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紙のカタログをデジタルアプリ化することはメリットもあるが、さまざまな課題もある。
紙のカタログに加えて、デジタルカタログやパンフレットを提供する企業が増えている。大手通販会社などでも動画やメモ機能などデジタルならではの機能を付加した電子カタログをユーザーに提供している。テキスト&グラフィックス研究会では、PDFやJPEG、TIFFなどの画像データから電子書籍アプリに変換する技術を開発しているヤッパの藤井氏に、カタログをアプリ化することのメリットや課題などについてお話を伺った。
カタログをiPhoneやiPadアプリにする利点を挙げてみる。1つはユーザにアプリを1回ダウンロードしてもらえば、常に最新のカタログを配信できることである。また、ダウンロード数に関わらず配信にかかるコストはほぼ一定である。紙代、印刷代、店にカタログを置いてもらうコストなどはかからないので、コストはほぼ変わらない。厳密に言うとユーザが増えれば増えるほどトラフィックが多くなり、サーバのスペックを上げなければならないが、それほど変わらないだろう。
さらに、データを更新することで誌面を簡単に差し替えることができるので、ユーザが持っている誌面は強制的に更新できる。実際にやっているところもある。
例えば、値下げをしたい時に、紙の場合だと既に配布しているので、その場ではこの商品が値下げしているかどうかがわからないが、アプリであれば、ほぼリアルタイムで更新することができる。セールや追加商品、場合によっては売り切れた商品のページを削除するなど、とても簡単に再編集を行うことができ、柔軟な対応がしやすいというのが特徴である。
それから、TwitterやFacebookなどSNSとの連動を考えている会社もある。例えばこの商品がいいと思ったら、Twitterボタンを押すとハッシュタグを付けてつぶやくことができるなど、そうした機能はまだ実装してないが、iPhone、iPadなどは簡単に付けられる。 ある商品をTwitter、Facebookで紹介してもらうとか、逆に商品に対する声をTwitter上から通販会社が拾い、それを商品作りに役立てるという考え方もできる。SNSの連携は、ユーザにとっても出される会社にとっても、いいのではないかと考えている。
iPhone、iPadなどのカタログは、紙のカタログを見るように見てもらえることが、パソコンとの一番大きな違いである。紙のカタログなら家に置いてあり、ちょっと暇な時に何となく見て、欲しくなった商品を買うという動線の引き方に対し、パソコンの場合は、検索してこの商品が欲しいとか、どんな商品があるのかなど、ある程度能動的なユーザでないとなかなか買ってもらえない。
暇つぶしに見ていて何となく欲しいと思った、というユーザも拾えそうなところが、Webとは違うのではないかと思っている。 ニッセンや千趣会といった通販会社は、携帯電話向けのカタログも持っており、テキスト情報は十分見ることができるが、服の質感を高精細の画像で見せたい時に現在のスペックではどうしても限界がある。そこが悩みだったので、iPhone、iPadのアプリ化を選択した。
もちろん課題もある。今は誌面データの作成やWebへのリンクの埋め込みといった商品情報埋め込みを現在は手作業で行っている。通販カタログは数百ページ程の膨大な量があるため、1つ1つの手作業は簡単だが、それを積み重ねると時間もコストもかなりかかってしまう。したがって、CMSツール、自動入稿ツールの提供を予定しており、現在、開発中である。 例えばPDFデータをブラウザ上からファイルを選択するだけで、データの変換からアップロードまで自動化でき、さらに商品情報の紐付けも併せて自動化できるツールを考えている。自動化することでコスト低減できないかを検討している。
またターゲットの課題もある。今はiPhone、iPadが中心になっているが、このユーザ層とカタログ通販のユーザ層が、合致していない。特にiPadに限れば、メインユーザ層は30代~40代の男性で、カタログ通販は30代~40代の女性が中心とい うギャップがある。しかし、現在は女性も少しずつiPhoneを持ち始めており、今後スマートフォンが大量に普及するので、ユーザ層が広がってくるのは間違いないだろう。
(テキスト&グラフィックス研究会会報『T&G』301号より一部抜粋、編集)