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訪れた場所でスマートフォンをかざすとみどころや名産品などの観光情報、ルート情報などが表示される観光ARアプリが増えている。なんのためにARを用いるのか。
2013年2月22日開催のクロスメディア研究会セミナーでは、「位置情報ARによる地域活性化事例 」というテーマを取り上げた。
AR(拡張現実)には大きく分けて2つの方式がある。画像を読み取りテキストや動画といったコンテンツを表示するビジョンベース(画像型)と、スマートフォンなどの端末に搭載されているGPSや電子コンパスによって位置を特定し、カメラによって撮影された風景を関連付けてコンテンツを表示するロケーションベース(位置情報型)である。ロケーションベース型のARは位置情報に紐付いていることから、人を動かし集める仕掛けとして観光支援・店舗誘客などの場面で活用が広がっている。
「おもてナビ」とは、位置情報ARの技術を用いた行動連動アプリとして開発されたまち歩き観光アプリである。エポネット社が開発し、2011年に秋田市で導入された。観光地にスマートフォンをかざすとみどころや名産品などの観光情報、ルート情報などが表示される仕組みだ。
音声や動画で説明するため訪れた人に興味を持ってもらいやすいことに加え、日本語のほかに英語、韓国語、中国語に切り替えて使えるので、看板に外国語を表記していない場所でも外国人観光客に細かな情報を届けることができるようになった。
2013年3月からは八王子駅周辺の飲食店や施設情報を表示する「八王子まちナビ」というアプリもスタートする。これは駅を訪れる人に地域の店を利用してもらいたいという目的で開発したもので、自治体側から声がかかった。店舗情報だけではなくクーポンも表示するしくみである。この周辺では商店街オーナーの高齢化が進んでいるためスマートフォン向けの情報を入力することができない店もあり、地元の商工会議所に手伝ってもらってクーポンを入れてもらうようにした。
「Layer(レイヤー)」は、オランダの企業が開発し、国内でも300万ダウンロードされているという世界的に普及しているARアプリである。画像型と位置情報型の両機能を備えているのが特徴で、国内ではシステム・ケイ社がパートナーとしてアプリのローカライズや開発案件を手がけている。
平和記念公園では、平和の像や原爆ドームといった知名度の高いモニュメント以外にも、数多くの石碑が建っている。Layerアプリを使った「広島P2ウォーカー 」というARコンテンツをリリースし、園内でアプリをかざすと石碑の説明やルート情報などが表示されるようにしたことで、来園者に見落とされがちな石碑の存在を知ってもらえるようになった。
このような観光地の情報は頻繁に変わることもないためリアルタイムでの連携を必要としない。そこで同社では相手側にExcelファイルなどで緯度経度情報とそこに表示するコンテンツをまとめてもらい、データ受け渡しをおこなっている。
Layerはほかにもゲーム性の高いコンテンツや地域の観光情報を多言語で案内する「トラベラー北海道」にも利用されている。これらの多くは県や市から依頼を受けたものである。
位置情報型ARは、利用者に新しい体験を提供できる仕組みとして利用が広がっており、クライアントからの引き合いも増えていくと予想される。前述のシステム・ケイ社でも数年前と比べ最近は実際に予算がついたといった現実的な案件が増えているという。
マーカー型と比べて印刷ビジネスに結びつきにくい印象もあるが、今回のセミナーを通じて、印刷会社がこのような観光・集客ARコンテンツを手掛ける場面で店舗や地域のコンテンツを取りまとめる立場として活躍する機会も多く出てくるのではないかと感じた。GPS精度の向上やスマートフォンの消費電力抑制など技術も進歩しており、地域の集客を考えている、人をどう呼び寄せるか、という課題可決の手段としてARを活用する場面は増えていくだろう。
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★同セミナーでは、上記2社のほか、海外のAR事例等についてナレッジワークス社の亀山氏より解説いただいた。
本セミナーの開催レポートはこちら
(JAGAT 研究調査部 クロスメディア研究会 中狭亜矢)
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