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今このご時世だからこそ、中小企業がいろいろなことに挑戦できる。いろいろなところと手を組んでものを生み出すには、一番いい時代である。
大学卒業後に入社した会社は東芝情報機器だったが、当時大企業に何か提案してもなかなか話に乗ってこなかった。ところが、今の不景気な時代に大企業に企画を持っていくと、すぐに興味を示す。スキャナやプリンタの件でも、大手の技術部長がすぐ出てくる。
現在のデジタル化社会では、いろいろな商品が小ロット化しているので、いろいろな形式のサービスが出てきている。その中で、中小企業だからこそ新しいサービスができる時代になっている。
■コンシューマプリンタの小ロットデジタル印刷
プランでは、プリンタ300台を1人で見る体制になっている。プリンタを並べて印刷するのは簡単なことと思われがちだが、実際には技術的なことでいろいろなことが必要になってくる。
もともとは大学の教科書や専門書などを出版社から「小ロットで安くで作る方法はないか」と相談され、プリンタをたくさん並べて品質など検討しながら刷ることから始まった。
まず、徹底的に安くするためには、インクはニュートン粘度計や特許文書を見て、インクをどうやったら安くできるか検討した。また紫外線照射や、加速試験をやるための設備も必要だった。
インクの耐久性を見たり、目詰まりの原因を研究したりした。エプソンのインクジェットのヘッド開発者や元開発者の力も借りた。そして、最終的には耐久性の問題などを考えてエプソンにお願いした。
エプソンのヘッドの価格は1個1万円強で、それを20個並べると何億円の機械になる。高価になる理由としては、インクの圧力、印圧の調整など、さまざまな技術をたくさんのヘッドを並べて印刷すると非常に大変だからである。台数も、何万台も出ない。
ところが、一般のコンシューマ向けは何十万台も出ているので、1台あたり非常に安価である。それをプランでは、インク詰まりせず、コントローラーで1つのファイルを100台にRIP展開し、1回印刷用のデータに変換するだけで全部に流してしまう。なので、1つのオンデマンド印刷機として、100台を1つの印刷機として、まとめてプリントアウトすることができる。
これが完成したのは、2010年4月である。プランは元々製本屋なので、どこの印刷会社へ行っても、「製本屋は、何も知らないだろう」という目で見られていたが、4月のスタート以来、徐々にお客さんに見本を見せていき、1社大手の会社でから「1点やってみようか」という話をいただいた。それが好評だったので、売上が伸びていっている。
この仕組みは、書籍用紙を使用したりして、できるだけ紙を選ばないよういろいろな工夫をされている。1社だけだと、インク代や紙代は極端に安くならないが、何社かで行ったらかなり材料も安価になり、サービスとして統一化してお客さんに提示できると考えている。先日、エプソンの2部署からビジネスモデルとしての話で連絡があった。コンシューマ向けの機械を印刷業界で使用し、色は全部統一して、プランには安くインクを出してもらい、そうすると詰め替えインクもなくなるし、他社に勝てるという話で盛り上がっている。
プランでは、年間300~500台しか売れない何億円もの機械は使用しないで、コンシューマ向けの安い機械を使用し、100台でも10台でも1,000台でも需要に合わせて設備を増やすことができる。これらの機械を印刷業界で使い、家庭用のプリンタと同じ色が出ることになれば一般の人たちも使用してくれるのではないか。
■大型絵本
大型絵本は、福音館書店という絵本ではナンバーワンの出版社から話をいただいた。大型絵本は幼稚園や高齢者の方々に読み聞かせで使用されるものである。プランでは年間約4,000万部、日本の半分以上のものを作成していて、現在この大型絵本が非常に売れている。これが全量オンデマンド印刷に変わることになった。もう1年近く行っていて、新刊は全部オンデマンド印刷である。
具体的にはこれが普通の印刷だと、製版、印刷、製本あわせて何百万円もかかる。現在、100~150部の受注があるが、1回の発注がまとめて5点、10点であり全部で約1,000部になる。中身はばらばらだが、製本としては一気に作成できる。
オンデマンド印刷は普通の印刷よりも紫外線に強い。読み聞かせで読ませていても、色はなかなか褪せてこない。それから、1冊あたりのコストは大体今までのオフセット印刷で5,000部作るものに対して約1.3倍である。ただ、出版社としては、今まで5,000部作っても5,000部は売れない。何十年もかかる。
『めっきらもっきら』という絵本は、絵本の中でもダントツで売れている本である。『ぐりとぐら』など売れ筋商品は数千部いくものもあるが、普通のこういう本を大型絵本で読み聞かせしたいというとき、300部、400部は出るけれども、5,000部作るわけにはいかない。300部作ると、これは1万円の値段だが、オフセット印刷するとはるかに高くなってしまう。製造だけで約1万円かかってしまう。それをプランは2,000円強で全部印刷してしまおうと考えて、現在大型絵本は全部オンデマンドになった。
日本でナンバーワンの福音館書店がオンデマンド印刷にしたので、他社からも問い合わせが来ている。あとは、絵本でも幼稚園の記念などを印刷に全部取り込むことができる。オンデマンドで、福音館書店で扱っている。それから、「コミックとらのあな」など、数々の出版社が始めている。
■今までのオンデマンド印刷との違い
今までのオンデマンド印刷と何が違うのかというと、償却費である。機械代の償却、電気代、ランニングコスト、人件費、それも固定経費、変動経費、リスクも考え、機械コストを下げてやっている。オンデマンド機の会社も、コンシューマ向けの安いプリンタをたくさん並べることがいかに有効かということがわかったようだ。
開発までの経緯だが、まずプリンタを買ってきた。分解し、ネジ1本まで全部ばらばらにして、構造を確認して、それから関係者を捜し出す。エプソンのこれを開発した人は誰かなど調べているうちに、だんだん見えてくる。いろいろな情報を得て、サーマル式とピエゾ式の耐久試験もいろいろやった。
■開発の経緯
NGOの理事長をしていて、第1回のスリランカフェスティバルがあった時の話である。
4階建てのエステのサービス、体操着やワンタッチで着られる民族衣装の縫製工場、それからお茶工場をやっていた。メインはミシンでの縫製で、ジューキなどのミシンを買ってきて縫製したが、いろいろ揃えるとお金が足りなってきた。そこで電機店で2万円くらいの家庭用ミシンを4台買い、スリランカで使った。
しかし全部1~2週間で壊れてしまった。どこが壊れるのか分解して調べてみた。幾つかのベアリング、たった1つのガイド、モーターが弱いことがわかり修理したら、2年間朝から晩まで回し続けても全然壊れない。そのうちに20万円の業務用のミシンが壊れた。2万円で、改造費15,000円の一般家庭用のミシンのほうが、耐久性が良い。なので産業用の機械を買わずに家庭用のものを買い、改造して使うようになった。戦後の日本の中小企業は、部品を購入し、自分たちで機械をいじり、技術を磨きながら他にできないものを作ってきた。ところが、私自身もいつの間にか売っている機械を購入し、そのまま使用していることが続いた。私が小さい時、父が「キャッシュディスペンサーの、1枚ずつ紙を数える技術は我が家から生まれたのだ」と言っていた。木村機械に委託して作らせたら、そこがパテントを取って大企業になった。発想としては、紙を1枚1枚持っていくときに、吸引で、ロータリー式で1枚ずつ回転させていくと1枚ずつ取れるという予測のもとででき上がった。そのような発想は、中小企業はみな持っていて、そのような工夫の中で、より安価で良いもの、小回りの利くものを中小企業は作っていた。
機械をたくさん作るときに、みな創意工夫する。現在の日本では、そういう感覚を持っている人が非常に少なくなってきた。特に印刷業界、製本業界では減ってきたのではないか。中小企業でも、経費をかけずにスキャナやプリンタなどいろいろなものが作れる。そして製品化し、利益がでるようになる。基本に戻ってみなで考えていけば、良いものができるのではないか。
オンデマンドプリンタメーカーでは、液体トナーなど、感光ドラムのコストは下げようがないようだ。耐久性に関しても、ずっと止まっていて、これ以上上げることは非常に難しい。1枚当たりのコストをどこまで下がるかだが、カラーでA3だと1円以下に下がらないという計算になる。メーカーの儲けや、コスト、機械の状況を見ていると、2~3円かかってしまう。
インクジェットはピエゾ式とサーマル式の2つがあるが、究極的にどこまでスピードが上がるかである。将来的な予測からすると、極限状況まで安くなるのはピエゾ式で、それでプランはピエゾ式を選択した。ピエゾ式は、インクがスポイトみたいなところを押して飛び出てくる。固まったところで1cc出すのではなく、両方がフリーの状態で押しているので、手前のほうの圧力など、いろいろな要素が絡んでくる。溶剤もいろいろと使用してみたが、インクが詰まるのは、エアーが入って気泡ができた状態であるのがほとんどである。その気泡を取り除くために、ナノチューブというチューブをインクの中に通して空気を引っ張る。そうするとエアーが取れるので、そこから先のインクはエアーが入っていない状態になる。大体98%は抜かれ、いくらインクを噴いても気泡ができないのでインク詰まりしない状況になる。
それをコンシューマ向けのプリンタでやることは非常に難しいが、例えば100台の中で何台かそういうモジュールを付けておけば、1台あたりの値段は安くインク詰まりがない。プリンタにデータを送るのは1台2万5,000~6,000円のパソコンだが、そこでRIP済みのプリントアウトするためのデータに展開して、全てLANで送って出力する。普通プリンタを使うと、10ページ出すのに出力されるまで時間がかかる。そのときに、画面に出ているデータをプリンタ用のデータに展開するが、3枚出そうとするとそれを3回やる。3台のプリンタで同じものを出そうとすると、それを3回やらなければいけない。つまり、コンピュータにそれだけ負荷が掛かって時間が非常にかかってしまう。これは1~2台動かしている分にはいいが、100台動かかす場合、例えば100ページで10分かかるなら、10分×100台で1,000分かかる。ところが1台だけプリントアウト用のデータを作り、それを全部のプリンターに同じデータを送ってしまう。エプソンのB300やB500の4色の顔料インク用プリンタだが、それで表裏刷ってくる。例えば300ページのものなら、表裏刷ったものが出力されるので、製本機に入れるだけである。9台を1つの棚に入れてワンセットにしている。それが6台あると54台になるが、それに1つのコントローラーから一気に吐くというようにやっている。例えば1,000部刷ろうと思ったら1台で20部ずつ刷る。
インクは全部共通のタンクに入っているので、そこから1台ずつプリンターに供給される。人間がやることは、「出力」というボタンを押すことと、紙を400枚から600枚、カセットに入れていくことである。あとは表裏刷って出てくるので、回収だけである。300台1人でできるのである。紙がなくなったところに紙を入れて出力するだけである。大体、高解像度で出力して、1台で1,000ページくらいである。50台だと6万ページくらいしかできない。100台なら12万ページである。そういうレベルだが、700~800冊などのペースがスタンバイの時間なしでできる。プリンタは1台3万円、100台で300万円である。トナー式のプリンタなら、某会社のものだと700~800万円する。インク代は詰め替えインクだが、耐候性を全部チェックしたオリジナルのインクを中国で作っている。UV対応の染料インクは、リッターあたり何百円の世界である。顔料インクも、量が出れば800円くらいになる。エプソンにリッター当たりいくらかと聞けば、1グラムあたり50円として500円、5,000円、5万円、20万円だと思うが、それが数百円になる。そのインクを使用し、紙は北越製紙の紙をベースに、多少インクジェット用に、少し発色がいいように絵本の場合などは変えている。やはりメーカーで出している紙よりずっと安い。10トン単位でそういう紙を買っている。書籍に関しては一般の書籍用紙を使っている。Acrobat のPDFをそのまま出力できるようになった。
ルールを守れば出力できるようになってきて、一般の方々も本やチラシ、パンフレットを出せる。
傾向として、現在2~3人でやっているようなことも、昔はデザイン会社に頼んでいたが、自分たちで作るとことが非常に増えてきた。印刷業界としては、受ける形としてこういう形で十分いけるのではないか。
質問:プリンタが数100台あると、色の個体差が大きく、問題になるのではないか。
大村氏:個体差は出てくる。各機械によって色が変わってくる。これを、普通は機械ごとにプロファイルを変えて色を調整したりするが、同じファイルを使ったら色は当然違う。若干、インクジェットは、温度や、使用量、いろいろな要素で色が変わってくる。朝と夕方でも違うし、いろいろな意味で色が変わってくる。
それを調整するのは、大型のオンデマンド印刷機も24個のヘッドを調整して色を合わせるのが非常に大変である。しかし、プランが使っているプリンタは、1台で1冊作ってしまうので、確かに隣と色は若干違うが、見開きは一緒である。お客さんで文句を言う人はいない。
郡司:今の話は大事なことである。普通の印刷の場合、見開きが違うから文句が出てくる。
大村氏:ある大手出版社であるが、校正に非常にこだわっているが、実際現場で印刷機を回していると、1枚ずつ色が違うくらいのレベルである。紙の厚さも違うし、同じ色になるわけがない。
ただ一番問題なのは、絵本という一番うるさい部分なので、色にこだわるお客さんだと製版もプランに発注される。そのときには、一番重要なことは見開きである。見開きで色が違わないことである。
質問:エプソン社を選択した理由は?
大村氏:耐久性である。エプソンは耐久性がすごい。C社もH社も100台くらい壊した。耐久試験は朝から晩まで3ヵ月間回し続けたりなどいろいろやる。例えば、インクジェットの安定性が変わってくる。そういうデータが残っている。コーターや駆動系、ヘッド、基盤など全て耐久性というのは各機械によって違う。それから会社によっても機械も違う。同じ会社でも機械によって違う。そして、E社のが一番壊れなかった。皆さんが買ってきて使ったら、10万枚くらいで壊れるだろう。プランのは壊れない。
郡司: プランは埼玉県の児玉の工業団地にあって、そこに行くと、立派な社員食堂のようなものがある。社員食堂かと思たら、インキの調合場所だった。薬を混ぜると詰まりにくくなるとか、いろいろやられている。いろいろなものを混ぜているようだ。
大村氏:爆発してインクを浴びたこともある。頭で考えていろいろやった。
郡司:プリンタも相当ばらしてあった。その中で、この部品を変えたら、ここが摩耗するとかいうことがある。当然、E社でも何十万部も刷るとは考えていない。そのわりにはよくできている。
大村氏:そうである。ギアなども、みんなプラスチックで何円というものを使っているのだろう。それに耐久性をある程度までもたせている。
郡司:プランはパートナーを募集されている。この機械を売るという話ではなく、パートナーとしてやっていくことである。プランさんだけでは抱えきれないくらいの仕事が来ている。
大村氏:例えば1万部やってくれという話が来ると、オフセットなら1~2日でできるが、それが1週間かかってしまう。そうすると「オンデマンドなのに日数がかかるのか」という話になる。しかし、そんなたくさんの部数がいつもあるわけではない。波がありこなせないので、今は営業をかけていない。しかし、何社も扱っていれば、お互いに持ち合いができ、あらゆる可能性が出て来る。
2011年6月30日テキスト&グラフィックス研究会「コンシューマ向けインクジェットプリンタによるデジタル印刷ビジネス」より(文責編集)