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Webサイトは、ただ運営するだけでは効果を上げることは難しい。現状を分析し、そこから改善点を発見することで次のステップが見え、何をすべきかがわかってくる。Webサイトを提案するときにもこの視点は欠かせない。
今回クロスメディア研究会では、サイバーエージェントのアナリストとして自社サービスの分析や多数の講演・執筆をおこなっている小川卓氏と、Web解析ツールの提供やコンサルティングをおこなっているHARMONYの石井研二氏に話を伺った。
小川氏は、Webサイトを分析するために、まずゴール設定の必要性を挙げた。商品を販売したりサービスに登録してもらうといったビジネスのゴール(目標)に対して、それに貢献するための気づきを発見することが分析の目的であるからだ。
ゴールには、「指標」「値」「期間」の3つの要素がある。これら要素を決定し、そこに至るまでのプロセスを洗い出すことで、ビジネスの一連のプロセスを図に表わした、ビジネスロードマップを作ることができる。同図を作成して実績値を入れることで、アクセス数、問合せ数、商談数といったビジネスに関係する要素と人や金額などの流れが可視化され、どこのプロセスを改善すればよいのかが明らかになる。 (→図1参照)
改善プロセスの選定は、(改善することで)どれくらいの影響があるか、どの程度の施策候補があるか、実現するのにどれくらい難しいか、といった点を考慮して決める。つまり、数値が大きいプロセスを改善したほうが効果的だし、施策の候補を多くあげることができるプロセス、難易度が低い施策のほうが手を付けやすい。そこから改善個所を3か所選んだとすると、そのうち2か所の目標が達成すれば改善したいゴールまでの数値が100%になるようにする。
小川氏によると、1個どうしてもできなくなった場合のことを考慮して、選定した数より1つ少ない数の施策達成で100%が到達するようにすることがポイントだという。すべてを達成しないと100%にならない設定にしてしまうと、問題が発生した場合のリカバリが難しい。1つ施策をプラスすることで余裕を持たせておくのである。
データは、単一の数値だけでは判断できないことを理解しておく。単体ではなく、時系列や分割軸(セグメント)で比較することで変化に気づくことができる。たとえば1個150円のミカンがあったとする。これだけでは高いか安いかわからないが、時系列のデータ(昨年の同じ時期は1個120円だった)があれば、比較して今年は高いことがわかるし、分割軸のデータ(露地物は150円だがハウス栽培は200円)があれば、このミカンは安いことがわかる。
たとえばある暖房器具のECサイトの月別訪問者数をみると、時系列、分割軸、それぞれの視点で見ることで、「全体的に集客数が上がってきている」ことと「特定の月に訪問者数が多くなる」ことがわかる。トレンドから外れた値を見ることで、急激に増えた 減ったといった点を見ると規則性と特異点がわかる。 (→図2参照)
最後に小川氏は、データ集計はツールで自動化できても分析して施策に落とし込んでいくのは人間であること、必要以上の集計に時間をつかうべきでないこと、そして集計や分析だけでは売上にはつながらず、提案が必要であることを述べた。
実際にWebサイトを分析するツールとしては、Googleが提供している分析ツールGoogle Analyticsが広く使われている。Google Analyticsを用いた具体的な改善手法について解説するにあたり、石井氏は、まずWebサイトは単にアクセス数を増やすことを目的とするのではなく、自社のビジネスに必要な(=訪問したほしい)人に来てもらえるようなWebサイトにすべきだということを強調した。
顧客にならない人を何人集めても成果にはつながりにくく、たとえ人数は少なくてもターゲットとなる人を集めれば成果につながる。集客の質が良くない、つまり直帰率が高ければ、たとえ何人来ても効果はない。たとえば食材を扱っているBtoBのサイトでレシピ集を作っても、ターゲットにならない個人(主婦)のアクセス数が増えるだけで、ビジネスの効果(=売上増)は期待できない。
同社が提供している分析ツールの平均では、Webサイトの直帰率は47.5%、来ている人の半分が帰ってしまう計算であるという。つまり単純に訪問者を集めても集客の質は高いとはいえず、この状態では施策を実施してもビジネス貢献度は低い。
そのため、集客の数を考えるより前に質を考える必要がある。ページビューは 訪問者数と平均ページ数との積で表すことができるため、どちらかの要素を改善することで効果がでる。訪問者数を増やすためにはWebb広告を出すなど費用がかかることが多く、平均ページ数の改善は内部でページを直すだけでできるので効果が出やすい。
Webサイトの改善で重要なのは、「来てほしいのに、まだ来ていない」人を増やすことである。
石井氏は、ランディングページこそ大切な顧客接点として重視すべきであるとする。トップページは今や訪問者の25%程度であり、残りはトップ以外のページに訪問している。つまりトップページだけに掲載しているニュースやバナーは多くの訪問者に見られていないということである。
商品の説明をするときに、自分が押したい内容ばかりを前面に打ち出しているサイトも多い。洗剤を紹介するWebサイトであれば、「洗浄力が当社比150%アップ」「環境に配慮した成分」ということを大きく取り上げ、その洗剤がキッチンや車、家具などさまざまな用途に利用できるということは控えめに箇条書きで書かれていたりする。しかし、大事なのはむしろそちらのほうで、キーワードの切り口を増やせる部分を箇条書きにしているサイトは、「車 汚れ」「家具 洗剤 傷つかない」といった検索経由で来る訪問者を逃してしまう可能性がある。
来てほしい人を集めるためにはキーワードを精査することが役立つ。Google Analyticsを用いてキーワードを300位程度までリストアップして印刷し、社内で回覧することで、別の担当者から自分では気づかなかった新たな気づきを得ることもある。
来てほしい人のセグメントを考えて、その人が来るようなページを作ることが大事である。それを分析するのがGoogle Analyticsである。
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Google Analytics等のツールを用いたWeb分析は、訪問者数を増やす目的で考えられがちだ。しかしビジネスのゴールに貢献するための助けであることを意識し、現状の数字を正しく把握することで、改善すべき箇所が見えてくる。