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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[10]
前回で「RAWデータの何たるか?!」はお分かりいただいたと思うが、皆さんが理解しているのは「自由度が高いこと(これは間違ってはいない)」「品質が良いこと(これはイコールではない)」「プロ的である(アマチュアで使う人はまずいないだろうから正しいかな?)」「云々(うんぬん)」という感じではないかと思う。
本来のRAWデータとはデモザイク前のデータ、つまりRGBバラバラのデータが基本だ。普通のデジカメでは図1のように、そのバラバラのデータをRGBパックに直すデモザイクという工程を経てまともな画像になる。
普通のデジカメはと、わざわざこだわったのはFOVEON(フォビオン)という特殊なセンサや3CCDタイプのデジカメを除いてということだ。要するにFOVEONとか3CCDのデジカメで1000万画素と言えば、正真正銘1000万画素のRGBデータが撮影できるということになる。対してベイヤー配列などの通常の1枚物CCDタイプの場合は、本来の解像度は3分の1程度(この比較は難しい?)ということだ。従って、昔からデジカメを使っている人(私もその一人なのだが)にはRGBワンパック信仰が強い。特に3ショットタイプのデジカメは一つのCCDにRGBフィルタを被せて3回露光するわけだから、その画質は素晴らしかった。同一のCCDで、その特性も同一だからグレーの発色など見事なのは当たり前だし、ほかの画素から足りない色を持ってくるわけではないので偽色も起こらないので実にスッキリした画質になる。
3CCDの場合は特性が似たものを選ぶのだが微妙に異なるのは致し方ないことで、同一CCDを使う場合と比べるとグレー再現の微妙なズレが気になってしまう。ハイエンドドラムスキャナでフォトマルを精選する場合も、数多くのフォトマルから特性の近いものを選別するのだが、特性の差に妥協した場合などはやはり画質には悔いが残ったものだ。
このように昔話好きなオヤジどもの茶飲み話ではCCDの画質談義に花が咲くのだが、最近のオーバー1000万画素を見てみると、もはやこの手の議論は昔話に過ぎないと思い知らされる。もともと人間の網膜に分布している視覚神経(錐体)だって一つの細胞でRGBを感じているわけではなく、ベイヤー配列のようにまばらに分布しているわけだから、どちらが人間の特性をシミュレーションしているかと言うと、1枚物だと言うことが(も?)できるわけだ。正確にはロボットの視覚システムを作っているのではなく、被写体自体を再現するわけだから理屈が合わないところもあるが、一面真理でもあるだろう。特に最近の高画素デジカメは、現実的にRGB 1パックを不要にしているのは間違いがないことだ。
ここまでは単なるオヤジのオタク話だが、重要なことは1枚物CCDの画質がベイヤー配列や、そのほかの配列方法そのものだけではなく、その配列からどのようにRGBパックデータを作るかというアルゴリズムが大きく関係しているということだ。PhotoshopのカメラRAWだって初期のものはとても見られたものではなく、放射線や斜め線はモアレやビビリ、ブツ切れの嵐だったのだ。ここに来てやっとまともになってきたので、私も真面目にRAWデータを印刷会社向けに解説しだしている次第である。要するにハニカムCCDや親子CCDなど今も改良されつつある技術はあれど、デモザイク化のアルゴリズムはおおかたカタが付いてきたと言える。かつてはASICで処理してしまうJPEG出力より、時間を掛けてデモザイク化できるRAW現像ソフトでデモザイク化したものの解像力が優れていたが、デモザイク化のアルゴリズムが稚拙なためRAW現像のほうが悪いというものも存在していた。しかし、現在では重箱の隅的に見なければその差は分からないくらいにデモザイク化のアルゴリズムは完成域に近づいている。
では現在のデジカメ、RAW現像で一番差が付くのは何かと言うと、それは「色」であり「色調」であり「調子再現」である。前回も触れたが、RAW現像ソフトによってびっくりするくらいの差ができるのだ。せめて標準が統一されて、各種モードで各社の特徴があればよいのだが、デフォルトで仕上げただけでも「これが同じRAWデータか?」くらいの差がある。色作り(この考え方自体いかがなものか? 本来は色再現特性のハズ)の差を見てもらうためにいつものように色相環を使って実験してみたい。
図2を見てほしい。色相環をNIKONのD80でRAWデータ撮影し、純正RAW現像ソフトであるCapture NXで現像したJPEGデータをMDツールでCIE xy色度図上にプロットしたものである。放射線状に一直線に伸びていれば素直な色再現、カーブしていたり、線が入り組んでいたりすれば意図的な色演出度が高いことになる。線の長さが長く伸びていれば再現色域が大きい(彩度が高いとも言えるが、色が伸びているというのがより正確な表現である)ことになる。Capture NXの露出コントロール範囲が±2なので、この色相環撮影の場合はリミットの+2とし、後はデフォルト(標準)のままとした。同じデータからPhotoshopのカメラRAWで現像したものが図3だが、露出はCapture NXに合わせて+2、ほかはデフォルトだが、CIE xy色度図では色再現域の大きく色の伸び方がねじれているのが見て取れるだろう。PhotoshopのカメラRAWで自動セットアップしたものを図4として、Capture NXで彩度を2段階アップしてある画像を図5として掲載している。色のねじれ(シフト)がPhotoshopにあるものの、彩度2段アップでPhotoshopのカメラRAW標準に近くなっている。Capture NXが発表される前はNikon CaptureというRAW現像ソフトがNIKONの純正ソフトだったが、この時代の再現色域はPhotoshopに近かった(ちょうど中間くらいかな?)と思う。Capture NXになってからの協力会社(北米)の影響かな? と斜に構えて思ったりするのはあくまでも私の思い込みである。
今回のPAGE2008では広色域印刷実験のために韓国のSAMSUNG電子に多大な協力を頂いた。実際にLEDバックライト広色域モニタの開発者であるChoi Chris氏には講演までしていただいた。その時の模様を撮影したデータが図6のDSC_200だが、NIKONのD70の本体付属のストロボで撮影しているため正直悲惨な結果である。一応私は前でモデレータをしているので撮影者でないことをお断りしておくが、そのまま現像したものが図7(セットアップ)、図8(8ビット JPEG)となり、ヒストグラムは図9のように典型的なローキー原稿である。これをPhotoshopのカメラRAWで明るくしたのが図10だが、露光量は+2.5でそのほかも見てのとおり大幅な調整をしてある。その結果のJPEG画像が図11、ヒストグラムは図12だが、これだけ大きく動かしても歯抜けは起こっていない。対して図13は暗いままの8ビット JPEG(図8)からPhotoshopのレベルコントロール機能で明るくしたものである。
一見差はないようだが、図14のヒストグラムを見ていただくと歯抜けなのが一目りょう然である。白黒上質紙印刷の『プリンターズサークル』はコレでも百歩譲れるかもしれないが、高級印刷の場合は三歩も譲れないだろう。RAWデータの有効性はこれだけでもご理解いただけると思う。しかし16ビット JPEGというものが急速に普及しようとしている。この素性がけっこう良いのでこっちの可能性が高いかな?とも思っているが、今回はRAWの話であるので置いておく。
歯抜けなどの問題もあるが、データ容量というのは捨て置けない問題だ。図15から図18までがその容量比較だが、RAWデータが極端に容量を食うのはお分かりいただけるだろう。明るくすると調子がよみがえるというか、RAWで明るくしたJPEG画像の容量が増えているのは、調子が増えていると解釈していただいて差し支えないだろう。レベル補正で明るくしたものはRAWほど容量が大きくなっていないが、これは良いことではなく調子がそれだけないと見ていただければよいのだ。このへんを対比して見ていただきたい。
さて、印刷原稿としてのRAW入稿が何かと話題になっているようだが、世の中デジタル時代で「何でもありの世界」だから難しく考えずに、だれが色を決められるのか?という視点で考えればよいと思う。「そりゃクライアントだ」と短絡するのはあまりに印刷業界的発想で、普通はカメラマン、デザイナー、最近ではカラーコーディネーターやカラーディレクターと言われている職業が色を決めている場合がほとんどだ。要は「だれが一番力を持っているか?」ということだが、最近になってがぜん注目を集めているのが「レタッチャー」だ。図19はこびとのくつ株式会社代表取締役の田口美樹氏が電塾大勉強会でセミナーした時の姿だが、後ろに映っているのは彼女の手になる洋酒のCMだ。この手のCMの場合、商品になる画にするまで200レイヤー以上のレタッチを施しているのは決して珍しくない。ここまでくると新たなる作品で、レタッチャーが関係する場合のほとんどはレタッチャーが色の実権を握っている。従って、レタッチャーへの入稿はより自由度の高いRAWデータが前提となる。寂しい限りなのだが、この場合のカメラマンは単なる素材提供者ということだ。こういう場合を除いてRAWデータが入稿データとして通用するとはとても思えないので、安易なRAWデータ入稿は危険である。前述したようにRAWデータは可変範囲が大変広いので本当に危険なのだ。肝に銘じていただきたい。
そしてRAW現像する場合の注意だが、モニタは必ずハードキャリブレーションモニタを使っていただきたいということだ。現在では10種類を超えるモニタから選択できるし、価格も決して高くない。これは必ず守っていただきたい点だ。PAGE2008では広色域印刷用の原稿をLab(Adobe RGB色域から開放される)で撮影したのだが、もちろんこの原稿の色域はAdobe RGBを超えているので、各広色域印刷の限界性能を把握できるわけだ。ここで活躍したのがSAMSUNG製のLEDバックライトの液晶モニタで、色再現域がAdobe RGBの130%相当なので本当に助かった。PAGEに合わせて来日してもらったSAMSUNG電子の開発者であるChoi Chris氏とは技術談義に花が咲いたのだが、次回にこのへんの話を詳述したい。
(プリンターズサークル・2008年4月)