「マーケティング近視眼」を再読する

掲載日:2016年2月25日

T.レビットの論文「マーケティング近視眼」(1960)には、製品中心ではなく顧客中心でなければ産業は衰退すると書かれている。

製品中心ではなく顧客中心

page2016初日の基調講演に立った庭山一郎氏(シンフォニーマーケティング)は、最も尊敬しているマーケティング学者として、フィリップ・コトラーでもデヴィット・アーカーでもなく、1960年に論文「マーケティング近視眼」を著したセオドア・レビットを挙げた。同論文は『T.レビット マーケティング論』(ダイヤモンド社)の第1章に収録されているので、興味のある方はぜひお読みいただきたい。

同論文では鉄道会社や映画会社など、アメリカで繁栄を謳歌しながら衰退していった産業について分析している。例えば鉄道会社では、自らを「鉄道業」と定義して「輸送業」と定義しなかったために、後にバス会社や航空会社によって脇に追いやられてしまった。庭山氏は「鉄道会社が自社を輸送業と定義していたら、今ごろはフェデックス(物流大手)になっていたかもしれないし、バス運送大手になっていたかもしれない」と指摘する。
レビットは鉄道会社が自社の定義を誤った理由を、「顧客中心でなく、製品中心に考えてしまったのだ」と指摘している。そしてすべての産業活動は「製品を生産するプロセスではなく、顧客を満足させるプロセスであることを、すべてのビジネスマンは理解しなければならない」と警鐘した。
製品中心ではなく、顧客中心に考えること。これは印刷産業にとっても非常に示唆的である。印刷会社は「販促物」という製品を生産する会社ではなく、「販促支援」を顧客に提供する会社と定義することが大事だ

これはアメリカでは広く認識されており、販促支援を目的とした会社を「マーケティング・サービス・プロバイダー(MSP)」と呼び、印刷製造を主体とする「プリント・サービス・プロバイダー(PSP)」と明確に区別している。

しかしながら、議論には続きがあるように思える。日本の鉄道会社を見れば明白だ。自らを「輸送業」と定義したのみならず、「開発業」(ディベロッパー)、「テナント業」、乗車券を始点とする「カード事業」、車内や駅の空間を広告スペースとする「広告代理店業」とも定義した。その結果、駅ビルのデパートが繁盛し、SUICAが決済で幅広く使われ、車内の「トレイン・チャンネル」が多くの乗客に見られている。

定義によって広がる印刷会社の可能性

さて、印刷業である。商業印刷会社がマーケティング支援業に再定義するのは自然の流れであると考える。印刷物にこだわらず、幅広く企業の販促を支援しようと考えることで、ビジネスをWebやデジタルサイネージに広げることもできるし、CIやイベント業にも進出できる。
ただ、マーケティング支援に限定する必要はない。その代表例がBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)である。ビジネスフォーム業界がBPOを取り込めたのは、自らを業務用品の生産と定義せずに、業務効率化支援と定義したからに他ならない。
そう考えると、あらゆる可能性が出てくると思われる。コンテンツ業と考えればエンターテインメント業に進出できるし、データを扱う会社と考えればデータハンドリングを武器とした何らかの事業を立ち上げられるかもしれないし、地域活性化業と考えればイベントやカルチャースクールを立ち上げることができるかもしれない。
すべては製品中心ではなく、顧客中心の中にある。

(JAGAT研究調査部 光山 忠良)