本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
前回は、ブランディングを行う際の意識として、経営戦略から派生して行うものであることを見てきた。その中で企業として、誰にどんな価値を提供するのかという『ブランド・アイデンティティ』がつくられる。クライアントのビジネス全体を支援するためのブランディングでは、クライアント企業の価値を高めるブランド・アイデンティティを策定し、発信しなければいけないことも紹介した。
「どのような価値を提供するか」においては、まず顧客のさまざまなニーズを探りながら、顧客が価値と感じることを知る必要がある。前回、マーケティング戦略においてのブランド構築の流れを紹介したが、その中の見込客(ターゲット顧客)を選定すること、つまりターゲティングが重要となってくる。販促用の印刷物を制作する場合もたいていターゲティングを行うが、ブランディングのためにはさらに深く設定し、ニーズを探らなければいけない。
見込客のニーズを満たすもので、さらに競合が提供できていないところを独自性としていく。それによって、顧客に企業を「このようにとらえてほしい」というブランド・アイデンティティができあがっていくのである。このブランド・アイデンティティには、企業や製品・サービスなどのブランドとしての「らしさ」や、顧客との約束事、ミッションなどが端的に表される。企業として目指すところとも言い換えることができる。
例を挙げると、ある大手コーヒーショップチェーンでは、ブランド・アイデンティティとして『家庭と職場以外の第三のくつろぎの場所』という価値を顧客に提供しているといわれている。ということは、単にコーヒーを提供しているのではなく、場所を提供していることになり、それを求める顧客のニーズと強く結びついているのである。経営戦略や実際の企業活動にも大きな影響を及ぼすことになる。
クライアント企業をブランディングすることはもちろん、印刷会社として自社をブランディングする際にも同様である。クライアントが印刷物を求めていたとしても、その先には売上アップや価格競争脱却、販促の効率化や市場での認知度向上など、さまざまなニーズがあるはずである。また、社内での意識統一など、クライアントが普段から意識できていないニーズも考えられる。クライアントのこれらさまざまなニーズを、印刷を含めた企業活動全てでどのように満たすことができるかをブランド・アイデンティティとして表すことになる。
ブランド・アイデンティティが、企業側から顧客への「このようにとらえてほしい」という働きかけであるのに対し、顧客自身が企業を「このようにとらえている(思っている)」と認識しているものが『ブランド・イメージ』といわれるものだ。このブランド・イメージと、ブランド・アイデンティティを一致させるための戦略や行う活動がブランディングである。
顧客の持つブランド・イメージが企業側の意図と一致していると、顧客にニーズが発生した時に、顧客からその企業あるいは製品・サービスが想起されやすくなる。つまり、購買決定に至る可能性が高くなるということである。これは顧客のニーズと結びついたブランド・アイデンティティがあるからこそできることである。
印刷会社としての自社ブランディングとして考える場合を考えてみたい。印刷会社として印刷物を提供しているだけであれば競合と変わらず、選ばれる基準は価格の安さという場合も多いであろう。ところが印刷物を含めたさまざまなニーズ満たす価値あるものを提供されていると顧客が認識した場合、価格ではなく「ニーズを満たしたい」という思いで選ぶことになっていくのである。クライアントのブランディングも同様で、クライアント企業の見込客に対してブランド・アイデンティティを策定していくのである。
連載第1回 印刷会社に求められる顧客ビジネス支援のブランディング
連載第2回 印刷会社がクライアントに提供すべきもの
連載第3回 印刷会社が取り組むべきブランド戦略構築の流れ
連載第4回 活動の軸になるブランド・アイデンティティとは
連載第5回 顧客の心の中で自社の占めるポジショニング
連載第6回 印刷会社ができるクライアントのブランド価値の表現
連載第7回 ブランドの価値は世界観とトーン&マナーでつくる
連載第8回 デザインを統一するトーン&マナーのつくり方
小澤 歩(おざわあゆむ)
有限会社グレイズ代表取締役 http://ozawaayumu.com/
(財)ブランド・マネージャー認定協会マスタートレーナー
http://www.brand-mgr.org/
東京都江東区出身。広告販促制作会社等でのグラフィックデザイナー、アートディレクターを経て、2002年に広告制作会社として
(有)グレイズを設立。様々な企業の広告販促物の企画デザイ
制作を手がけ、さらにブランディングやマーケティング、心理学等を踏まえたデザインの戦略を使いクライアント企業の成果を出す。現在は企画デザインだけで
なく、デザイン戦略を軸にした企業全体の課題解決、価値を高め差別化をするブランディング、販売促進のコンサルティングのサービスも提供。
また(財)ブランド・マネージャー認定協会トレーナーはじめ全国の企業・団体等で、デザイン表現の戦略やブランディング、マーケティングを伝える研修や講師としても活動。