本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
PAGE2011年ではグラフィック技術についての興味深いカンファレンスを数多く用意している。その中で本日は画像再現に関係した二つのセッションを実際の仕事と絡めていかに実作業に応用できるかをご紹介したい。
■HDR合成が変える画像表現の世界
よく人間の目をカメラと対比させて説明している光景や文章を見かけるが、カメラで撮影した画と自分が実際に見たイメージとの差異、特に暗部の階調や色彩ではイマイチ割り切れない経験をお持ちだと思う。つまり「俺が見たのはこんなイメージではない!」ということである。それもそのはず、カメラは単に一瞬を取り出して記録した画像だが、人間の記憶に残る画像は人間の眼球が絶えず動いて記録(それぞれのポイントでの適正露光で)し、それを積算合成した結果の絵(動画に近いかもしれない)なのだから違うのは当たり前なのである。人間の視覚というのは実際に見ているエリアというのはごく小さく、その見ている場所を絶えず動かして大きなものを観るという仕組みになっている。だからダイナミックレンジに関してもハイライト部はハイライト部として観ている画像、シャドウ部はシャドウ部として観ている画像の良いとこ取りをして頭の中で合成しているのだ。
だから普通の写真で撮影すれば、暗部がつぶれてしまうのは当たり前で、それに対して暗部の階調がつぶれ過ぎているとクレームがつくことも当たり前の話なのである。これを写真的な処理で合成すると随分手間がかかっていたのだが、デジタルになると様々な手法が提案されるようになった。
これをハイダイナミックレンジ合成(英語ではhigh dynamic range imagingといいHDRIとかHDRと表す)といい、通常の写真技法に比べてより幅広いダイナミックレンジを表現するための写真技法の一種である。普通撮影する風景のダイナミックレンジ(最も明るい部分と最も暗い部分の明暗の比)も意外に広く、コントラスト比100000:1を超えてしまう。対してフィルムやCMOSイメージセンサなどの一般的な記録手段のダイナミックレンジは狭く、せいぜいグレースケールで11段、コントラスト比で2000:1程度しかない。したがって風景などの持つ広いダイナミックレンジをそのまま記録、表示することができずにシャドウ部がつぶれてしまい「俺の観た風景は?!」という結果になってしまうことがほとんどだったのだ。ハイダイナミックレンジ合成HDRは、そんな問題点を軽減するために開発された画像合成手法である。
(図1) (図2)
通常の撮影の場合は、主要被写体が適正露出になるよう撮影を行う。そのため、明暗差が大きい場合には、太陽などの飛び抜けて明るい部分は白く飛び(初期のデジカメは)、暗部は黒くつぶれてしまう。これに対しHDR技法では、露出を変えつつ複数枚の写真を撮影し、それらを合成することで白飛びや黒つぶれの少ないハイダイナミックレンジイメージを生成する。 こうして作成した画像をトーンコントロール及びレンジ調整によりダイナミックレンジを縮小することで標準的なダイナミックレンジを持つ画像にまとめ直すと実際の仕事に利用できるということになる。
例に挙げた図1の写真では玄関が日陰になっていて、直射日光が当たっていると完全に暗部の玄関はつぶれてしまう。これにHDR技法を使用すると、図2の様に玄関にもライトを当てたように写ってしまのである。これだけでもうまく使えば超便利商品である。今までだと露出の異なる写真を二枚用意して切抜き合成していたのだが、もっと自然に合成できる方法が登場したということである。
(図3) (図4)
二番目の例、図3では廊下にダウンライトがあり、棚の影等が通常撮影ではつぶれてしまう場所が目に付く画像である。これでは仕事上のOKは得られないだろう。図4は通常撮影と暗部に露出を合わせた二重撮影からのHDR合成で、棚の裏の部分まで階調が残るという摩訶不思議な画像が出来上がっている。もっともカメラに精通している方には摩訶不思議かもしれないが、暗部のつぶれた画像の方が一般の方には不思議かもしれない?
HDR合成は露出の異なる複数枚の写真をPhotoshop(CS3から標準機能として装備、CS5でProにバージョンアップ)等で合成するのが基本だが、リコーやソニー、ペンタックス、キヤノンなどが内部で自動的に合成処理を行うデジタルカメラを発売している。iPhone 4でもiOS 4.1からHDR撮影機能を搭載するなど、容易にHDR合成された写真を撮影できるようになっている。
しかし確かにこの機能を使用すればHDR合成は出来るのだが、芸術的な効果は得られるのだが、普通の商品写真はそれなりのノウハウを必要とする。本セッションではHDR合成時でのカラーマネージメントの仕方、自然な調子に見せるコツ等を伝授する。つぶれた画像は切抜き合成ばかりが救済法ではないのである。
■CGが変える印刷への画像入稿 ---Z-depthとHDR合成---
レタッチというと「切抜き合成」や「健康的な肌色にするトーン変更」を想像されるかもしれないが、デジカメの品質向上やPhotoshopの機能向上によって、単純な色調変更だけで「レタッチです」などと胸を張っていられなくなってしまった。
新しいレタッチ技術=CG合成というように、何もないところから絵を描くような感覚にも受け取れるが、日本の印刷業界の場合は工業立国日本を背景にした工業製品画像のCG化であり、CADデータとの技術的なリンクが重要である。印刷業界としてはCG技術の習得はビジネス拡大の一助になるのは確実なのだが、技術レベルが高いのも事実でスキル習得に時間を要する。しかし画像処理でビジネスを考えるなら、3DCGは避けて通れないと考えるべきである。本セッションではそのポイントを効率よく解説する。
そこまで行かなくてもPhotoshopの最新版ではCGからのデータが様々な形で活かせるので知っておく必要がある。CGソフトは3DCGとも言われるくらいだから基本は3Dであり、ワイヤーフレームなどがくるくる回転するので3Dというのは解りやすいはずだ。位置を決めてレンダリングしてやればTIFF等の二次元画像が出来上がるのだが、この際3D情報を残したければ二次元のx座標値とy座標値以外に奥行きのz座標値をファイルの中に残してレンダリングすることが出来る。これをZ深度という意味でZ depthと呼んでいるが、Photoshopで読み取る際に、このZ depthデータが交じっていると「Z depthデータはどうする?」と聞いてくるので、通常は「αチャンネルとして取り込む」と答えてやれば、二次元画像でありながら三次元的な効果が出せるファイルとして取り込まれる。
(図5) (図6)
このような画像ファイルに対してフィルター効果を使用してレンズぼかしをしてみると図5,6のようになる。深度情報のソースはZ depthを選択し、ぼかしの焦点距離で「近くか遠くか」を選択すれば、ぼける場所が変わってくるという具合だ。Photoshopには3DというCG対応の機能群も用意されているが、ちょっとした機能もこのように3D対応になっているのである。
今までのレタッチ知識は無駄かというと、決してそうではなく、HDRや3DCGのノウハウがある上で、製版・印刷知識を活かすとビジネス上の大きな差別化になりますということである。(文責:郡司秀明)
関係セミナー
G1 HDR合成が変えるレタッチ、画像表現の世界
G4 印刷業界にとって現実のものになった3DCGビジネスの実態