withコロナ時代のビジネス最適化とサービスデザイン

掲載日:2020年10月12日

よい”体験”を具現化しビジネスとして継続的に提供する方法として、「サービスデザイン」が注目を集めている。withコロナ時代のサービス設計・業務フロー再構築にあたっての基本スキルになるか?

サービスデザインとは、「顧客にとっての望ましい連続的な体験を提供するための仕組みとして”サービス”を構想し、実現するための方法論」(「サービスイノベーションを加速するサービスデザイン入門」より)である。

2019年12月、経済産業省において「サービスデザイン研究会」が発足した。商取引・サービス環境の適正化に向けて、サービスデザインの効果的な導入および実践の調査研究を目的に、大学、広告代理店、デザイン会社、印刷会社等の研究員により構成された研究会である。2020年3月には、「我が国におけるサービスデザインの効果的な導⼊及び実践の 在り⽅に関する調査研究報告書」を発表している。

以降各企業において、サービスデザイン人材の拡充施策の発表が相次いでいる。

(株)NTTデータは2020年6月、サービスデザイン事業をグローバルに展開していくことを目的に、デザイナー人材を700人規模で拡充する方針を発表した。

また富士通(株)は2020年7月、デザイン思考を取り入れた営業人材を3年間で1000人育成する計画として、新サービス・プロダクトの開発プロジェクトに営業職が加わり、デザイン思考の知見を学ぶことを発表している。

これらは主にプロダクト開発、システム構築を前提としていると思われるが、サービスデザインは生活者向けサービスにも関連するところが大きい。コロナ禍をきっかけに行政のデジタル化についての関心がさらに高まっているが、電子国家として知られるエストニアでは、行政手続きや都市計画などにおいて、サービスデザイン視点が社会インフラの基盤となっているという。

コロナにより社会のリモート化が進み、事業のありかたやサービスの提供方法が大きく変わることにより、日本国内でもあらゆる場面でサービスデザインという視座が重要になることが予想される。

なぜサービスデザインが注目され始めたか

根底には、商品の価値そのものを中心に据えた経済活動から、商品自体の差別化ではなく商品を使用することによって得られる利用価値、体験価値を第一に捉える経済活動が重視されるようになったビジネス環境の変化がある。経済産業省発表の資料「サービスイノベーションを加速するサービスデザイン入門」では、「ビジネスを“サービス”として再定義し、一連の顧客体験を望ましいものとするために、“モノ”と“コト”を結合した“サービス”をデザインすることが求められている」としている。

社会のデジタル化とともに商品・サービスを利用する文脈、ユーザーの購買行動「カスタマージャーニー」は変化した。コロナはこの“旅”の変化をデジタルツールに習熟した特定層に限定せず、あらゆる層のユーザーにわたって半ば強制的に促し、社会全体の動線に地殻変動を与えつつある。

「とりあえずオンライン化」からビジネスの最適化へ

コロナ禍において、緊急のテレワーク化に迫られ、各種業務のオンライン化、デジタル化が進んだ。

対顧客業務では、オンライン受注~サポート、オンライン商談、受発注関連書類のデジタル化はほぼ常識的に求められ、社内業務では、テレワーク環境の整備、バックオフィス業務のオンライン化、社内コミュニケーションツールの導入などが図られるとともに、急速に定着に向かっている。まずはプロセスのデジタル化、オンライン化ということで、環境や各種ツールの使いこなしが緊急課題となってきたためだ。

コロナと共存する社会では、安全への配慮を行いながらコロナ以前のサービス形態をとる業務、リモート化の利点が勝る業務など様々あり、それらを整理し捉えなおす必要がある。「アナログ、リアル→デジタル、オンラインの置き換え」から、「業務全体の最適化」のためのフロー構築、さらにはビジネスの再定義を含めた商品・サービス設計(再構築)に向かわざるを得ない。このとき、ビジネスを取り巻く生態系を包括的に捉える「サービスデザイン」視点は重要なポイントとなるのではないだろうか。

ビジネスの最上流工程に求められる視点として特定の業務領域の人材に関心を寄せられてきた感のあるサービスデザインは、今や社内外を含めたあらゆる工程にわたる基本スキルとなる可能性も秘めている。

(JAGAT研究調査部 丹羽 朋子)