JAGATではデジタルネットワーク化の時代における経営管理のレベルアップを目的に、業界で統一すべき経営管理指標の提言として、前回の印刷工程における業績管理指標の提言を行った(印刷業の生産性指標(KPI=Key Performance Indicator))。今回は引き続き第2弾として、プリプレス工程(最上流のクリエーション工程を除く)における業績評価指標の案を提示する。
■JDFワークフローにおける統一指標の必要性
前回もこの必要性を言及したが、敢えて強調する意味も込めて再度ここに必要性を提示する。JDFワークフローでは、詳細な実績データをリアルタイムで把握できるようになる。そのことによって、作業の進捗管理において実績情報を正確に把握でき、より的確な判断が可能になることにより工程管理の精度を上げることができる。また、正確な時間記録、生産実績を得ることで、その分析をもとに的確な改善策を打ち出すことが出来るようになるはずである。
■プリプレス工程の特徴
プリプレス工程には、後続の印刷、製本と異なる特徴があると思われる。
(1)労働集約的: 作業者のスキルや経験といった労働生産性に大きく依存する。
(2)個別受注生産: 一点一点が個別の作業であり、厳密に同じものの繰り返しとなる受注案件はない。
(3)工程の流動性と複雑性: 特にDTP工程においては、その末端の作業レベルでは多くの細かな作業に分割され、受注案件の状況や顧客のレベル、作業者のスキルなどに応じて作業時間や工程順序が変わってしまう。
この様な特徴を踏まえプリプレス工程の管理指標を設定する場合、以下の前提を考慮する必要があると思われる。
・末端の詳細な作業レベルを一つ一つ評価するのではなく、ある程度作業を一纏まりに捉えた上で(小工程と表現しても良い)、生産性を評価する。
・顧客からの入稿データの状態や営業の対顧客交渉力が、プリプレスの生産性、処理効率に大きく影響することを考えると、プリプレス部門だけではなく営業部門さらには顧客そのものも評価の対象に入れる必要があると思われる。
■プリプレス工程の総合的な物的生産性指標
表は、プリプレス工程における物的生産性の管理指標についてまとめたものである。
プリプレス工程における物的生産性は、総合的な観点から「実働時間当たりの生産量」に集約されると考えられる(表のID51)。ここで言う総合的という意味は、プリプレス部門でコントロールが可能であり改善効果の高い作業と、他部門依存性(営業部門や顧客などからの影響度)が高い作業の両面を考慮する必要があるということである。例えば、「直接作業時間当りDTP担当者別生産量」(表のID54)は、直接作業時間当たりのDTP担当者がどの程度成果を上げたのか(A4換算したDTP成果物の生産枚数等)であり、製品仕様に左右されることもあるがプリプレスの担当者のスキルや能力に大きく依存する指標である。一方、「超過校正率」(表のID15)という指標では、顧客ごと設定した基準校正回数や基準校正量を、どの程度守ることができたか、またはどの程度超過したかを表しており、担当者の能力に左右されることもあるが、営業の交渉力や製品仕様あるいは顧客からの入稿データの状態、などの外部要因の影響を大きく受けると考えられる。
「実働時間当たりの生産量」は、これら両面を包含した総合的な視点と考えられるが、いずれにしても、「改善」を目的とした実績把握を目的とするならば、その実績を左右する要因を、各担当責任に分解して見ることができなければならない。
「実働時間当たり生産量」に影響する要因を考えてみると、
(1)時間の有効・効率性: 時間をいかに有効利用するかの視点である。具体的には、実働時間当りに占める直接作業時間の割合などである。
(2)資源の能率性: 保有する経営資源がいかに適正な能力を発揮しているかの視点である。資源能力には人的な能力・スキル、設備の能力・スキル、などがある。
(3)品質水準: 顧客の要求品質水準をいかに達成しているかの視点である。具体的には、校正の回数や時間、などが評価指標となる。
即ち、実働時間当りの生産量を向上するためには、時間を有効に活用し、現有資源の能力を十分引き出した上で、顧客の要求する品質を基準内の校正回数で実現することが重要であると考えるのである。
■商品タイプの違いを考慮する
一方、上記の3つの要素は、対象となる商品タイプによっても異なるものとなる。例えば、画像主体のカタログや雑誌と、文字主体の一般書籍とでは、各種作業の処理効率や要求される品質水準は大きく異なり、その結果必要とされる資源のキャパシティや能力も異なることになる。従って、対象とする商品タイプを一律に扱うより、幾つかの種類に分類、区分する必要あると思われる。ここでは、以下の3つに分類して見た。
(A)文字主体: 一般書籍、文字主体の雑誌、等
(B)画像主体: 一般カタログ、タブロイド版、画像主体の雑誌、等
(C)高品質品: 高級品カタログ、写真集、等
ただし、上記の分類(A,B,C)については、例として挙げたものであり各社の実情に応じて決めるべきものである。重要なのは生産性を議論する上で、全ての商品を一括りに同質的一律的な扱いとするべきではないと言う観点である。
■プリプレスの総合指標
総合的な指標として、上記考察を踏まえ、
・商品タイプ別DTP総合生産性(ID=56): 商品タイプ別直接作業時間率×商品タイプ別直接時間当り生産量/商品タイプ別超過校正率。
・DTP工程別総合生産性(ID=57): DTP工程別直接作業時間率×DTP工程別直接時間当り生産量/DTP工程別超過校正率。
・DTP総合生産性(ID=58): 直接作業時間率×直接時間当り生産量/超過校正率。
を提言することにする。この3つの指標は各々「時間の有効性」、「資源の能率性」、「品質水準」を含んでいる。さらに、商品タイプの違い、DTP工程の種類、DTP全体、の3つのレベルで捉えるものになっている。
■その他の指標
表には、総合的な生産性指標以外の指標も入れておいた。各社ではそれぞれの実情に応じて様々な指標を使って改善の材料にしていると思われるが、JAGATが統一を考える指標はあくまでも最大公約数的なもので、それ以外の指標は意味がないとか不要だということではない。また、改善を目的とした前年度比や前月度比といった時系列比較や、対目標値比などの目標値との比較を表す項目を入れていないが、これらの比較データは実用上当然必要となるであろう。
なお、表には、最低限管理するべきと思われる指標を「青枠」で提示しておいた。今後、これらに関する意見の集約はJDFフォーラムジャパン、MIS懇談会、経営管理システム情報交換会の中で行っていきたいと考えているが、本ページの読者の方々からも多数の意見をお寄せいただきたい。
2005/10/19 00:00:00