本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
電子書籍元年が過ぎ去って、2011年はいよいよ電子書籍コンテンツ制作が本格化する。
2010年は、1月のアップル社のiPad発表によって始まり、出版・印刷業界では、どこもかしこも「電子書籍元年」と囃し立てられた1年であった。
しかし、iPadの他に数種類のタブレットPCや電子書籍リーダーが発売されたとは言え、電子書籍コンテンツそのものは、いまだに本格的な普及段階と呼べる状況ではない。
電子書籍コンテンツの提供が進んでいない理由の1つが、「電子書籍フォーマット」であることは疑いない事実である。
■電子書籍フォーマット論議のその後
ご承知のように、iPadの電子書籍の標準フォーマットであるEPUB2.0は、縦組や日本語組版には対応していない。そのため、現時点でiPadで電子書籍を配信しようとすると、アプリ形式や画像形式での配信とならざるを得ない。
一方、これまでPC向けに電子書籍コンテンツを販売していた出版社が採用していたフォーマットは、XMDFやドットブックという各メーカーのクローズフォーマットである。縦組などの対応には問題ないが、限られたOSのPCや端末にしか対応されていない。iPadや今後、発売される電子書籍端末すべてに対応できるとは限らない。
このまま放置されると、各メーカーがさらに独自フォーマットや独自方式の端末に進んでしまい、適正なコンテンツの普及が阻害されるのではという懸念があった。
そこで、電子書籍出版社協会と大手印刷を中心にしたグループが、XMDFとドットブックのフォーマット統一を図ることで、国内の電子書籍コンテンツの製作・流通を円滑におこなうという試みが進められている。国内での電子書籍交換フォーマットが標準化されることで、各種の変換ツールなども整備されることになる。
このプロジェクトが、総務省の「新ICT利活用サービス創出支援事業」として認可されたことで、一層の進展が図られている。このプロジェクトの発案者であり、推進するリーダーとなっているのが、東京電気大出版局局長の植村八潮氏である。
一方、アドビやマイクロソフト、アップルやSONYなど電子書籍ビジネスに関わりのある有力メーカーのほとんどが参加しているIDPFは、2011年5月にEPUB3.0の策定を目指している。
EPUB3.0の主要開発項目の1つが国際化対応であり、縦組やルビなど日本語組版も含まれている。日本電子出版協会(JEPA)の関係者を中心としたスタッフの尽力により、順調に協議が進められ、EPUB3.0での日本語組版対応は確実な情勢である。このプロジェクトも、前出の総務省の事業の1つとなっている。
現在、Webのスタイルシート技術であるCSS3でもEPUBと並行して縦組の協議が進められており、Webブラウザと電子書籍の両方で、容易に日本語の縦組が利用できる日も近いと思われる。
■活発となることが予想されるコンテンツ制作
コンテンツ提供者の立場で考えると、国内の交換フォーマットを利用し、EPUBおよびそれ以外の配信フォーマットに変換する方法と、EPUB3.0のみでコンテンツを制作・流通する方法など、選択肢が増えることになり、電子書籍の普及が進展することは間違いないだろう。
結果的には、コンテンツ制作の機会が増えることになり、電子書籍コンテンツが多くの読者に提供されることになる。
■PAGE2011カンファレンス・電子書籍特集
PAGE2011カンファレンス・セミナーでは、さまざまな角度から電子書籍を取り上げ、議論をおこなう。
■基調1 「徹底検証 電子書籍で編集・制作がこう変わる」
---アジア的規模で電子書籍を考える---
編集・制作の観点から電子書籍を議論する。毎日コミュニケーションズのeBookジャーナル、小木編集長をモデレーターに迎え「編集・制作の現場がどう変わるのか?」を浮き彫りにする。方正の河田氏には、隠れた電子書籍先進国である中国の電子書籍、編集・制作の状況を伺う。
■基調2 「激論 電子書籍の抵抗勢力 vs. 推進勢力!」
現実的、かつ客観的な現状分析と電子書籍の発展を予測する。統一フォーマットのメリットや活用方法のみならず、電子書籍が出版・印刷業界に与える影響、混乱を回避する方法等について、正面から考えてみたい。
■グラフィックス3 「電子書籍の未来とEPUBフォーマットの活用」
2011年には縦書きやルビなど日本語に対応したEPUB3.0が策定される見通しである。Webブラウザや電子書籍で、縦組コンテンツを容易に制作し、利用できる日も近い。電子書籍の未来とEPUB3.0の最新動向、制作方法を取り上げる。
■クロスメディア4 「最新キーワードは「位置情報」と「電子書籍」」
フラッシュマーケティングなどで盛り上がる位置情報ビジネス。また、国内国外の話題に事欠かない電子書籍ビジネス。2011年も重要なキーワードとなるこれらのビジネス内容を理解し、トレンドを掴む
■
S07 「印刷会社が取り組む電子書籍ビジネス」
印刷会社でも電子書籍の制作事業に参入し、各種出版物の電子化や自費出版などのサービスを手がけるようになった。印刷会社だからできたこと、難しかったことなどを解説する。
■
S12 「よく分かる!電子書籍の制作知識」
印刷会社の視点から、電子書籍の制作から付帯サービスまでの環境を整理して解説するとともに、多くの電子書籍端末で採用されているePub・PDFの制作方法について、デモを交えながら紹介。