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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[第16回]
JAGAT研究調査部 部長 郡司秀明
8月24日(日)に東京の青山学院大学会場にて第1回色評価士検定試験が無事行われたが、今回はこの試験について少し語ってみたい。
試験は選択形式で「常識的知識を問う第1部試験」と、論述形式で「色のセンスや考え方を問う第2部試験」に分かれている。DTPエキスパートの資格保持者は第1部試験が免除となるが、第1部試験時間は50分であるが、説明時間も含まれるので45分となる。基本的にDTPエキスパート試験の色関連問題のリファイン版となっている。今回の試験問題は84問だが、JAGAT内部では30秒で1問が試験時間の目安となっており、時間的に余裕がないテストになっている。しかし、ツワモノばかりが受験しているので、思っていたよりできが良いようであった(正式発表は後日)。本番試験とも言えるのが第2部試験だが、こちらは論述形式となっている。さらに実技試験も含まれているので、一夜漬け程度の勉強では歯が立たない(というつもりで出題している)。
第2部試験の問題項目は、
1.眼
2.色の感じ方
3.CIE・表色系・色弁別
4.光源・スペクトル
5.色材
6.測色・蛍光
7.デバイス
8.CG
以上8項目で、これらを満遍なくカバーするように出題することになっているが、若干の重複や複合問題、実技試験になっていたりする場合がある。例えば、色弁別や色の感じ方として実技問題に含めてしまっている(今回の場合)。
今回は色評価士について語るといっているが、単なる宣伝では意味がないので実際に出題された問題を1問ご紹介したいと思う。論述問題の中では一番普通のテストらしいかな?と思えるスペクトルの問題を1題紹介しよう。
問3 光源・スペクトル (第1期)
図1に示す分光放射輝度分布を持つ照明光下において、図2のような分光反射率を持つ物体に最も近い色として知覚される物体の分光反射率を、ア~エの中から1つ選びなさい。また、選んだ理由を簡潔に述べなさい。
なお、ア~エのグラフ中の破線は比較のために図2の分光反射率を示している。また次ページに等色関数を掲載しているので参考にしてください。
という問題だが、正解率は50%という感じだろうか? これに選択した理由が付くのだが、加算法で点数を付けても理由を付けるとなると点数は少し悪くなるという感じだ。どうも色というものをCMYKの網%バランス、もしくはRGBバランス、とにかくバランスで考える気配があるようだ。色の本質とは分光スペクトル、反射物なら分光反射率特性ということが分かれば、実はこの問題は今回の8問の中で一番簡単な問題なのだ。
人間の眼が色を知覚するためには光源が必要だ。その光源が赤い光なら、どんなにがんばっても青い色に知覚することはない。もしその反射物が青い物体なら黒く知覚されてしまう。だからこの問題のように蛍光灯のような輝線を持つ光源だと、その輝線のところだけに注目すればよいのである。大きな輝線は550nm付近と610nm付近である。そして補助的なものが440nm、590nm、490nmなので、そこの反射率が比較する物質同士が一致すれば、この光源下では同じ色に見えると言ってよいのである。最初の試験なので、比較する物体の反射率をわざわざ点線にして示してあるので、難しく考えなくとも簡単に選択できるはずなのである。
はずなのであるが?間違えてしまった人は、等色関数を掲載してあるので等色関数との共通集合部分、つまり光源スペクトルと等色関数、それに各物体の分光反射率を掛け算(積、要するに重なったところ)した面積でXYZ値を求めていたようだ。そういうふうに、「エ」を選択した人も随分いたようだ。しかし、「エ」はこの方法でも間違ってはいるのだが、正確に積分するわけにもいかないので間違えてしまったのだろう。確かに絶対値を求める場合は積分(共通面積を求める)が必要だが、このくらいのレベルならピークだけに注目すれば十分なのである。
照明光で起こるトラブルの一つが条件等色、いわゆるメタメリズムだが、問3はメタメリズムそのものを問うている問題でもあるのだ。逆に実技問題で色票の色を比較する問題が問7にあったのだが、会場の照明がお世辞にも良いとは言えなかったので、文句を言われたらどうしようかと心配だったのだが、お陰さまで今のところそういう文句は聞いていない。もっともこの色票はメタメリズムが出ないものになっているのだ。照明環境が悪ければ悪いなりに差は分かるということだ。印刷はCMYKでメタメリズムによる色彩表現とも言える工業製品だ。同じ工業製品でも波形そのものを近似するレコードなどとは根本が異なっている。もしかしてバルタン星人なら分光スペクトル自体を近似するバルタン式印刷技術が存在するかもしれない。
今回は試験の解説なのであえて事細かく説明はしないが、色とはスペクトルだということ、スペクトルが等しければ色は近似する。これが根本なのだということを理解してもらいたいための検定が色評価士とも言える。それが分かった上で、心理的なものがあるということをぜひぜひご理解いただきたい。
(プリンターズサークルにて連載中・2008年10月)
もう一度 学び直す!!マスター郡司のカラーマネジメントの極意