目標管理は「やらされ感」より「やってる感」 ~部下の能力と意欲と伸ばす管理職者教育~
掲載日: 2009年02月14日
管理者の役割は、言うまでもなく「自分が任された部下を活用し『人と仕事の管理』を行い、目標を達成すること」である。
一般的には管理職者への昇進は、人事異動を通じ実務担当リーダー層に新たに管理業務を任せることが多いだろう。しかし長年の実務担当者の延長だけではどうしても通用しないのが現実で、教育を施す側、受ける側ともに戸惑いも多いと聞く。
●管理者の能力不足が及ぼす悪影響
いざ職場を振り返ってみると、自身が率先して実務を行うことで、本来の職務である「人と仕事の管理」を疎かにしていたり、実務の細々とした部分にまで口を挟み、部下の判断力を阻害したりして現場を混乱させる管理職者がいかに多いことだろう。また、部下が目標が達成できないことを「ヤル気がない」「プロ意識がない」などと精神力のせいにしていることはないだろうか。本来、部下の行動力をサポートすること、行動力を持続させる立場である管理職者の能力不足が、業務や業績へ及ぼす悪影響の大きさは計り知れない。
●業績向上は、人の能力と意欲を伸ばすしかない
部下が目標達成に前向きに仕事を行うよう、人と仕事の管理を行うためにはどのような手法が必要となるのだろうか。
JAGAT人材教育を考える会では、人事考課制度設計、目標管理制度の導入、賃金制度設計の専門家である現代マネジメント研究会
代表の菅野篤二氏を講師に迎え、「中小印刷会社のための社員の能力・意欲を伸ばす人材評価と賃金制度」と題した勉強会を3回シリーズで実施した。2月に実施したその最終回では「目標管理が定着しない要因と解決策」のテーマで、管理職者の役割と、その教育の重要性を学んだ。
菅野氏は企業の業績を「業績=人員×能力×意欲×環境」という式で解説する。かつては若年層の安い労働力(人員)と、経済成長を背景とした右肩上がりの環境に恵まれ、それが終身雇用と企業の成長を支えて来たと言えるだろう。しかし、これらが望めなくなった現在では、人材の能力を伸ばすこと、人材の仕事に取り組む意欲を向上させること以外に企業の業績向上は望めないとも言えるのだ。
つまり現在は、人材の能力と意欲を伸ばし、それをどのように評価し、処遇するかが課題となり、管理職者の役割がより重要となってくる。
●ノルマ管理と目標管理の根本的な違い
そこで用いられるのが、前述した管理職者の役割である「部下に仕事の割り当てを行い、その仕事について目標を設定し、その目標を達成させるための『動機付け』や『指導』を行い、期末に期待通りの成果を上げたかどうかを評価する」という目標管理の手法である。
目標管理は多くの企業で実施されていると言われているが、社員が「やらされ感」を感じたり、目標の押し付けを行っている傾向があり、能力や意欲の向上に繋がっていない企業が多いと言う。
管理職者が部下に対して目標を一方的に与えて、その目標の達成過程を厳しくチェックするのは飽くまで「ノルマ管理」であり、部下がまだ新人で仕事の仕方もわからず、進行の管理もできないというレベルであれば有効とされるが、目標達成の方法としては長続きしないし、限界がある。
目標管理とは基本的に「自分で目標を設定し、自分で達成過程を管理し、自分でその結果を評価する制度」である。企業の中で展開していく以上「すべてが」ではないが、極めて自律的、自主的な考え方と言える。
●目標管理のプロセスとステップ
目標の設定では、経営や部門の目標と個人の目標が連動していることが重要となるという。
経営や部門の目標を押し付けるのではなく、個人の目標設定とその達成を通じて、それが結果経営や部門の目標の達成のために「貢献している」「参加している」という意識を持たせることが重要である。そのためには、面接等を通じてトップダウンとボトムアップを繰り返しながら目標を決めていかなければならない。
この目標設定時の個人と組織のベクトル合わせは、大変骨の折れるやりとりであるが、ここを曖昧にしたり、目標の押し付けで自主性を阻害するようなことがあると、目標達成度の評価時に正当な判断の支障をきたすことになる。
目標を達成する実施の段階では、管理職者は「報告、質問、アドバイス」といった方法を活用して、「管理と受け止められない管理」を行っていくことが重要になってくる。途中で目標達成方法の軌道修正が必要になってきた場合は、この段階で話し合いを行う。これは1~2ヶ月に一度の面接等を通じて行っている企業も多いという。
評価、つまり目標達成度を行う段階では、自己評価を元に管理職者と話し合いを通じ、両者ができるだけ納得する形で最終の評価が行われる。
●管理職者トレーニングの実際
部下と目標を設定し、進捗に対し「管理と受け止められない管理」を行い、目標達成のための後押しをし、最終的には、部下が納得する評価を行うのは、やはりトレーニングやスキルが必要となってくるだろう。
先日、菅野氏の指導する印刷会社の管理職者を対象とする、評価トレーニング研修に参加する機会があった。社内研修ということもあり、実際の社員の方をモデルに、実際に5段階の評定作業を行ったり、部下との面接の模様を映像で見ることが出来た。
達成する目標を、何を尺度に評価するか(たとえばS/A/B/C/Dの5段階)、これはあらかじめ目標設定時に行うわけだが、行動と結果をもとに評価を行ってみると、達成する目標と評価の尺度が必ずしも適切とは言い切れないケースが出てくるなど、目標設定の重要性と難しさを実感することができる。
また、最終評価を決定する面接においても、管理職者の面談スキルが、部下の納得度合いに大きな差が生むということがわかる。ここでは自己評価と管理職者の評価のギャップを埋めることが重要となってくるが、ある上司は一方的に自分の評価結果の説明を部下に行う傾向があり、部下は明らかに自分の意見を殺して不満を残しながら、上司の下した評価を受け入れてしまっていた。
一方、別な上司は、部下から自己評価の説明に耳を傾けることにまずは集中し、少しずつ管理職者としての意見を伝え、それに対する意見も聞きだしながらその相違を少しずつ埋めて行った。最終評価に対する部下の納得性は明らかにこの管理職者の方が高いことがわかる。たとえ最終評価が自己評価が低くなってしまったとしてもである。後者の管理職者はこのギャップを次期の目標につなげ、最終評価を部下の目標達成への意欲へ繋げることに成功している。
部下の能力と意欲の向上に、管理職者教育がいかに重要であるかを目の当たりにすることができた。
JAGATでは今年度公開講座、社内研修ともに、管理職者教育の体系化と充実化を図り、ご活用いただいている。最新情報はJAGATホームページでご確認いただきたい。(
http://www.jagat.or.jp/seminar/ )
お問い合わせやご要望はCS部
教育コーディネータチーム(tel.03-3384-3112)までお寄せいただきたい。