デジタル印刷が拓いたライト出版の拡大

掲載日:2020年1月30日

page2020の二日目に基調講演として、「ライト出版市場の誕生と広がり」を開催する。 今回はライト出版の魅力、ビジネスとしての可能性について考える。

ライト出版が生み出す新たな印刷需要

同人誌と正規出版の間に新しい市場が拡大している。JAGATでは、このような領域をライト出版と呼び、注目している。

ライト出版では基本的に正規の出版社を通すことなく、書き手が自ら印刷会社に入稿、印刷し、会場で読者と対面しながら売っていく。こういった即売会自体は、コミックマーケットなどが有名だが、近年ではより幅広い様々なジャンルで即売会が行われるようになり、独自の市場を形成し始めている。

コミックマーケットの場合、扱っているコンテンツが趣味的なものが多く、同じ趣味を共有するもの同士が集まって活発な交流が行われている。対して、ライト出版では、より書き手の体験、スキルに根差した本が多い。コンテンツが変わればコミュニティの在り方も変わる。コミュニティそれぞれの違いがイベントの魅力となり、持続的に成長する原動力となっている。書店が減少する一方で増え続けているライト出版のコミュニティは、今後大きな市場を形成する可能性を持っている。

有力ライト出版の特色、利用のされ方

〈文学フリマ〉

ライト出版のパイオニアであり、文学をメインに扱う文学フリマは地域性の強いイベントとして知られている。100都市構想というもの掲げており、現在は札幌から福岡まで全国各地の8都市で毎年イベントが開催されている。

即売会のイベントは首都圏で行われることがほとんどだが、文学のコミュニティは全国にあり、どの地域で開催してもある程度の人数を集められる。一方、遠方からの参加者にとっても、宮沢賢治の縁の地を訪ねるなど、各地域の名所を回る楽しみがあり、一種のコンテンツツーリズムになっている面もある。

文学が長い歴史を持ち、様々な地域を舞台にしてきたからこそ生まれる裾野の広さ、豊かさが魅力となっている。

〈技術書典〉

技術書典は技術書を扱う即売会であり、急拡大している注目のコミュニティである。技術書の即売会が大きく成長した理由はいくつかある。技術書典で盛んに売買されている技術書は内容が専門的であり、正規出版で行うには想定できる部数が足りない場合が多い。また、技術は移り変わりが早いため、正規出版では間に合わない場合もある。また、出版社の本では、内容の間違いは大きな問題になるが、技術書典には間違える可能性を許すような、良い意味での緩さがあり、その分鮮度の高い情報が集まっている。こういった、正規出版にはない特徴が人を集める理由となっている。

技術書典では買い手よりも売り手の年齢が高い傾向がある。新しい分野に挑む若手が勉強に来ているのである。元々技術者のコミュニティでは勉強会が盛んに開催されており、先輩が後輩を教えるような文化がある。そのようなコミュニティの助け合いが本を介して行われている。技術書典は得難い役割を果たしているようである。

〈ビズケット〉

ビズケットはビジネス書を売買するライト出版のコミュニティである。ビズケットではなるべく薄い冊子を推奨している。ビジネス書では、本当は20ページあれば伝えられる内容だが、本の体裁にするために200ページ書いているという状況が度々ある。非正規の出版という特徴を活かし、短くても内容の詰まった冊子が売買されている。

 ビズケットは、参加者がビジネス目的で来場すること大きな特徴である。そのため、名刺交換も頻繁に行われる。ここからビジネスが始まる場合も多く、販売している冊子を自己紹介代わりにし、新しい仕事始まることもある。今後、飛躍が期待されるコミュニティである。

印刷会社の関わり方

page2020のカンファレンスでは、文学フリマ、技術書典、ビズケット、それぞれの運営者が実情と可能性を議論する。既存の出版は厳しい局面が続いているが、出版市場を支えていくためには本の書き手を支えていくことが第一である。既成概念にとらわれず、様々なアプローチを検討していきたい。

(JAGAT 研究調査部 松永寛和)

関連カンファレンス

2月6日(木) 10:00~12:00

【基調講演2】ライト出版市場の誕生と広がり ~縮小する既存出版の外側で膨らむ市場とどう向き合うか~