。
また履歴として,誰がいつどんな印刷物をどれくらい配布したか基本情報を管理しており,スケジューリング機能もある。
顧客がスキルレスで作業できるようするには,前準備が重要である。選択するデザインパーツは,事前に顧客の校正が済んだ校了データが登録されている。ユーザーマスターや商品マスター,店舗マスター,店舗地図のメンテナンスも重要である。これらの情報を確実にメンテナンスできることが重要である。

さまざまな業界向けに,チラシ戦略支援,DM戦略,POPなどの導入実績がある。印刷会社がこのようなサービスを行うには,顧客ニーズを充分に把握すること,データ管理環境を整備することが必要である。また,完成データのPDFとは言え必ず間違いが起こる。それに対する差し戻しや修正に対応する必要もある。品質管理としてカラー管理,ユーザーサポート体制の整備,情報セキュリティなども重要である。

ネットパブリッシングサービスは,2000年からサービスを開始した。最初は導入コストがかかっていたが,コンピュータの性能・機能がアップし操作性も向上させることができた。今後はライセンス体系を整備し,システムサポート・運営サポート・マーケティングサポートを充実させていく。

DNPカスタムドキュメントサービス

大日本印刷株式会社 C&I事業部 IT開発本部第三開発室 室長 福室 淳宏 氏

2001年から,DNPカスタムドキュメントサービスを行っている。顧客がWebブラウザから簡単な指示で販促ツールを作成し,必要部数に応じて手元で印刷したり,大部数の印刷発注をおこなうシステムである。オリジナル個店チラシ,POP,DM,各店舗・地域の販促ツールなどが制作されている。ASPサービスとして提供している。

準備工程として,テンプレートデザインと商品カセットをDNP側で作成し,サーバに登録しておく。販促ツールを作成する顧客の担当者がサーバにアクセスし,レイアウト指示を行う。完成したドキュメントはPDFに変換される。店舗のプリンタでPDFをプリントアウトして内容を確認し,大量部数の場合は内容確認して印刷発注をする。DNPでデータを受け付けて印刷し,指定された場所に納品するという流れとなる。

特長として,Webブラウザだけで簡単な操作により販促ツールを作成することができる。テンプレートはプロのデザイナーが作成しており,本部のブランド戦略と地域の戦略を加味した販促ツールを作成することができる。従来は各店舗ごとに制作,発注,納期管理を行っていたものを,本部が全体を統括し適切なコスト管理を行うことができる。

主な適用業務には,オリジナル個店チラシがある。競合店の状況や顧客特性や地域特性を考慮し店舗ごとに販促ツールを作成する。店舗側で部数,折込場所,納入場所等を指定し発注申請をおこなう。本部で発注内容を確認し許可すると,正式発注となる。
従来の個店チラシでは,印刷会社の営業が各店舗からFax等を受け,それを整理加工して製造部門に渡していた。このシステムにより,印刷会社の作業も効率化されている。

最新版では,顧客側の管理者が素材などを登録できる機能,Excelデータの取り込み機能,文字や画像の拡縮回転や文字飾り機能,修正のためのEPS出力を追加している。さらに掲載商品の履歴や販売実績データを元に販促効果の分析等にもトライしていきたい。


Web toプリントは,考えていた以上に印刷会社の総合力が問われるシステムである。
組版レイアウトはもちろん,データベース構築やセキュリティ管理,得意先のワークフローを熟知しているか,コンテンツ管理をいかに維持するか,カラーなど印刷物の品質管理,ユーザサポート体制など,重要なテーマが満載である。さらに最も重要なのが,得意先の要求に応えたワークフロー効率化やマーケティング支援の実現である。
継続的な印刷物を受注するには,このような総合力で得意先をサポートすることが必要になってきたことを強く印象づけられた。

2006/02/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会