本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
最近はシンプルなフラットデザインと呼ばれるWebサイトが流行っている。しかし、2013年に入ってレスポンシブWebデザインに移行しようとしている。
■レスポンシブWebデザインとは単一のHTMLでスマートフォン、タブレットなど異なる画面サイズにも対応できるWebサイト制作手法をいう。
個人的には「一気通貫」「ワンソースマルチユース」「CALS」「CIP4等々」という言葉に大変弱い。弱いというのは決して嫌いというわけではなく、アナログ時代の製版や刷版、印刷工程が同一データの焼き直しや清書の繰り返しだったもので、何とか同一データを最後まで使えないかと思っていたからなのである。
DTPの話を聞いたときには「これだ!」と飛びついてしまったものだ。もちろん「何が出来ない」「何が不足だ」「BUGが」という問題は満載なれど、結局、DTPが主流になっているのはご存じの通りだ。しかし、このDTPへの対応で会社の命運を分けてしまったのも、印刷業界にとって歴史的事実である。
■レスポンシブWebデザインも同じで、基本はこの路線に間違いはないと思いつつ、何も考えずになんでもかんでもレスポンシブデザインにすれば良いというものではない。盲目的にやるとこの先のビジネスを左右してしまうかもしれないのだ。
簡単ではあるが、レスポンシブWebデザインのメリットとデメリットを整理しておく。
■レスポンシブWebデザインのメリット
●管理や更新が楽。
レスポンシブルWebデザインはワンソースが原則なので、ワンHTMLでPCやスマホに対応できる。つまり、一回の更新で全デバイスの表示に対応してくれるのだ。
これが現在主流のスマホ専用サイトの場合は、PCとスマホのダブルメンテナンスになってしまう。ダブルメンテナンスというのはやはり大変である。
ブログサイトは更新頻度も高く、スマホで読まれる確率も高い。したがってレスポンシブルWebデザインがはやり出してから(現在)は、ブログだけレスポンシブWebデザインを採用しているケースも多い。例えば、日本科学未来館(通称みらい館)のブログもレスポンシブWebデザインで更新が大分楽になったということである。
●URLを分ける必要がない。
スマートホンサイトを別URLとして管理しているサイトは多い。しかし、ソーシャルメディアなどで、URLをシェアしたい場合はURLが2つあると混乱を招いてしまう。URLはブランディング要素でもあるので、レスポンシブWebデザインなら、一つのURLにまとめることが出来る。
●検索に強い
Googleも公式にレスポンシブWebデザインを推奨している。これからのSEOではレスポンシブWebデザインが強みにもなる。
印刷会社のマーケティングスキルの重点ポイントにはSEOが不可欠なので、レスポンシブWebデザインのテクニックは印刷会社の必須技と考えられる。
■レスポンシブWebデザインは良いことばかりではなくデメリットもある。
▲制作コストが安くはない
レスポンシブWebデザインは、ワンソース化やURLの共通化がメリットであり、制作コストが安くなるということは基本的にない。勘違いしやすい点だが、レスポンシブWebデザインをコストに短絡して考えるのは危険だということを忘れてはならない。
むしろPCサイトとスマートホンサイトとを別々に作るよりも、高くつく場合も多い。それは、レスポンシブWebデザインでソースを一本化できるのはHTMLのみで、CSSについては別々につくるよりもむしろ難易度は高くなるということであり、キッチリとしたCSSを作ることは決して簡単なことではないからである。
▲サイトの容量が大きくなる
レスポンシブWebデザインは仕組み上、どうしてもスマートホンのみに最適化されたサイトより表示速度が遅くなることが起こってしまう。Webフォント等、画像の出し分け等の軽量化手法を駆使し、ストレスを低減するのがポイントである。この辺、ベクトルは違っても印刷会社は豊富な経験値を持っていると確信している。
■何でもそうなのだが、白か黒かというものは世の中にそうそうあるものではない。少々グレーでも、黄みがかっていても、光の当て方や見せ方で真っ白に見せることだって必要なのである。
こんな事がスマホ時代を急激に迎えてしまったWebの状況であり、デザインを売りにしてきた印刷業界が、IT業界と差別化するには頑張りたい分野でもある。個人的な思いでもあるのだが、ワンソースマルチユースの帰結としてPDFといっていたのだが、どうも最近の印刷ビジネスを見ているとレスポンシブWebデザインの構築力こそ印刷会社のデザイン力だと思える。
CM研究会ではこの辺にフォーカスし「レスポンシブWebデザインの手法と事例〜スマホ重視のメディア戦略とYahoo!JAPAN・日本科学未来館の事例」 を開催し、メリットだけでなくデメリットを検証し、具体的にレスポンシブWebデザインについて考えてみたい。
(JAGAT 研究調査部 部長 郡司秀明)