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第1期クロスメディアエキスパート認証試験を終えて

200名を超える第1回試験の受験者
JAGATは,2006年3月26日,第1回クロスメディアエキスパート認証試験を桐杏学園(東京,池袋)で開催した。
クロスメディアエキスパート認証制度は,メディア制作のディレクターが必要な知識や提案力を問う資格試験である。第1部の学科試験と第2部の論述試験を,それぞれ2時間で解く。
学科試験は,メディア概論,IT概論,経営概論,クロスメディア,ネットワークとデータベース,デジタルコンテンツという6つの分野の知識を問う問題がマークシート形式で出題された。論述試験では,多様なメディアを活用した提案書を筆記するという問題が出題された。
試験の申し込み者数は223名,実際に受験した人の数は204名であった。

求められるメディア制作のディレクター
JAGATでは,クロスメディアエキスパート認証制度の準備を,専門家の方々に意見を伺いながら約4年掛けて進めてきた。制作の現場に近い担当者と話をすると,デジタルメディアの制作ディレクターが足りないという声が多い。
DTPエキスパート認証制度は,DTPの制作環境で,統合的に進行状況を把握できるディレクターの育成を目指した。
クロスメディアエキスパート認証制度は,効果的にメディアを組み合わせ,効率的な作業フローで制作進行が可能なメディア制作ディレクターの育成を目指している。
特にデジタルメディアは,さまざまな業界が参入しており,技術の進化も早い。広範な知識と提案力が他社と差別化するための鍵となる。

数と量の学科試験
JAGATでは,公表した6分野から基本的な知識を問う問題を中心に,学科試験を構成した。しかし,範囲が広い上に,過去問題や試験対策のテキストなどの情報がない状況での受験となり,「基礎的な」というレベルをどこに設定するかが受験生にとって最も難しい部分であった。
クロスメディアエキスパート認証試験の学科問題には,問題数が多い,問題の文章が長いという2つの特徴がある。
学科試験の問題数は120分間で,49問(その中の設問は213個)を解答する。分からない問題にじっくり取り組むのではなく,解ける問題からどんどん進めていかなければならない。
問題の文章が長いのは,解説する文章が多く,知識だけでなく判断力も問う問題となっているためである。一般の資格試験では,数行の問題を読み,反射的に回答群から答えを選ぶというケースが多い。クロスメディアエキスパート認証試験の問題は,テーマごとに動向や解説を盛り込んでおり,知識や記憶力を問うだけではなく,試験を受けること自体が勉強になるような内容を目指している。
特に,文章を読んで,判断力を問う問題については,今後ますます重点を置く方向にある。
今回の学科試験では,「メディア概論」「ネットワークとデータベース」の正解率が低かった。
メディア概論において代表的な問題は,2005年度の「日本の広告費」と「マスメディアの市場規模」が関連付けられた問題である。ビジネスをする上で,市場のトレンドを把握することは欠かせない。最新の数字に敏感であることが必要である。この各メディアの市場規模や広告費の規模に関する問題は,会場で時間を掛けて解いている人が多く,解答率も悪かった。
「ネットワークとデータベース」の知識は,デジタルコンテンツを効率的に処理するためには欠かせない。このため,ほかの分野と比べるとやや問題数が多い。ネットワークやデータ管理では, WWW登場の背景やHTML4.01の基本的要素,XMLの表記,OSI参照モデルなどについて出題された。コンテンツを効率的に活用するために重要なメタデータの動向,各業界のXML標準の動向も盛り込まれた。何となく単語は知っているが,その基本的な意味や目的などの理解があいまいな場合は難しく感じる問題である。

論述試験では筋道を立てて
論述試験は,「顧客の現状を理解して,課題を解決するために,多様なメディアを活用したソリューション提案」を解答用紙に記載する。
問題として配布された資料は,(1)顧客の状況を説明した資料,(2)顧客の現状のWebサイトと関連のサイト,(3)設問5問の答えを記入するための解答用紙(罫線付き),(4)メモ用の白紙の4種類である。
問題の状況設定は「これまで印刷物を受注していた顧客の製造業者が,卸売業者を対象とするだけでなく,個人の市場も力を入れていきたい。わが社は,その顧客に対し,デジタルメディアを活用して,どのような施策を取ればよいのかを提案する」という内容である。受験者はわが社の担当者となって解答する。
採点では,顧客の問題と解決すべき課題を正確に理解しているかどうか。筋道を通して,具体的な提案をしているかどうかを基準にした。
設問は次のとおり。

 問1:顧客が抱える問題は何か。
 問2:顧客の問題に対して,改善点を3つ以上挙げなさい。
 問3:顧客の改善のために,メディアを使ってできそうなことを3つ以上挙げなさい。
 問4:問3の改善案から,提案すべきことと,わが社は何のためにそうするのかを記入しなさい。
 問5:わが社が提供できることを提案書としてまとめなさい。

今回の最も顕著な傾向として,提案をした経験のある人が少なかった,ということがうかがえる。
問題には「顧客へ提出するための提案書の骨子を作る」という指示があり,先方へのプレゼンテーションの下書きを作成する。そのため,(1)拝啓から始まる手紙形式の文章,(2)タイトルや見出しがないなど,様式が提案書でないものは×となる。また,(3)メリットが書かれていない,(4)提案する内容が単語だけで具体性がないといった提案を受ける人にアピールしないものも×となる。
問5の合否基準として,何を提案したいのか,だれに提案するのか,何を何のために提案するのか,いつ行うのか,どのように行うのかを把握しているかどうかについて書くことが求められる。特に問5は,提案書に近いものを書くことになるので,採点の際には最も重点が置かれる。
時間が限られているため,問1から問4で問われる顧客の問題や課題の把握,提案例などは簡潔に解答したほうがよい。しかし,最終的に提案をするためには,これらを考えることは,重要なプロセスとなる。それぞれをきちんと理解していないと,最後の問5を適切に解答することは難しい。
記述形式の試験の解答用紙は分かりやすく,丁寧に書くことが基本である。誤字脱字をしないのはもちろん,誤字脱字を恐れてひらがなを多用しない。また,訂正するために,塗りつぶしたり,バツをしたりしない。他人が見ることを想定して,奇麗な文書の作成を心がけける。

今後の試験
デジタルメディアを設計する立場は,印刷会社やWeb制作会社だけでなく,企業の広報などさまざまである。このため,今後,クロスメディアエキスパート認証制度の論述試験の状況設定や立場,問題形式,解答用紙のフォーマットは,変わる可能性がある。しかし,問題点を把握してメディアを使った解決策を考えるという点は変わらない。

 

 
JAGAT info 2006年5月号

 
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2006/05/06 00:00:00


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