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■デジタル印刷ビジネス参入の理由
デジタル印刷を一生懸命やっている会社は、製版から出た会社や、仕組みから出た会社、マーケティングがバックグラウンドの会社などいろいろあるが、錦明印刷は一般のオフセット印刷をやっている会社で、売上のうが半分が出版向け、残りが商業印刷である。
デジタル印刷を分けると、電子写真、インクジェット、オフセット印刷物にインクジェットで刷り込むハイブリッドタイプがあり、大体売上の約5%である。
最近では新しいタイプのビジネスとしてフォト関係のアルバム機械や撮影サービス、写真も売っていてそれらが売上の約6%である。デジタル印刷は、錦明印刷にとってはそういう位置付けで、オフセット印刷ではできないサービスを補完している。
錦明印刷は、デジタル印刷はオフセット印刷でできない部分をカバーするものと考えている。ビジネスなので、既存客だけでなく、顧客の新規開拓や企業間の新しい繋がりを作らなければならない。そのときに、
オフセット印刷がきれいで早くでき、安く相見積で取れるなどだけでは、今の世の中は限界があり難しい。
きれいに早く印刷できるだけではだめで、何か他に必要である。
約10年前にデジタル印刷を始めようと思った頃、海外では「ビジョン21」などいろいろなレポートが出ていた。
特にアメリカで言われたことは、印刷会社はきれいな印刷物を自慢げに売っているが、スタンダードプアーズ(コンサルティング会社)に言わせれば、ユーザはそうは見ていない。ユーザは自分の商品やサービスをもっと売りたいと思っている。そのためにチラシやカタログ、ブローシャーやDMを作っているのだから、もっと顧客側に立って顧客の業務プロセスの中に入り込んで、マーケティングサービスの提案を望んでいると書かれていた。主に商業印刷はそういうことなので、新しいビジネスのきっかけを作るという意味合いでは、今と同じこと、人と同じことができるだけではお客さんが発注する理由にはならない。
もう1つは、既存のお客さんも、出版社も、一般の会社もやはりオフセット印刷ではできなかったサービスを非常に喜んでくれることが印象的だった。印刷会社がお客さんに心の底からありがとうと言われることはない。大抵はミスしたり色調が合っていなかったりして、クレームを付けられる。
しかし、デジタル印刷の場合には、良かったと喜んでもらえることがあるので、顧客との関係性も良くなる。錦明印刷は、デジタル印刷を導入していくら儲かるかもあるが、全体的に商売上、非常に良かったと思っている。
■デジタル印刷の成功事例
1)在庫削減
10年前に実際始めようとした時にマニュアルやテキストなどの印刷物が、印刷したもののうちどれくらい使わずに捨てられるかということを一番考えた。何10%も捨てられるので、特にセミナーのテキストで営業マン教育などを行うと、20~30の講座があるうち人気のある講座はすぐに何百と使うようになるが、中にはあまり来ない講座もあり差がある。
この会社も、訪問した時はオフセットでテキストを刷っていた。やはり結構在庫があり、何種類も講座があるので、それを在庫管理していた。
そこで、我々が最初に提案したことは、「デジタル印刷でやりましょう」と言う前に、「御社の印刷物のテキスト管理に関わる在庫管理の業務と、倉庫のコストと、倉庫から出し入れする指示などの間接的な人件費をすべてゼロにします」と言った。
10年ほど前はデジタル印刷が何だかよくわからなかったので、先方の会社も「本当にそんなことできるのですか」と、お互い半信半疑でやっていた。これは仕組みそのものを変える話なので、かなり時間がかかった。担当者レベルはわかってくれたが、その上の役員に担当者が何のメリットがあるのかを説明するのに随分時間がかかった。半年程してから役員が出てきて、「検討した結果、お宅の提案を呑むことにした」と言われた。年度の切り替え時期だったので半年以上かかったが、先方もよく考えていろいろと計算してみると随分コスト削減になるので決まった。やはり講座によって受講者数がばらばらで、たくさん必要なものとそうでないものもある。
それから、次年度に内容を変える際に困ることもたくさんあったので、セミナーのテキストとして非常にフィットした例である。
最終的には本の形にしたり、各企業に対する研修の場合は、その企業ごとのオリジナルのファイルを作ったりといろいろなものが出てくる。そんなこともあって在庫の削減という意味では効果があった。
2)販売促進支援
次の例は、錦明印刷だけでなく他の会社でも提供しているが、出版物で言うと楽譜のようなものである。
楽譜はいろいろな曲があって、錦明印刷も音楽会社と付き合いがあるので1年中刷っているが、中には数の出ない楽譜もある。これらはデジタル印刷されているので、錦明印刷もそういうものを提供している。
専門書でその世界の人たちしか読まないような、必ず売れるけれども3年間で500冊くらいしか出ない本がある。そういう本を3年分作っても、売れない分は出版社としては初年度にお金が出てしまって厳しいので、100冊ずつとか200冊ずつ刷って年度年度で消化したほうがキャッシュフローも良くなる。そのようにしてはどうかと提案して、そのようになっているのが専門書である。
日常的に使う薬ではなく、病院で処方するような難しい薬の製薬会社のパンフレットがある。製薬会社のセールスマンが病院と話す時のものなので、多くの部数は要らない。せいぜい100部くらいで、それらを各営業所単位で、注文をいただいてから発送するような形にしようと提案した。それでもあまりクオリティが低くては困るので、それなりにクオリティの高いもので自動的に発送している。
プロモーションもいろいろある。錦明印刷ではダイレクトメールをやっていて、ワンピースDMパックは封筒が要らない。折って、糊付けして、そのまま発送できる。これはJPのゆうメールサービスを利用しているが、エコで早くていいという話である。
左上の宛名はインクジェットプリンターを使っているので、イメージとしては圧着はがきがA4判になったものだが、最終的には糊付けしてA4判の形にして宛名印字する。言ってみればハイブリッドである。中身はオフセットで刷って、印字だけはインクジェットでやっている。「デジタル印刷と言っても宛名印字じゃないか」と言われればそのとおりである。
音楽大学のオープンキャンパスの案内がある。昨今は少子化だし、大学のほうも学生を集めるためにいろいろ努力をされている中に、オープンキャンパスのDMもある。そこに錦明印刷の機能を説明したら、そのままお使いいただいた。
メーカーのパンフレットや金融関係では、証券や投資信託を扱っている会社のパンフレットにも使われている。何のためのDMかと聞くと、かつて顧客であった人たちが何らかの理由で自分達のサービスから離反し、それら離反顧客を元に戻すための促進パンフレットということである。この時で2万部くらい作った。最近は離反したお客を戻すというニーズがある。
成人式の写真で全国でチェーン展開している写真館のDMがある。着物のレンタルもやっている。驚いたのは、最初に注文を受けたのが成人式のすぐ後だったため、「成人式が終わったばかりで、何でこんなものを作るのか」と思ったが、良い着物は先着順で予約が入るのである。そこで、成人式が終わった直後にDMを作って、着物に対して予約が入ってくる。1年かけて注文を取るのだが、これも何万部も作ったので驚いた。
デジタル印刷機でも、一般の印刷機とハイエンドの印刷機がある。ハイエンドの機械は、印刷会社の目からすると、中を開けてその構造を見ると、オフセット印刷機と同じである。実際、メーカーの人と話をしても「これはオフセットの構造だ」ということで、敢えて錦明印刷ではデジタルオフセットと呼んでいる。
化粧品を訪問販売している会社の販促用ブローシャーがある。訪問販売の女性が使うものは、それなりのクオリティが要るので、これは6色印刷で刷った。
シューズメーカーの全国展開しているオフセットの印刷物があり、その色調にぴったり合わせてくれということで、6色印刷で限定的な店舗に置くポスターやブローシャー、スイングPOPのようなものを刷った。いろいろなニーズがあることがわかる。
2010年に西武球場でドッグカーニバルを行った時、錦明印刷が撮影サービスをしたものがある。黄色の帯のところにネットワークカメラと書いてある。私も「なぜドッグショーで錦明印刷の人間が撮影して、それにお金を払う企業がいるのか」と思ったが、この企業が売っているネットワークのカメラシステムは、留守中にセキュリティ上、自宅の中をモバイルで見られるというシステムである。
その会社の営業部長と話したところ、そのシステムを新規に契約する顧客の6割くらいはペットを飼っている人である。そこで、ドッグカーニバルの時にこういうサービスを考えたようだ。
秋だったので、我々から提案してクリスマスのバックとお正月のバックを2セット作り、クリスマスカードや年賀状に使える写真を撮れるように会場をセットした。そうしたら、連日、犬を連れている人たちの長蛇の列が絶えなかった。その際パネルにして何分後かにお渡しした。錦明印刷は写真館ではないので、良心的に、後日データをダウンロードできるようにして、クリスマスカードや年賀状に使えるようにしてあげた。そして、スポンサーになってくれた会社のロゴを入れたA3判のカレンダーを作って希望者に発送するというサービスで、このメーカーにも非常に喜ばれた。
次にデジタル印刷のDMの事例である。ただのハガキサイズのDMだが、ベルギーのブランドのバッグで、カラーの面が4種類くらいあり、裏を見ると全部で20以上バージョニングがあった。
このブランドは、春の新作や秋の新作を北海道から九州まで全部展開するので、日にちが少しずつ違っている。ここに近鉄や大丸、三越や高島屋など書いてあるが、東京ではなく地方の百貨店なので、福岡や札幌などの顧客に対して何百部ずつ発送する。
表紙は共通でも、4色差し替えがあって、それぞれ目玉の商品やプレゼントなど、いろいろなカラー商品が入るので、これはオフセットではできないと思った。
20以上のバージョニングがあり、少しずつ時期が異なって全国各地に展開する。ブランド品はこのようにに展開するのだとわかった。こんなことはオフセット印刷ではあまり経験しないので、企業のマーケティングについて私も勉強した例である。
3)CRM支援
CRMというか、顧客との関係性の改善については、いろいろなイメージバリアブルの技術があり、錦明印刷ではダイレクトスマイルというソフトウェアを使っているが、いろいろな会社のものがある。
スポーツクラブの事例であるが、先ほど紹介した金融関係の会社と同じで、スポーツクラブは入会キャンペーンで入会するが、実は退会する人も結構多い。入会促進を煽っている一方で、実は影で離反客をいかに止めるかということで悩んでいる。
この会社は、メンバーの誕生日や入会日など色を変えてカレンダーに書き、イメージバリアブルのカレンダーを作成発送して少しずつつなぎ止めている。どの程度、役に立っているかわからないが、どこの業界でも離反する顧客をどのようにして止めるか重要であることがわかる。
次はゴルフコンペ用に作成したカレンダーである。たまたまある企業で作成したので、「いかがですか」と幾つかの企業に提案に行った。わりと大企業に提案すると、みんな喜んで使っていただける。
大体、ゴルフコンペを開いてお客様を呼ぶのはロイヤルカスタマーである。大抵、立派な企業はやっていて、ロイヤルカスタマーに対しては、ゴルフに来て喜んでいただくだけでなく、集合写真やスイングの写真など幾つかの写真を撮ったり、他のページをイメージバリアブルの技術を使用しカスタマイズして名前を入れたりして喜んでいただいている。これは非常に評判が良い。
これは名古屋の会社と錦明印刷で考えたことだが、印刷会社はいつも注文を受けるばかりで、自分達からマーケティングのアイデアを出すことはない。そこで、「売れない時代に物をどう売るか」というマーケティングのアイデアと、錦明印刷の宣伝を兼ねた広報誌を作成した。これはデジタル印刷で、隔月発行している
フォトブックかCRMかという例で使われることもあるので、敢えて取り上げてみた。フォトブックは、最近デジタル印刷のソリューションの中で「こういうものもできる」、「こういうものもある」と随分言われるようになったので、取り上げる。
錦明印刷は普段はBtoBなので、2年程前に一般の個人ユーザと商売をするものを作ってみようと考えた。
たまたまフォトブックのバインディングのシステムで、ベルギーのユニバインド社と協力関係があり、錦明印刷でもそのシステムも売っているので、サイトそのものを作成しようと立ち上げた。
フォトブックの他にも、カレンダーや小さなストラップアルバム、イメージバリアブルのカレンダーなど、一緒に置いてここで売ってみようと試みた。その結果いろいろなご注文があった。最初の頃は、出版社や商業印刷しか扱ったことがなかった会社が、全く知らない個人の方から注文をいただくのでおもしろかった。
よくあるフォトブックは、レイアウトが限られているものが多い。縦位置や横位置など限られたものが多く、錦明印刷は印刷会社としてやっているので、おもしろくないと思っていた。
編集作業をユーザサイドにやらせると、ユーザ側から発注がかからなくなるので、編集などやらせないほうがいいと言う会社が多かったが、錦明印刷は、そんなことより作って感動するものでなければおもしろくないと思い、敢えてダウンロードして作成できるシステムにした。
つまらないフォトブックを作っても仕方がないというので、テンプレートも用意してあるが、ある程度ユーザが自由に使えるソフトウェアをダウンロードできるシステムにした。
すると、赤ちゃんが生まれた時の成長記録や、ペットの写真、子どもが学校に入った写真などが寄せられた。
個人の他には少年野球チームのものも随分やった。早稲田大学のサッカーチームから注文があったり、いろいろな大学のサークルからも注文をいただいた。一番おかしかったのはサンバのチームであった。浅草などのサンバの大会は費用をかけて準備してやっているので、記念のフォトをチームの人たちが持つと非常にうれしいらしい。これは個人というよりは、グループ、コミュニティーである。そういうニーズがあると感じた。
それから、PAGEの会場でブースを出していたら、企業の方がやってきて、「建築施工事例はできるか」と言われた。ある上場会社は、施工して、棟上げから完成まで、オーナーに報告のため必ず渡すものらしい。
昔から写真を撮ってアルバムに貼って届けていたのである。それをシステム化して、発注システムを作成した事例である。
それから、外資系の企業などで、優秀な社員にインセンティブツアーで旅行したり、海外視察に行ったりするが、その記録レポートや、記念としてお客様に差し上げるものもあった。
結婚式や七五三もよくあるが、これはどちらかというと個人からの注文というより、人生のハイライトの場面に対してはカメラマンが請け負って作るようだ。カメラマンも、作ったものを形にして、1枚の写真だけでなく、ページ物のフォトブックにして差し上げるので、カメラマンからの注文だと10冊とか12冊とか、結構ある。確かに、カメラマンが撮った写真は普通の人からもらうフォトブックの写真よりかなりきれいにできている。
結婚する人たちは、こだわりのカップルだと、ネットの発注だけでは心配なので、わざわざ会社に来て、「表紙はこうしたい」とか、打ち合わせに2人で来られるカップルもいる。人の幸せ、人生のハイライトの部分なので、結構なことである。
印刷だけだとそういう場面には遭遇しないが、これから結婚するカップルが来て、「こうしたい」とか「ああしたい」ということに携わる。七五三でも、こんなにいいフォトブックを作ってもらって、大人になったら両親に感謝するだろうと思うと、人の幸せに関与できるというのは、儲かる、儲からないは別にして、良いビジネスだと思う。
以上、まとめてみると、一般的にフォトブックは個人のニーズ、赤ちゃんの成長記録やペット、家族旅行、亡くなった方の追悼の写真集などがあり、それらは家族が思い出としてとっておきたいというニーズがあることと、個人だけではなく、コミュニティー、趣味の世界やスポーツ、野球、サッカー、それから老人ホームに家族がいる場合、老人ホームでの様子をフォトブックにすることもあった。あとはキャンプとかサンバのチームもある。
「こういうものもある」と言うと、企業の側からはロイヤルカスタマーを招待した時のゴルフコンペや、海外視察や社員旅行、建築の施工事例、そういうもののニーズもあったのである。
カメラマンからは、七五三や結婚式、インテリア関係の写真を撮って、カメラマンは自分の仕事として納品するので、錦明印刷のロゴを外してくれなどいろいろ細かい注文があり、そのようにしている。
錦明印刷は品質的に2種類のものを提供している。一般的なものはハイエンドなデジタルプリンターでやっているが、プロ向けのほうは、写真業界で使っているインクジェット、写真用の印画紙を使うようなインクジェットプリンター(印刷業界では使わないプリンターだが)を使ってやっている。
4)人件費の削減、業務効率改善
次に、人件費をいかに削減するか、業務効率をいかに改善するかについて話をする。
錦明印刷は本などを作成している会社で、名刺はよく名刺専門の印刷会社がある。お客さんに頼まれれば100枚や200枚、名刺屋さんに頼んで作成することはあったが、デジタル印刷をやるまでは、この会社は社員数が1万人くらいの製薬会社なので、大量の名刺は作ったことはなかった。
企業は頻繁に合併するが、この会社も合併して、日本国中に営業所ができた。総務部の取りまとめる女性が非常に手間が掛かって大変である。何とかそれを打開したいので、全国の営業所から個人が自分の机上のパソコンで注文できるシステムにした。
このシステムは、名刺の受発注システムや、既存のものなどいろいろある。そこで、錦明印刷も良さそうなシステムをベースにして提案したが、日本企業のニーズはいつも非常に細かく、既存のソフトウェアでは対応できない。
いろいろなニーズを聞いてみると、個人が発注するのは便利でいいが、勝手に何でも発注されては困る。そうすると、決裁権者や承認権者が承認するシステムについて、この会社では、3人オプションが立てられるようにしたいとのことであった。名刺を頼むとき、上司が出張等でいない場合もあるので、3人から選べるようにしてほしいと言われた。
他にも幾つか要望があったが、そのようなニーズを何度も聞きに行って、カスタマイズして、実際スタートするまでに約半年かかった。ある程度のところで見切り発車したが、そういうことでやっている。
この会社の場合、良かったことは、全国に営業所があるので、定期便が毎日のように出る。毎日のように発注や入稿、Web上でのオンラインの校正など、錦明印刷のサーバに入ってくる。特に春秋の人事異動の季節はすごい数が入ってくる。
錦明印刷の営業はこれに全然タッチしていない。営業マンに「週に1回くらいチェックしてはどうか」と言っているが、彼らは月に1回、請求書を書く時だけ「今月何件あった」と確認している。自動化されている。
日本の会社はコーポレートカラーがうるさいので、いろいろやってみたが、やはりオフセットで1回台紙を刷って、A3判だったら20面くらい付くので、その後、データに基づいたものをデジタルプリンターでプリントアウトしている。
これをやっていたところ、翌年にこの会社から、「1年間やって名刺ができたから、今度は年賀状をやる」と言われた。
年賀状は、年賀状専門でやっている印刷会社があって、錦明印刷としては、頼まれて作成することはあっても、8万通も刷ったことはない。大体、お年玉付きの年賀ハガキが4面付きだというのも全然知らなかったくらいである。
よく聞くと、宛名は自分たちでやるが、差出人の部署と名前がものすごく変わる。それの場合は1人1人ではなくバージョニングだが、バージョニングがたくさんあるので、年賀状は統一のカラーをオフセットで刷った後、差出人のバージョニングをするということをやった。これを一番喜ばれたのは、総務で一括してまとめている女性である。ものすごく大変だった手間がなくなったということで、非常に喜ばれた。
また、先ほど説明したDMのメーリングサービスは、ワンピースDMメールの発送までしている。ゆうメールは代理店制度を敷いていて、錦明印刷もある代理店と組んでいるので、郵便料金も多少ディスカウントしてワンストップの提案をしているが、これをやっていて、お客さんから言われたことがあった。
製薬会社で、痛風の尿酸値を下げるような薬を扱っている会社だった。製薬会社が新薬をマーケティングする時は、なかなか営業マンが行っても病院の先生は会ってくれないらしい。病院の先生に何とかコンタクトしたいとのことので、錦明印刷の新しい形態のDMを提案した。
その時提案したのは、「アンケートにお答えいただくとイメージバリアブルのカレンダーをプレゼントする」ということである。それまで、この会社が薬のDMを打ったときのレスポンス率は3%くらいだったが、この提案でやったところ13%になったといって、非常に喜ばれた。
喜ばれたと同時に、アンケートが予想以上に返りすぎて、それを処理してプレゼントを発送するのは少人数のマーケティングチームで手に負えないので、アンケートの集計や、プレゼントの発送や、いろいろな郵便物の扱いについての事務局を代行するサービスをやってほしいという注文があった。
同じように、共済の組合が、DMの発送をやっていると、必ずアンシラリー(付帯サービス)が出てくる。一度あったのは、印刷は何もしないで「発送だけやってくれ」ということで、封入封かんと発送を何万通とやったことがある。
メール便とゆうメールの扱いの定義の差で、ある一定の部分はゆうメールのほうが安い、お宅の郵送コストのほうが安いと言われ、それをやると100万単位で得をするということで、全然印刷しないで発送だけやった事例がある。
これはデジタル印刷ではないが、アンシラリー(付帯サービス)として、省力化サービスの一環として話をすると、出版物を目録にするとき、聞いてみると全部紙でやりとりしている。そこで、目録を作っている会社に、それをWeb上で編集できる仕組みを提案した。
実際にはこんな立派な図書目録を多く作っているところで、我々は最後のカタログ印刷するところが大変で、お客さんに早くしてもらえばデータが早くもらえるという提案した。無駄な経費が要らなくなるので、喜ばれた事例である。
■まとめ
以上、事例についていろいろお話ししてきたが、最初に立ち返って、なぜデジタル印刷のサービスをするのかは、時代と共にその意味合いは変わるのではないか。
印刷業界は、90年代に2つのピークがあって、そのピークアウトの後は一貫して下がり続けている。これが業界の今の実態である。
プロダクトライフサイクルは、もちろんメーカーにも概念があるが、有名なマイケル・ポーター氏も言うとおり、業界においてもライフサイクルというものはある。
そうすると、我々はこのグラフィックアーツの業界に関わっているので、どういう認識を持たなければいけないかと思う。20世紀と明らかに違うところは、成熟期に入っていることは間違いない。
人によっては、印刷業界は衰退期に入る一歩手前の成熟期だと言う人もいる。誰がどう言おうと、成長期とは違うのである。成長期とは違うとはどういうことかというと、やはり意識してやるのと、やらないとでは違う。
特にポーター氏が言う、1番目の「成長は鈍化してシェア競争が激化する」というのは、まさしく印刷業界で起きていることである。シェア競争が激化すれば、2番目に言うとおり、どこの印刷会社がどれだけ安いかは、錦明印刷よりお客さんのほうが知っている。
「もうそんなことはわかっているよ。いくらでやるんだ」と言われ、コストと「何をしてくれるんだ」というサービスのほうに重点が移る。全く印刷業界で起きていることそのものである。
ただ、4番にあるように、納期が短くなるということは需要が変動するからで、特にオフセットの大きな機械などはピークの時とだめな時の差があって、ピークの時は仕事があるからいいが、仕事がない時にそのままずっと空けていると、全部固定費として利益を圧迫する。そういうプレッシャーをどうやってコントロールするのかが難しくなる。
こういうような時代には、同じことだけ見ていたら暗くなるし、先がないように見えて悲観論しか出てこない。
印刷業界で「我が社はどこでも戦える」と言える会社は、日本では2社しかない。
大手2社の社長の年頭あいさつを見ると、「我が社は全領域、全方位にわたって戦う」と書いてある。それは大手の会社だから、そのとおりだ。
しかし、一般の中小の会社はそういうことはできない。どこか自分の生きられる領域にフォーカスして、しかもコストのリーダーシップが取れればいいが、それは一般的には大手だろう。コストのリーダーシップはマージンが小さくて回転率で商売することなので、商売の回転が止まったときに死んでしまう。難しくて何でも集められるのは、やはり大手の戦略だろう。
そうなると、どれだけサービスの差別化ができるのかという話になるのではないか。デジタル印刷はそういうところに未来があるのではないか。
特にデジタル印刷は、このところのクロスオーバーポイントがどの辺かいつも議論になる。ただ、単純に物理的なポイント計算もさることながら、バージョニングやパーソナリゼーションしたことの効果、先ほどの例だとレスポンスレートが3%から13%になったことの意味合いを、発注者である企業がどのように評価するかで、ただ単純に物理的な印刷物の作成でなく顧客が評価し払おうとする価値というのは別である。
最後に、PSP(プリントサービスプロバイダー)とMSP(マーケティングサービスプロバイダー)という、近頃よくアメリカで言われる概念がある。
わかりやすく説明すると魚を一本釣りするやり方と仕掛けでいっぺんに釣るやり方があるが、プリントサービスプロバイダーは、カタログを作るのも本を作るのも、1回ごとの仕事のために1回1回お客様のところへ行って、印刷物を作る打ち合わせをして帰ってくる。また来月になると同じことをするというのが、プリントサービスプロバイダーである。
よくアメリカで言うマーケティングサービスプロバイダーの概念は、先ほどの名刺や年賀状、あるいはWeb toの概念にあるがごとく、仕組みである。最初に説明したセミナーのテキストの会社も、その後我々からWeb to Printの仕組みを提案して、今ではWeb上で発注していただくようにしている。
まず最初にそういう商売の実体を作って、その実体ができたら、今度はそれを次の段階としてはWebから注文いただくようにしないと、最初に言った「お宅はそんなことをしていて儲かるのか」という印刷会社の社長の質問になってしまう。その販売の固定費をどうやって減らして、仕組みを使って商売を回していくかという、次のフェーズに移っていかないと難しい面はある。
錦明印刷も、Web to Printを一生懸命やった時期があり現在もやっているが、難しかった事例を1つ紹介する。
Web to Printシステムは、わりとJAVAで作られている。そうすると、相手が立派な会社であればあるほど、上場会社で一流企業の通信会社の発注担当者が「これはおもしろいからこれでやろう」と言ってくれたが、いざ入ろうとすると、その会社のファイアーウォールか何かで、向こうのシステムにリーチできないことがあった。名だたる受発注システム、Web to Printシステムを使おうとして、行かないこともあった。
アメリカの会社はどうしているのかと思う。立派な会社であればあるほど難しかったということはあるが、最近はどうなのか、よくわからない。
質問:差し支えなければ、代表的なデジタル印刷の設備を教えてもらいたい。
塚田氏:うちも印刷会社なので、一応、その時々の技術として、いいと思うものでやってきた。10年前に始めた時は、モノクロの場合は日立と工場が隣だったこともありDDP70という機械であった。カラーは、その頃いろいろなプロファイルを当てて印刷物を比較してみた時、キヤノンのオフセットプロファイルを当てたらかなりナチュラルに見えたので、当時はそれを使っていた。
その後、モノクロもカラーもコニカのものを使って、ハイエンドのものはネクスプレスを使っている。最近は写真もやるようになったので、インディゴも使っている。インクジェットの機械はカナダのバスクルというものを使っている。
2011年9月27日テキスト&グラフィックス研究会「ユーザー目線から見たデジタル印刷の成功事例」より(文責編集)