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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[14]
今回は前回お約束したdrupa報告をお届けしたい。この連載の趣旨から言って色に関係した内容に絞ってご報告するのがよいとも思うのだが、正直な話、カラマネやその他デジタルソリューションにこだわるとdrupa2008の幹を見失うことになるので、カラマネには特にこだわらず、かつ機械紹介やスペック紹介は他の特集記事で数多く用意してあるので、今回は「マスター郡司節」ということでdrupaに関する意見の一つとして捉えていただければありがたい。もっともdrupaにはX-Riteなどのブースはあるし、EPSON/GMGのタイアップ展示(写真1)などを行っているが……ではあるが、あえて潮流にこだわってみたい。
最初は旅行案内からだ。格安航空券を選ぶ場合、日本人に人気のルフトハンザやエールフランスは高くて手に入りにくく、ケルンを目指すならウィーン経由のオーストリア航空あたりが安くてお奨めであるという話を前回したが、結局私は日程の関係からブリティッシュエアウエイズで行くこととなった。鳴り物入りでオープンした最新鋭のヒースロー空港ターミナル5だが、不具合で荷物が遅延したりして評判は散々、そのことは織り込み済みで最低3日間は仕事に問題がないように機内持ち込み手荷物を充実させたところ、それがお守り代わりになったのか?私は特に問題なくヒースローを通過できた。
旅行関係のブログなどを見てみると、好きな航空会社などは好みで分かれてくるのだが、おおむね日本人はルフトハンザなどが好きなようである。しかし、ひねくれ者のイギリスびいきも結構いて私などもその一人なので、今回のブリティッシュエアウエイズは結構楽しいフライトであった。ヴァージンアトランティック航空などの特別な航空会社を抜かせば、機内食レベルなども最上位クラスだし(エールフランスがおいしいというのは、単なるイメージだけ??だとワタシは感じている)、外国の航空会社では、日本人クルーが乗っている場合は圧倒的に日本人クルーのサービスレベルが上なのだが、ブリティッシュエアウエイズは決してそうではなく、イギリス人のほうが的確なサービスを行っていた。やっぱりこのような決まり切ったサービスに関して、大英帝国は「100年、3万6500日の長」があると思い知らされる(無駄がなく温かい)。乗り換えに利用した新生ターミナル5には日本食(ただのラーメン屋?)レストランの「wagamama」もあり、サンフランシスコ空港などよりも1ランク上の日本情緒を感じさせる。また、高級ブランドショップに混じってNOKIAやSAMSUNGが目に付くのはやっぱり21世紀なのだろう(それにしても「It's a SONY」はどこだ!?)。
余談だが、ターミナル5のトラブルに関して、世間的には銀行システムのようにソフト的な不具合として問題になっているが、本当のところはあまりに駐車場が広大なのでまず道が分からなくなってしまったこと、そしてセキュリティが厳し過ぎてスタッフが入場するのに時間が掛かり過ぎてしまい、スタッフがようやく定位置に付いた時には荷物がベルトコンベアからあふれてしまっていて収拾が付かなくなってしまっていたというのが真相らしい!?(常に一番は人災)。もっとすごいのは、日本なら恐らく大問題になっているところだが、大方のイギリス人が「こんなことだろうと思った……」と平然と受け止めていることである。食料自給率と同様に(一般的なイギリス人はジャガイモとビールだけで大丈夫なので、主食の食料自給率は基本的に100%)この国はたとえ極小英帝国になったとしても、したたかに生きていけるだろうことは太鼓判だ。昔から「イギリスに学ぶこと有り」とは考えていたが、成熟産業の印刷業界も大英帝国を範に取ることがあるのではないかと思案中だ。
DRUPA(drupa)とはもともとDruck und Papier(印刷と紙)の造語であり、本来は大文字で表記されていた。それが西暦2000年のミレニアムにprint media messe(印刷メディア展)と位置付けが変わり、drupaと小文字で表記されるようになったのである。簡単に歴史を振り返るとDRUPA1995が「CTPドルッパ」、drupa2000が「デジタルドルッパ」、drupa2004は「JDFドルッパ」、そして今回のdrupa2008は「インキジェットドルッパ」というように毎回のドルッパにはその時代を象徴するようなキャッチフレーズが付加され、印刷の歴史そのものを表しているという次第である。私が初めてDRUPAを見たのが確か1982年だったはずだが、その時にはCEPS(DTPがパソコンならCEPSはメインフレーム)メーカーがちょうど木下大サーカスのように広場に大テントを作成しているDRUPAだった。このDRUPAから機械というよりワークフローやソリューションに比重が移ってきて、印刷機械メーカーもその方向性を大きく変えてきたと言える。そして21世紀の今回は、1982年以前の機械の時代に戻ったというのが長年見てきた私の率直な感想である(この道程が無駄だったのかどうかは???)。
drupa2008は小文字になって第3回目に当たり、52カ国から参加した1971の出展者が全体で100億ユーロ以上に相当する取引契約が結ばれたと公表している(上々の出来だと思う)。138カ国から約39万1000名の来場者が、そして84カ国から約3000名のジャーナリストが、デュッセルドルフメッセに集まった。外国からの来場者の割合は、4年前の前回開催時よりも4%増え、全体の59%ということであった。ただし、今回はチベット問題の影響か?中国人の来場者が極端に減り(いろいろなうわさは聞いているが、定かではないのでノーコメントにしておく)、40万人の大台に乗らなかったのも、このことが原因であろう。中国人を当てにしていたブースは店仕舞いしているところも見受けられたほどだ。その代わりにインド人がとにかく目立ったdrupa2008であった。
いつものことなのだがdrupa開催期間中の周辺都市はどこもかしこもdrupa特別価格となりビジネスホテルクラスでも5、6万円が相場となり、周辺都市で若干安いホテルを探すのが(私のようなお金のない)日本人見学者の通例となっている。私の場合はPhotokina(フォトキナ)というこれまた世界最大の写真機材展を行うケルンメッセ併設のホテルに宿を求めたところ通常料金でOK、その分毎日1時間程度の行程を要するがいろいろ考えるにはちょうど良く、久々に「印刷の未来」や「デジタル化の意義」などをじっくり考えられた良い機会であった。それにしても、そのホテルに滞在するインド人の多いこと、私以外はインド人だけではないか?というくらいであった。ケルシュ(ケルンの地ビール)を飲みながらインドの印刷関係者と話したが、中国人に対抗できるまで成長する日も遠くないのでは?と強く感じてしまい、貴重な体験ができたことも安ホテルのお陰だった。日本のカメラメーカーがPhotokinaにやってきたころ、会場には入れてもらえず、会場外にテント張りで展示していたのは有名な話だが、「それに比べれば、今は極楽だよ」というような話をインド人としながら盛り上がっていた。
さてdrupa2008のタイトルになっているインキジェットだが、今回のdrupaではUバーン(市電)終着駅の北側に新設された8a号館と8b号館がそれを如実に象徴している。8a号館はHPを中心としてCanon、AGFAなどの大メーカーが展示しており、8bのほうは富士フイルムを中心としてFUJI XEROX、大日本スクリーンなどのメーカーが終結していた。メッセ側の意図でもないだろうに、見事にグループ化が演出されている。デュッセルドルフメッセの最南端に位置するハイデルベルグと最北端のデジタル8aグループ、8bグループが意味深であった。深というより開けっぴろげであるが、今後の印刷業界にどういう影響を及ぼすか非常に興味のあるところだ。
8a号館の中心になるHPブース(写真7)はとにかく何から何まで揃っていて少々辟易(へきえき)してしまうほどなのだが、ここまでやるとE-Printも全く違う機械のように見えてしまうのは不思議なものだ。HPなりのリファインはもちろんやっているとは思う。例えば、給紙機構をプリンタメーカーが山ほど持っている特許の一つを使っただけで、紙詰まりが格段に減りメンテナンスコストが激減すると思うし、ギヤムラ改良のため駆動系がダイレクトドライブに変更されている。これだけでもリライアビリティは相当向上するだろうが、売れる動機付けはやはり価格であり、HPは思い切ったこともやっているようだが、それが今のところは一番の効果を発揮していると言わざるを得ない。このように現在のデジタル印刷機というのはちょっとした紙送りや振動ムラというレベルを改良するだけで大きな品質アップにつながるわけで、まだまだ爛熟の境地までは達していないし、価格的にもコナレテはいない。同様にポストプレスが技術的なキーワードになっている。どこに落ち着くかはまだまだ分らないが、格好の良いスマートな後加工機がスイスを中心として急速に発展している。もしくは、大型のデジタル印刷機に大型のポストプレスが付いていくのだろう。
日本の印刷業界のほうに一番印象的だったのは、HP純正のインキジェットのオフ輪(正確にはWeb=輪転)ではないだろうか? 今回のdrupaで印象的なのが加湿器などの環境コントロールの周辺装置がアナログ印刷機のブースでは目立たないのに、デジタル印刷ではやたらに目に付くことだ。HPブースでは強制排気ダクトも半端ではないものが付加されている。
HPでは参考出品ながらHP Inkjet Web PressというDODタイプ(ドロップ方式、必要な時だけインキを飛ばすタイプ)をHPの主張する「Print2.0」のベクトルに沿って展示していた。4色フルカラー、600×600dpi、最大用紙幅30インチ、速度は122m/min、レターサイズは2600ページ印刷できる。もちろん新聞もOKである(理由は定かではないが、展示機は36インチサイズ)。日本の印刷関係者はこの機械を見てさまざまな感慨を抱かれると思うが、印刷会社が買う機械がいよいよ揃ったと皮膚感覚で感じる経営者の方も少なくなかったのではないかと思う(写真3、4)。
8b号館は富士フイルム中心というイメージに会場の作りがなされていた(これはだれの意図か?定かではないが、一般客ならそういうイメージは持ってしまうだろう)。その中で中心展示が思わせぶりに見せていたJet Press 720(写真5)と言われる参考出品印刷機で、名称も仮称である。給紙系統は印刷機を連想(というより見る人が見れば一目りょう然?)させるものがあり、このへんでもグループ化的なものは感じてしまう。しかし、大事なポイントはスペックよりは、次世代に向けてインキジェットヘッド(Dimatix写真6)やインキメーカー(セリコール)をM&Aで準備しているということだ。 XEROXは、デジタル印刷関連のソリューションをこれでもか!くらいに見せていた点が注目ポイントだろう。
Gelインキを評価する人もいたが、これは単なる発表程度と考えるほうがよい。もっとも学生時代からソニーテクトロのシンクロスコープ信奉者の私には非常に懐かしい名前だ(高いが最高品質というイメージ)。ひと言で表現すれば、アナログソリューションのハイデルに対して、デジタルソリューションはXEROXという感じであった(やっぱり、この分野での一日の長)。それにしても、HPがあれだけ工場ライクなのだから、XEROXもオフィス仕様としないで排気ダクトもしっかり付けて工場的に展示したほうが良かったのでは?とも思ったりもする。
今回、私にとって一番しっくり来たのが大日本スクリーンで行われていた新聞サテライトデモである。朝日新聞をリアルタイムで日本からビットマップで送ってTruepress Jet 520二連で表裏を印刷しているのだが、ほかにもヨーロッパと北米の7紙でデモを行っていた(欧米系はPDFで送付)。細かいことを言えばスミベタのノリなどいろいろあるが、インキジェットと新聞の相性の良さは特筆すべきものがある(と筆者は思っている)。インキのセットを考えてもインキジェットは新聞向きだ。富士(山)には月見草、新聞にはインキジェットがよく似合う……。もちろんHPなどほかのブースでも新聞印刷はやっているが、あくまで新聞オフ輪の代替であり、このデモのようなPOD的なものとは少々異なっている。Truepress Jet 520も決してコンパクトな機械ではないが、「300部、紙の新聞が欲しい」というニーズは必ずあるわけで、私などは新聞好きの英連邦国民相手にロンドンヒースロー空港あたりで航空機向けサービス、トランジット顧客向けサービス(VIPラウンジなどでは受けそう)など始めたいくらいだ。こういうデモを作ったスタッフのセンスは評価できるし、大日本スクリーンはRIP技術などでは特筆すべきものを持っていると思うが、材料などの供給、ヘッドの調達、このへんが今後の課題と言える。部品のアレンジで製品を作り出しているインキジェットメーカーは、好むと好まざるに関わらず、その規模やマーケットを特化して特色を出していくことになるのだろう。
トヨタのような大メーカーは主要部品も系列会社製を使っているが、イギリスのガレージ(スポーツ)カーメーカーなどは、手製で部品を自作していてはコストが高くなってしまうので、どうしても既製品に頼らざるを得なくなる。その中で個性を出していくのは、伝統の力というしかない。趣味的なスポーツカーなら伝統の力の発揮しようもあるが、デジタル印刷機の場合にこれが成り立つかどうか?難しいところではある。そのほかデジタル印刷機で目に付いたのは5号館のKodakで、今回私が注意して見た展示物で一番納得させられたものであった。
コンティニアスタイプのインキジェットを知り尽くしている同社ならではの説得力ある展示だったと思う。参考出品ながら非静電型のStreamコンセプトプレスは風圧コントロールということだが、サンプルを見る限りは素晴らしい。インキの自由度も上がり、額面どおりなら競争力のあるマシンと言えるだろう。また、9号館のコニカミノルタでは広色域の電子写真方式が参考出品されていたが、これについては今後を見守りたい。目に付いたのは単色機ながら表裏の見当性の良いbizhub PRO 2500Pで、OceのOEMということだが、デジタル印刷の表裏の見当性に辟易している方には朗報と思う。
さて本来のアナログ印刷機だが、ハイデルのためのdrupaと言われるとおり、メッセの1号館2号館はハイデルベルグの定位置なのだが、今回もご他聞に漏れず定位置での出展となった。その代わりデジタル関連のソリューション展示はなく(CTPぐらいはありますよぉ)、オフ輪もなし、デジタル印刷機もなしの展示で統一している。日本人から見れば異論を唱えたくなる方もおいでかと思うが、欧米、特に欧州ではすこぶる評判が良い。「デジタル化は避けて通れない」それに迎合するのも一つの策だが、「デジタルに侵略されないところを伸ばすのも一つの生き方」である。だからハイデルはプリンタやPODが得意としている分野よりも、印刷ならではの分野「VLF」や板紙などの「パッケージ」での品質や生産性を確立してしまおうというわけだ。
初のVLF機「XL145」「XL162」など、ハイデルブースではこのような決意をくみ取ることができる。印刷業界ではダントツの名声やポジショニングでのこういった「印刷の未来」への意思表示には欧州の人間なら賛同するのだろう。とにかく評判が良い。私が話したほとんどの欧州人がこのような印象を持っていた。だからmanrolandやKBAなどワタシテキには見るべきものが多かった(KBAなど評価したい)が、「ハイデル追従」というように見る向きが欧州人には多かったようである。紙のソリューションに徹底的にこだわった展示ということだ。
日本の印刷機メーカーもオフ輪などの展示で集客していたが、一様に紙のソリューションにこだわっていて、「デジタルvs.アナログ」の構図かと思いきや?不思議と不可侵領域のバランスを保っていたのは、デジタルが当たり前になって印刷関係者も大人になってきたあかしかもしれない。そのほかに目に付いたものを列記しておく。まずはLEDインキ、UVに比べてランニングコスト的なメリットが考えられる。東洋インキブースでインキ(写真7)を、リョービブースで印刷機(写真8)を展示していた。Kodakでは200線強の高精細網点可能なフレキソシステム(写真9)が展示されていたが、欧米では朗報であろう。
また、今回からMANの出資率が下がったことからロゴが小文字のmanroland(写真10)になっていたのが新鮮だった。外の屋台で「アイネブルスト(ソーセージ1本)をほお張り、ビールを飲む」風景は相変わらずで、簡易ビーチ(写真27)も健在である。肝心のトランスプロモの話題にはあえて触れていない。というのは今までの商業印刷の延長線上でトランスプロモをうんぬんしても絵に描いたもちでしかないからだ。しかし、インキジェットのコストはトランスプロモも現実のものにしているのは事実だ。通常印刷の120%のコストなら現実のものになるかもしれない。そしてトランザクションを生業としているBF業界にとってはチェックというのは納品するための当たり前のハードルであり、成功する可能性も十分ある。この裏には商業印刷の延長でトランスプロモを考えても成功する可能性は低いということである。例えば商業印刷では検版を目視で行ったりしている。これでトランスプロモでは何をかいわんやということだ。「アメリカなどは未達の郵便物があった場合などもアッサリ捨ててしまうだけ」などという姿も珍しくない。こんな割り切りと綿密なマーケティングがあれば、トランスプロモは印刷物の一つのジャンルとして一時代を築く可能性はある。
前述した「アナログ印刷の強み」と合わせてインキジェットのコスト(安いということ)はすみ分けの地図をよりハッキリさせてくるだろう。次のdrupaまで待たずにこのすみ分けは真剣に考えていかねばならない。
(プリンターズサークル・2008年8月)