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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[8]
2008年度はCGを使った画像処理技術、つまりレタッチに本格的に取り組みたいとテキスト&グラフィックス研究会では考えている。その手始めがPAGE2008の基調トラックA2「新時代の画像ビジネス」だ。おそらく後一二年でCGが出来ないと画像処理が出来るとは言えなくなるはずだ。一からCG制作をするわけではないが、今までの製版業と同様にレタッチする人間をレタッチャーという。しかし今までのレタッチャーとは似て非なるものであり、CGレタッチャーというべき人種なのである。こういう人たちに入稿する場合は写真原稿ではなく写真素材な訳だから「RAWデータ」が基本だ。調子や色はカメラマンではなくレタッチャーが決定するわけだから、現像前のデータで何ら問題ないということだ。
印刷業界ではRAWデータ信仰のようなものがあり、これで何でも片付くと思っている節がある。正直な話RAW現像とはそんな生やさしいものではなく、事故につながる危険なものなのだ。従って今までJAGATでは「RAW入稿はしない」ことを鉄則としてきたが、このようなレタッチャーへの入稿や事故が頻発する前にしっかり知識を持とうということでD1「RAWデータと印刷入稿」と題してコンファレンスを行う。メーカーからではノウハウ話も聞けないのでフォトの翼の開発者である陳純氏に特別講師をお願いしている。
RAWがそれほど簡単ではないという証拠に次の画像0をご覧いただきたい。Photoshopで比較した画像だが、上はLabつまり撮影したそのままのデータだ。下はPhotoshopのRAWプラグインで標準現像したものだが、色は大きくシフトしている。sRGBに現像しようものならもっと動いてしまう。このように一朝一夕ではないのだ。RAW現像ソフトが正しい色を目指しているなどということはないのが分かっていただけたと思うが、その他にも問題点は山積みなのだ。このセッションでどこまで掘り下げられるか分からないが、今年の第一弾として問題点を浮き彫りにしたい。
この画像は広色域印刷実験のために用意したものだが、プリンターズサークルに連載しているものをHPでもご紹介しているが、今回は後出しではなくT&G研究会の目指すものの締めくくりとしてフライングでご紹介したい。
さて今回はPAGE2008コンファレンスのグラフィックトラック、2月8日10:00-12:00に開催される「広色域印刷の品質を追求する 」-分光画像原稿で比較する-についての解説だ。JAGATではオペレーションなどのハウツウを解説するものをセミナー、技術的・ビジネス的・戦略的な見地で示唆を与えられるものをコンファレンスと呼んで区別しているが、この「広色域印刷」のセッションもコンファレンスに属しており、基本はT&G研究会やCM研究会、PM研究会の延長線上で企画されている。つまり研究調査部プレゼンツ(JAGAT内のお家の事情・・・)ということなのだが、これまではそれほど明確な線引きが存在していたわけではなかったというのが正直なところだった。しかし最近は名実共に「戦う研究調査部」を目指しており「研究するんだ!」と一日三回念仏のように唱えて、JAGATが研究の先頭に立つことを旗印にしている。これが研究調査部の「風林火山」であり「毘」であり「天下布武」なのである。
さてさて、従来sRGBが良いとかAdobe RGBが良いとか言っていた時代はsRGB画像を広色域印刷の原稿データとして使用していたこともあった。図1をごらんになれば分かっていただけると思うが、一番小さい白線の五角形(≒六角形にも見える)がJapan Color 2001、少し大きい五角形が四色広色域印刷である。
大きな三角形がAdobe RGBなので、広色域はAdobe RGB領域もはみ出しているのが分かると思う。これではsRGB入稿では広色域印刷と通常印刷も品質差がつかないのは当然である。挙げ句は不必要なレタッチを施し彩度だけ無理矢理上げてベタっとした仕上がりにしてしまったりしていた。広色域印刷には最低「まともなAdobe RGB画像」が必要なのである。
まともなといったのは今でもデジタルカメラによっては「名ばかりのAdobe RGB」という機種も存在しているからだ。ましてや最近の広色域印刷は顔料の配合等の研究が進み四色CMYK広色域インキでも再現色域は図1より大きくなっている。それだったらAdobe RGBではなくLabで入稿した方が広色域印刷の性能を最大限発揮出来ると考え、6分光カメラ(図2)からCIE XYZで吐き出し、Lab Tiffに変換して入稿して実験してみることにしたのである。
今回実験に使用したのはLab Tiff(図3)、Adobe RGB(図4)、200色くらいにモザイク化してチャートにしている画像(図5)だが、Labを基本としているので16bitであるのはいうまでもない。6分光カメラを使用したのは色の調子をより正確に入稿したかったということだ。従って色域の大きさだけに注目されると非常に心外なのである。色域を比較してみると6分光から変換したLabが図6でモルフォ蝶の羽がAdobe RGB領域からはみ出しているのが分かると思うが印刷によって再現するもの、しないものが出てくるはずだ(デジタル的なオペミスで再現しない場合もあるだろう?)。
Adobe RGBに変換したものが図7である。また正規板MDツールではLabを解析出来ないのでXYZ値から色域計算したのが図6だが、LabをProPhotoRGBに変換してMDツールで解析したのが図8である。「プロファイル変換」は「プロファイル指定」と異なり色が変わらないと信じている読者の方が少なくないと思うがProPhotoの白色点は5,000Kで、大きいとはいえ境界は存在するわけだし、その境界が不自然でもある(これは内緒!?)。
Adobe RGBは6,500Kだから色のねじれや欠落は出てくるのは致し方ないことなのだ。しかし雰囲気は似通っているはずである。こんな感じで印刷実験を考えているのだが、明らかに現物にはLabの方が近い。撮影に立ち会った人間なら全員が認めるところである。
Adobe RGB画像はPhotoshopのRAWプラグインで現像しており、ニコン純正のCapture NXを使用するともう少しLabに近いようだが、明るくキレイ目ということでRAWプラグインを使用したというわけだ。「これに近づけるようにレタッチしたものを一点付けてもらって良いですよ」と各インキメーカに願いしているが、一つの例がL値のハイライトセットアップを明るくし、その分彩度が落ちるのを若干補正してみたのが図9,10である。
撮影風景を掲載したのが図11,12,13だが撮影光源はセリック株式会社の人工太陽灯を使用している。ディフィージョンシートを一枚と反射光用に使用しているので500K分くらい色温度は落ちていると思うが、5,000Kよりは青っぽくなっていて原稿通りということだ。
(プリンターズサークル・2008年2月)