バブル崩壊以降、長期の景気低迷のもと、市場ニーズの多様化に伴う多品種少量化・変種変量化の要請が強まるなか、印刷白書「2004年→2005年」によれば、最近のGDP成長の兆しにもかかわらず、依然として印刷業界は、市場の成熟化及び市場規模の拡大鈍化・縮小が進み、受注獲得の熾烈な価格競争が展開されている。
各印刷企業においては、高収益が期待できない市場環境のもと、経営管理力の一層のレベル向上を図り、確実に利益を創出していく体質に転換する必要がある。
この様な背景の基、今回JAGATは、印刷料金の見積りの実態を調査するため、ある中堅の印刷企業(従業員規模250名程度)の協力を得て、ある一定条件のケースで、営業担当者による印刷料金の試算見積りの結果を得た。
1. 見積り条件
営業担当者に同一の見積り条件で見積書の作成を依頼した。ここでいう、見積り条件とは以下の様なものである。なお、営業担当者は20名で、ベテラン、新人、をそれぞれ含む。
○品名: A4カタログ(表紙を含め全32ページ)
○冊数: 40,000冊
○顧客データ: 単ページ(データ渡し)、面付後DDCP1枚を取り校了しとする。
○用紙:
・表紙→ 4色/4色×4p
・本文→ 4色/4色×16p
・本文→ 2色/2色×8p
・本文→ 1色/1色×4p
○機械: 平台(枚葉)、及びオフ輪。見積り上の機械選択は各担当者の判断に任せる。
○製本: 中綴じ(クラフト完全梱包)
2. 見積り上、担当者の考慮点
20名の営業マンに、見積りを実施していただいた時に、考慮したポイントについては、以下の通りである。
●価格設定のレベル(高め、標準、安め): 標準
●見積対象顧客の重要度: 中位程度
●基準: 各営業担当者が個別設定した顧客別の単価表
*各営業担当者は、商印、出版、公官庁、等が含まれ、例えば上記の価格設定レベルが同じ「標準」としていても、普段の営業活動における競争環境上の競争圧力などで、ニュアンスが若干異なる場合がある。
3. 見積り結果
■全体見積金額
図1は、各営業担当者別の、見積金額の内訳を表わしたものである。今回、20名中、9名の営業担当者から、全体の見積りの回答を得た。これを見て分かる通り、まず全体の見積金額は、一致していない。さらに見積金額の内訳として、各金額の占める大きさの順は、用紙 > 印刷 > 製本・加工 であるが、個々の見積り金額も一致してはいない。なお、本見積りには、その他の費用の運賃、運送費、営業経費は含まれていない。
▲図1 印刷料金の見積り内訳
■印刷工程の見積
図2は、印刷工程の「本文:4色/4色×16p」における見積料金の分布を示している。この見積回答は、18名の営業担当者から得た。図中13点しかないのは、同一単価を使っているため表示上重なっているためである。
図中の、左下の単価の低い4点は、オフ輪機選択者であり、他の点は枚葉機選択者である。
▲図2 印刷工程の見積り単価
ここでの結果として、
(a)担当者によって、見積る前提となる印刷機械の選択が、枚葉とオフ輪でバラツクこと。
(b)同じ印刷機械であっても、顧客別単価を設定しており、この見積りでは使用した単価表が異なっていること。例えば、枚葉機を選択していても、使用する単価が顧客別に異なることである。
3. 考察
このことにより、最高金額と最低金額で、実に25万円の開きが出てしまっている。印刷企業で、通常見られる現象であるが、このようなことで良いのであろうか?これを避けるためには、「標準化」による標準料金表、もしくは標準単価表の作成が必要であると思われる。そのためには、
[1]機械の選択基準の明確化: 今回の色通し数(320,000)に対して、機械の選択基準として、枚葉を使うのか、オフ輪を使うのか、その基準を設定する。これには、機械の性能(時間当たり処理量: sph等)、損益分岐点、市場の実勢価格を考慮することになろう。後工程の制約などは、その後に必要となる条件である。
[2]印刷機械別の標準単価の設定: 例えば、標準価格として、枚葉なら、0〜10000枚、10001〜20000枚、などの単位毎に標準となる単価を明確に設定し、共有化する。営業の戦略上の価格は、その後に顧客別にカスタマーレート(顧客別割引率など)を考慮する。
以上の基準や体系を設定し、各営業担当者への周知徹底を図ることで、受注案件毎の利益管理・利益確保が可能となり、さらに営業担当者の熟練度、学習度の格差による影響を極力排除することが可能にもなるであろう。
2005/06/08 00:00:00