印刷ビジネスを担う未来の人材に向けたメッセージ JAGAT専務理事 郡司秀明

印刷ビジネスの可能性を広げるDTPエキスパート

印刷人材の育成プログラムとして29年目を迎えるDTPエキスパート認証制度は、印刷ビジネスの変化とともに内容の検討・改革を続け現在に至っている。

例えば2020年3月試験より、学科試験による「DTPエキスパート認証」と、学科・実技試験による「DTPエキスパート・マイスター認証」の2段階制へと移行した。

「創注」を実現する人材

インターネットの発展とともに、今までは大量生産によって多くの人々に高品質な情報を一律に届ける役割を担ってきた印刷物は、変化を迫られている。

価値観が多様化し小ロット化が進む中で印刷会社(業界)が生き残っていくために、特色ある「創注」(注文を作り出すこと、注文が取れる環境づくりまで含む)が急務となっている。

印刷発注者が望むこと、例えば「商品・サービスの売上向上」「ブランドイメージの向上」といった目的に対し、どれだけ効果をもたらせるかという視点が重要になる。いかに結果に、売上増に結びつくかということが重要なのだ。

営業力の強化がカギ

「創注」には、営業力の強化が最大の課題だ。従来の印刷受注は、顧客が印刷物で何を実現したいかという常識的なイメージで印刷受発注が行われてきた。インターネットが登場するまでは、印刷メディアは情報メディアの中でNo.1の座に君臨し続けてきた。TVの登場後も主要メディアであることは変わりなかった。

しかし、インターネットがビジネスや生活の中心となった現在、顧客がその目的を達成するための手段を選ぶ過程で印刷が選ばれる領域が狭まってしまった。印刷メディアが唯一絶対のメディアでは無く、インターネットをはじめとしたデジタルメディアと共存しなくてはいけなくなっているのだ。

顧客の目的・要望をつかみ、それを印刷物でどのように実現できるかを提案して受注に結び付ける、あるいは顧客自身も自覚していない潜在需要を喚起する、そうした取り組みによって受注の幅を広げていく必要がある。

印刷メディアも常に時代とともに変革していく必要がある。かつて無敵を誇ったTVCMが、現在はテレビ技術がデジタルになっても、旧いアナログメディアとして扱われている。しかし、印刷メディアはデジタル印刷をフル活用すれば、デジタルメディアとして通用する可能性を多く秘めている。

DTPエキスパート認証制度は、そんなインターネット時代にも通用する制度であり続けるために変革し続けている。DTPエキスパート認証試験を通じてデジタル知識やデジタルセンスを磨いていただきたい。

また、デジタルになるとデータ流用が増える。データをフル活用して印刷以外のメディアに展開することも日常化している。従来にも増して、顧客との接点となる営業人材には、印刷、制作データの取り扱いからマーケティングまで、幅広い知識が求められている。

目的の実現に向けて必須となるデザイン力

顧客の目的・要望を実現する手法である「デザイン力」は必須だ。

破綻のない「ちゃんとしたチラシ」というだけではなく、商品やサービスの魅力が文字でもビジュアルでも明確に伝わってくるような印刷物(パンフレット)でなければいけない。そのような印刷物なら商品を購入しようという動機に応えられるはずだ。

これからの制作人材にとって、一定の品質を満たした正しいデータを制作するためのルールやテクニックが必須であることには変わりはない。ただしこうしたオペレーション関連の専門領域スキルは、DTP運用の安定化とともにコモディティ化し、それだけでメディア制作市場で生き残っていくのは難しい。

様々な要素を用いて情報を効果的にデザインし伝える力を高めていくことで、印刷物に求められている「メディアの効果」に寄与することができる。さらに、Webや動画などのデータの扱いにも精通してハンドリングすることで、ビジネスの幅を広げていく可能性も生まれるだろう。

印刷人材の未来に向けて

振り返れば「DTP」という言葉を作ったジョナサン・シーボルト氏は、「デジタル化は単に工場の生産性を上げるだけでなく、編集も含めて行うべきだ」という考え方を示した。「テクノロジーを生産性だけでなく、記者や編集者がパーソナルなツールを使ってよりよいメディアができるようにするために用いる」という氏の発想に沿うと、DTPエキスパートの人材像が「工程の標準化」から「効果・価値の提示」に変化することは、DTP出現当初より予見されていたこととも言える。DTPの専任オペレーションを否定するものでは無く、DTPオペレータも編集者やコンテンツ提供者の意図を理解する必要があるということである。

DTPエキスパート認証委員長を創立以降25年にわたり努めていただいた故猪股裕一氏は、「特別な技がなくても情報の発信者にはなれる現在、どの情報にはどれが最適なメディアかを選択し、エディットする力、コンテクストを作る力を身に付けて、文化の担い手を目指す」という方向性を示した。

印刷業界が従来培ってきた高品質をベースに、環境の変化に沿って目指す方向性を「マーケティング力」「データハンドリング力」「デザイン力」へとシフトさせて価値を提案していくことで、「創注」へとつなげていただきたい。デジタル印刷はITとの親和性が非常に高いメディアである。DTPエキスパートには新しい印刷メディア時代を切り開いてもらいたいと切に願っている。

DTPエキスパート認証制度2段階制について(2020年3月より)

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