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企業の将来を担う次世代リーダーの育成

組織のリーダーや中堅社員には、担当業務に加え、後輩の指導育成やトラブル回避などの問題解決力など、チーム全体を見渡した管理能力が求められます。彼らの活躍が、今後の企業の発展には欠かせない要素であるため、個々の能力を高めていくことが重要です。
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消費者ニーズを掘り起こしたウェアラブルメモ「wemo」

工業用粘着テープなど機能性フィルムのメーカーである株式会社コスモテックは、2017年にウェアラブルメモ「wemo(ウェモ)」を発売して、現場最前線で働く人々を中心にユーザーを増やしている。第27回日本文具大賞で機能部門の優秀賞を受賞し、第29回 国際 文具・紙製品展 ISOT(2018年7月4日(水)〜6日(金)/東京ビッグサイト)の初日に表彰を受けた。

2018年 国際 文具・紙製品展 ISOT 展示

▲2018年開催 第29回 国際 文具・紙製品展 ISOTの展示

「wemo」は「いつでも どこでも かける おもいだせる」を謳った、身に付けるメモだ。
現在販売されているのは、シリコンバンド型の「消せる」タイプ。細長い板を腕に当てて巻きつけるとバンド状になる。バンドの表面に特殊なコーティングを施すことにより、油性ボールペンで直接書き込むことができ、消しゴムや指でこすることで消せる。手軽に書ける上、何度でも使えるのが魅力だ。

wemo 消せるタイプ

▲「消せる」タイプのwemo(ISOT展示会場にて)

アワード受賞をきっかけに事業展開

開発のきっかけは2016年、コスモテックが東京都主催の事業提案コンペティション「東京ビジネスデザインアワード(TBDA)」に参加したこと。この時にテーマとしたのは自社独自の「肌用感圧型転写シール技術」。従来の転写シールは一旦水に浸す必要があったが、「肌用感圧型転写シール技術」は圧をかけることで絵柄を対象に貼り付けることができ、ファンデーションテープやタトゥーシールなどに応用されていた。
このテーマに対して、ビジネスコンサルティング会社 kenma inc.の今井 裕平氏、林 雄三氏、木村 美智子氏が「肌に貼って直接書けるメモシール」を提案し、見事優秀賞を獲得した。

コスモテックとkenma inc.は、受賞後も事業展開の方向を模索し続けた。

開発当初想定していたユーザーは、仕事中、手にメモをすることが多いという看護師たちだった。彼らにヒアリングし、試作品をテストしてもらいながら、製品の完成度を高めていったのである。

その一方で看護師以外にも、農家など、メモ帳やモバイル端末を頻繁に取り出すことができない現場で働く人たちがいることに気づき、ユーザーの対象を広げていった。

現在は医療、介護、保育、農業、施設運営、旅行、スポーツなど幅広い分野で活用されている。そのほか、ADHD患者など、記憶することにストレスを感じる方々にも愛用されているという。

製品の形も、TBDA受賞時は、手に貼り付けるシールタイプだったが、もっとビジネス展開できる素材を模索する中で、シリコンバンドのアイデアが浮かび、「消せる」タイプを商品化することになった。

製品開発と同時に販路開拓も進めた。2017年に第28回 国際 文具・紙製品展ISOT、病院/福祉設備機器の専門展示会 HOSPEX japan 2017に出展し、テレビキー局をはじめ、新聞、雑誌などのメディアに取り上げられることで次第に知名度を上げていった。

ラインアップの拡充を図る

「消せる」タイプは2017年11月にAmazonで販売を開始し、現在は東急ハンズ、ヨドバシカメラ、ビックカメラでも扱っている。今週以降、以下のタイプを順次発売予定だという。
・「貼れる」タイプ:「消せる」タイプに転写シールを貼って書き込む
・「隠せる」タイプ:転写シールを直接肌に貼って、目立たないようにできる
・「パッド」タイプ:シリコン製で裏面が吸着シートになっている
・「ケース」タイプ:シリコン製で、スマートフォンやタブレット端末のケースとして使える

wemo パッドタイプ

▲左:「パッド」タイプ 右:「ケース」タイプ(ISOT展示会場にて)

kenma inc.でコンサルティングディレクターを務める今井氏は、肌用感圧型転写シール技術の用途開発に当たり、事業戦略の観点から「ファッションよりファンクション(機能)」で勝負したいと考えたという。

*今井氏は、JAGATの印刷総合研究会「ビジネスをデザインする―新しい価値を生み出す思考法」(2018年10月19日開催)、「デザインの力でBtoC市場に挑む―自社技術の用途開発で新たな顧客と出会う道筋」(2019年3月13日開催)に登壇し、wemo開発の過程についてもお話しをいただいた

従来はファッション用途に使われることが多かったこの技術は、wemoによって新たな用途が見出され、マーケットも広がっている。

自社技術の活用と消費者ニーズの掘り起こしがうまく一致したこと、メディアを活用して販路を拓いたことなど、ものづくり企業の今後の発展方向を示唆する事例だといえる。
今後の展開に注目したい。

*初出:「紙とデジタルと私たち」2018年7月24日

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

本造りの技から生まれたジュエリーブランド ikue

株式会社TANT有限会社篠原紙工は、2018年に紙と金のジュエリーブランドikue(イクエ)を立ち上げ、ファッション感度の高い層を狙ったニッチなブランドを目指している。その開発過程と今後の展開について紹介する。

インテリアライフスタイルに出展したikue

▲2018年開催の国際見本市「インテリア ライフスタイル」より

古来の製本加工技術を応用

ikueは製本加工技術を応用して作られたアクセサリーである。重ねた紙の断面に金箔を施し、型抜き、糊付け、組み立ての工程を経て仕上げられる。

現在開発されているアイテムはピアスとイヤリング。その外観は貴金属を思わせる硬質でシャープなものであるが、触れてみると紙ならではのしなやかさがある。見た目のボリュームから想像するよりも重量は軽く、着けた時の負担が少ない。

また、紙の地色を生かして繊細な色が表現できることも特徴の一つだ。使用している紙の銘柄は現在のところ竹尾のサガンGA・ジェラードGA・タントで、色の組み合わせはダーク、ホワイトのほか、鮮やかなグラデーションのラインアップもある。

通常の紙製品より長期使用に耐える工夫もなされている。もともとikueは書物を保護するために天・地・小口の三方に金箔を貼る「三方金」と呼ばれる技術からインスピレーションを受けて開発されており、さらに耐水加工が施されている。

つけ心地が軽やかで、紙と箔の色の組み合わせによって印象が大きく変わる。ターゲット層は幅広く、普段づかいより少しドレスアップしたい場面での着用を想定している。

美しさと強度を追求

ikueはデザインオフィスのTANTと製本会社の篠原紙工による共同プロジェクトで開発された。

左から原田 元輝氏、篠原 慶丞氏、横山 徳氏

▲「インテリア ライフスタイル」に出展したikueのブランドメンバー。
左から原田 元輝氏、篠原 慶丞氏、横山 徳氏

TANTはプロダクトデザイナー原田元輝氏とアートディレクター横山徳氏によるユニットだ。もともとはフリーランスで活動していた両氏だが、2016年に東京都主催の事業提案コンペティション「東京ビジネスデザインアワード」に共同で参加し、ikueのベースとなる提案で最優秀賞を獲得した。2人は2017年4月に同社を設立し、原田氏がプロダクトデザインを、横山氏は使用する紙の選定やプロモーションツールの作成を主に担当し、事業化を進めていった。

篠原紙工は技術と提案力で定評がある製本会社である。同社バインディングディレクターの篠原慶丞氏は、品質を保ちながらも効率的な製造方法を確立するために、課題を一つひとつクリアしていった。

ikueの形状は書物が基本となるため、製造には従来の製本加工の設備と技術を使用している。とはいえアクセサリーの製造は本作りにはない困難さがあった。

まず身体に長時間触れる上、長期にわたって繰り返し使用するものであることから、耐久性・耐水性・安全性が保障されなくてはならない。また滑らな表面を作るため、紙の束を360度均一に開く必要があった。

耐久性の点では、束ねた紙の端を接着する糊が決め手であり、さまざまな種類をテストしてPURにたどり着く。PURは接着力が強く経年劣化も少なく、塗布量が少なくてすむので紙の開きが良い。
耐水材についてもテストし、耐水・耐油性に優れ、人体への影響も少ないフッ素コーティング剤を採用することになった。

製造工程ではサイズが極小なので、従来の機械を使いながらもより繊細な技術が要求された。特に最後の組み立ては、一つひとつ人の手で行っている。

ikueの構造

▲「インテリア ライフスタイル」展示より
左:耐水性を示す展示。開発過程では密封された空間で蒸気を当て続ける実験を行い、撥水・撥油・防水・防湿・防汚に優れ、かつ人体への影響が少ないフッ素コーティング剤を採用した
中:天金(三方金)を施した紙。ブロック状に断裁した紙の束の断面を削り平坦にすることで、金の付着強度が増し、かすれのない滑らかな表面を作ることができる
右:型抜き、糊付けされたikueの原型。これを360度開き、金具を取り付けてピアスを完成させる。PUR糊を使用しているため強度がある上、紙が均一に開き美しい外観を作る

SNSと展示会で販路を開拓

商品としての完成度を高めると同時に、販路開拓も進めている。2018年1月にWebサイトをオープン、Facebookインスタグラムとも連動し、横山氏のアートディレクションによるスタイリッシュなビジュアルが展開され、都会的で高級感のあるブランドイメージが作られている。

2018年1月にフランス・パリで行われた欧州最大級のインテリア&デザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」、同年5月30日〜6月1日に東京ビッグサイトで行われたインテリア・デザイン市場のための国際見本市「インテリア ライフスタイル」に出展、いずれも多数の来場を得、紙をジュエリーにするアイデアと繊細な和のイメージが好評価を得た。

参考記事:国際見本市「インテリア ライフスタイル」で見つけた紙ものたち

また「婦人画報」2018年7月号では表紙と特集ページのスタイリングで起用されている。
ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館などのミュージアムショップ、国内のポップアップショプで販売するほか、ブランドサイトでのオンライン販売も行っている。

今後はファッション感度の高い層に向けてプロモーションを行っていく。ピアスの次はリングをリリースする予定で、メンズ分野でカフスなどの開発も目指す。

「ikue」のネーミングには、紙が幾重にも重なる様と同時に、時代を重ねてきた技術への敬意とその継承発展など、重複した意味合いが込められている。原田氏と横山氏は、プロジェクトを通じて実感した匠の技の魅力、そして紙製品が持つ多彩な可能性を伝えていきたいと語る。
ikueのプロジェクトはこれからが勝負といえる。印刷・製本業界が事業展開していく方向の一つを示す事例として、着実に実績を重ねていってほしい。

*初出:「JAGAT info」2018年7月号/「紙とデジタルと私たち」2018年7月20日

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)