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富士フイルムグラフィックシステムズ 株式会社
技術2部 熊谷 龍生
今回のテーマである、『 小ロット印刷を前提にした印刷ワークフローのあり方とその効果』について富士フイルムが考えるワークフローをお話しさせていただきます。
Webをはじめとするデジタルメディアが定着し、印刷物に求められることそのものが変化していることで、印刷発注者の要望が多様化しています。印刷物は、インターネットコンテンツの要求のように必要なタイミングで必要に応じて効果的に作成したいという市場要求が小ロットへの要求が増えている背景だと思います。
印刷会社は、この変化に対応する必要性があるわけですが、オフセット印刷、つまり大きいロットを処理するのに最適化された仕事のやり方では対応することが困難となります。
小ロットに対応することは、多くの仕事を集めることが必要となりますが、ロットの大小に関わりなくかかる手間はあまり変わらないため、単純にかかる工数が増えるわけですが、これを人海戦術でなんとか行なうことは現実的ではありません。
現状の工程を分析し、無駄を省き最適化を行わないと、小ロットに対応することはできないのではないでしょうか。
最適化を行なうにはいくつかの手法が考えられますが、ここでは道具=ワークフローシステムの活用からアプローチします。(図1)
▲図1
クライアント、デザイン、制作が一緒になってコンテンツを作成する上流工程から、プリプレス、印刷、後加工、デリバリーに至るまでの製造工程を統合的に管理、運営し、ムダを省くことが全体最適化を行なう場合の理想です。ジョブを増やし効率よく収益を確保することができるのではないでしょうか。付加価値の追求や新しいジョブの開発などは、このステップ無しでは困難になると思います。
また、ここで忘れてはいけないことは、「品質」の維持、向上を省いてはいけないということです。
このような状況への対応をサポートするツールのひとつとしてデジタルワークフローRIPを例にしてお話しさせて頂きます。
今までのデジタルワークフローRIPは、従来のプリプレス工程を中心とした効率化を行うためにその機能を進化させてきましたが、これからは工程全体を考えた進化が必要であり、デジタルワークフローそのものの存在意義があると考えます。
ワークフローは効率化したが、オフセット印刷だけの対応だけでは小ロットに対応することは困難だと思います。
フイルムセッターから始まり、刷版を直接出力できるCTPが主流になり。今日、紙などの最終メディアに直接印刷するデジタル印刷機が弊社含め各メーカーから提供されています。
デジタル印刷機は、トナー、インクジェット方式とありますが、品質、生産性が大きく向上していることもあり、デジタル印刷機の存在は、小ロット、多品種というキーワードに最も適していると言えます。
しかしながら現状、全ての仕事をデジタル印刷機で置き換えられるまでには至っていません。つまり、ロットの大きな仕事は、従来どおりCTPオフセット、小ロットの仕事はデジタルで処理と、ロットの大きさなど状況に応じた出力デバイスの使い分けが必要となるわけです。
現状多くの会社で、デジタル印刷とオフセット印刷のフローは別のラインで構成されています。デバイスを状況に応じて切り替える必要性とワークフローは、一気通貫することで効率よく運用できます。オフセットとデジタル印刷のフローでは、プルーフのタイミングや、使用するプルーフ機器も異なり、状況にあわせワークフローをコントロールする必要があります。これからのワークフローRIPは、オフセットとデジタル印刷両方の運用をサポートする必要があると考えます。
数年前から、このようなハイブリッド運用が提案され始めましたが、実際はあまり使われていなかったと思います。ところが現在、ワークフローRIPや出力デバイスなどのツールと、小ロットに対する市場要求が両方揃ってきたことからハイブリッド運用の価値が出てきたと考えます。
それでは、富士フイルムのご提案するデジタルワークフローである、FUJIFILM WORKFLOW XMF(以下XMF)は、どのようにこれらの目的を達成していくかを具体的にご紹介します。
XMFは、APPE(Adobe PDF Print Engine)をRIPコアにし、入稿からプリプレス、プレス、更にはポストプレスとの連携までトータルかつ効率よく管理、運営ができるデジタルワークフローRIPです。
PDFが誕生してから現在に至るまで、PDF自体が進化し安定性が向上しました。また、印刷用途のルールとしてPDF/Xが策定され、更に、DTPアプリケーションの進化とPDFの安定性がシンクロし、透明効果などのデザイン性の向上も加え印刷への展開が広がったと思います。
一方、出力環境も大きく進化し、変化してきています。CTPなどのデバイスへ出力するためのRIP処理エンジンが、PostScriptエンジンからPDFをネイティブで処理できるAPPEに変わり、制作から出力まで、PDFという共通ファイルで一気通貫したフローが構築できるようになりました。
制作と出力一貫したPDFのフローでは、作成したものが、そのまま出力されるWYSIWYG(ウィジウィグ)を実現できることとなり、生産性と品質を高めることができるわけです。APPEも現在では、Version2.5となり、安定性、生産性が格段に進化をしています。
しかし、これだけでは、今の業務フローを根本的に改善したとは言えません。一部の作業を効率的に行なうだけではなく、全体の工程を再編し効率化するデジタルワークフローに進化する必要があるのです。
せっかくAPPEにより『正しく出力する』環境を得ることができたわけですから、次は『無駄なく正しく出力する』ことに進化することが必要であると考えました。APPEをいち早く採用し、APPE専用にXMFを設計。従来のPostScript系RIPエンジンと共存するデュアルRIPエンジン方式を採用しなかったのは、APPEに対し余計な手続きをすることをしたくなかったからという至ってシンプルな理由です。APPEはPDFファイルをRIP処理するエンジンと説明しましたが、どのように処理を行なうのかを指示するのはJDFで行っています。
JDFは、網線数などのRIPパラメータだけではなく、面付けや後加工の指示を行うことができるフォーマットであるため拡張性が高いのですが、PostScriptのRIPエンジンでは、JDFを直接解釈できないため、変換して指示する必要があります。
XMFは、APPE専用にすることでAPPEを最大限に活用し、面付けや後加工までを包括した印刷工程全体を効率的に運用するというPDFデジタルワークフロー本来の目的を達成するため、また、変化する市場の要求にお答えするため進化をし続け、最新技術とノウハウを投入し、4世代目となるV4.1を発売しております。
今までのデジタルワークフローRIPは、従来のプリプレス工程を中心とした効率化を行うためにその機能を進化させてきましたが、これからは工程全体を考えた進化が必用であり、デジタルワークフローに要求されています。
このためには、『自動化』『効率化』『多様化』という3つのキーワードがあると考えます。
究極に効率化を行なうと、イコール自動化と考えるのが自然ですが、全ての工程を完全自動化することは、むしろ現実的ではないと思います。クリエイティブな工程などはもちろん、製造の仕組み、条件、スケジュールを全て自動化できない側面があります。全ての自動化を実現するためには、多くのコストや時間が必要です。このため自動化できるところは積極性に自動化し、自動化できないところは、効率化する。つまり、バランスが重要で、これら両面に対応することこそが日本のワークフローには大切だと思います。
自動化、効率化を行なうことで工程はシェイプアップし、多様化に対応することができます。つまり、ムダなく、より多くの仕事をこなせるため収益が増え、新しい商品の開発をする余力がでてきます。
4世代目のXMFは、日本国内の運用を詳細に分析し、バランス、そして細部に至るまでできる限りお客様のご要望をお聞きし、ご要望の背景を整理し機能にフィードバックするよう開発されています。
富士フイルムグループは、材料はもちろん、CTP、IJP、POD、ワイドフォーマットと更に、最新のインクジェット印刷機に至る全てのデジタルデバイスをラインナップしています。これまでは、オフセット印刷CTPのワークフロー中心であったワークフローRIPも、オフセット印刷、デジタル印刷両方に対応する必要があり、これらのデバイスを、納期、品種を考慮し効率よく運用する必要性があります。デバイスごとに使用シーンやタイミングが異なるばかりではなく、そのデバイスを効率よくドライブする仕組みが必要不可欠になるからです。無駄なく正しく出力するためには、印刷機や後加工までを含めデバイスごとに異なる管理を行なう必要があります。これはワークフローそのもので、XMFはこれらの目的を達成するように設計されています。
XMFにはinRIP面付け、大貼り機能が搭載されています。簡単に言うと、面付けがRIPにビルトインしており、製版面付けと刷版面付けを同時に同じ画面で設定を行なうことができる機能です。これにより、印刷機の急な変更やオフセット印刷、デジタル印刷両方対しタイムリーに対応できることはもちろん、面付け情報を使い後加工機との連携も、同時に行なうことができます。
汎用の面付け、大貼りアプリケーションが、個々にどれだけ優れた機能を持っていたとしても、ワークフローから外に出ていることにより、これらの工程にどうしてもタイムラグがでてきてしまいます。
しかし、inRIP面付けの仕組みは良いが、実際に面付けを行なうための機能が揃っていないと仕事を選ぶことになり合理的とは言えません。例えば文庫本面付けなどの複雑な面付け要求や、背丁背標など基本的な要求に対応できなければ、仕事を選んで便利な機能を断片的に使用することとなり、効率よいワークフローとは言えません。XMF V4では国内の運用を徹底的に見直し、ほぼ全ての要求に対応することができるようになっています。
また、面付けして出力するジョブでも、データが全て揃っていたり部分的に揃っている状態で、自動で各デバイスに出力したい場合や、雑誌など進行に応じて台割り管理を行い、状況に応じてPOD、インクジェットプルーフやCTPなどのデバイスに対して必要な台を出力する場合でも、『自動化』と『効率化』を両立して対応することも可能です。このようにXMFは、日本の複雑なワークフローに対して、臨機応変に対応することができます。
もちろん、デバイスを効率よくドライブするには、面付けだけではなく、色管理の仕組みが必須です。XMFでは入稿からデバイスまでをFUJIFILM CMSで処理し、一気通貫した色管理のワークフローを実現しています。最新のV4では、このCMS機能の強化を行い、更に標準でインク削減機能を搭載することにより、コストダウンまで考慮した色管理をトータルでサポートできるようになっています。
また、プレス、ポストプレスへの連携は、JDFフォーマットによって実現しているわけです。(図2)
▲図2
プリプレスからポストプレスの製造工程に対し、XMFではどのような仕組みで効率よくワークフローを構築するかをご説明してきました。しかし、全体の効率化として考えると、まだ改善する項目は残っています。製造工程をいくら効率化しても、元になるデータが入稿されてこない限りこの意味をもたないからです。つまり、制作工程を含めた改善を行なう必要性があります。
▲図3
XMFでは、XMF RemoteというWebポータルの仕組みを使うことにより、この課題を解決します。目的はXMFと同様、自動化と効率化にフォーカスして設計されています。いわゆるWeb通販という意味でのWeb2Printの仕組みもこれからの多様化に対応するためには有効な手段ですが、その前にワークフローにおけるWebポータルの役割として、どれだけ製造工程に効率よく完全データを渡すことができるかが重要だと考えています。
▲図4
完全データが入稿されるまでは、とても多くの時間と手間、そして手続きが、デザイナーや発注者などの多くのプレーヤーにより行なわれています。コンテンツこそが印刷物の根幹であるため重要な作業であるのですが、この作業には課題が多く存在し、製造工程を圧迫します。入稿するデータをDVDやCDなどのメディアを使ったり、レイアウトの校正をDDCPやインクジェットプリンターで出力するなどどうしても物流が発生してしまいます。
一方、データをメールやFTPサーバーなどの通信手段を使用してやり取りをした場合はどうでしょう。物流は発生せず一見効率的に見えますが、問題が発生します。手段としての効率化は行われていますが、管理は「人間」に頼っているため無理がでてきます。結果、データの取り違いなどが発生し、ムダや無理が出てきます。
XMFのWebポータルでは、『いつでも』『誰でも』『どこでも』をコンセプトに、直感的なGUIで入稿、校正、デジタル検版、承認、進捗確認ができるためこれらの課題を解決します。更にポータル端末であるiPadでも校正、承認、進捗確認が可能です。クライアントが直接iPadで校正、承認するだけではなく、印刷会社の営業がクライアントと一緒に活用または進捗を確認するなど、簡単確実な戦略的なツールとして市場から評価が高い機能です。(図4)
ここまでは、小ロットのジョブを多く集め処理を行なうこと、それには工程の効率化を行なう必要があり、XMFではどのように印刷会社をサポートできるのかについてお話させていただきました。
小ロット、多品種のジョブを処理することになれば、当然、在版管理のボリュームも増大してきます。また、追い刷りや改版などの要求が増え、要望が幅広くなってくると思います。例えば、2010年の夏ごろお願いした印刷物を改版したい、画像データは2011年の春ごろの、など、曖昧な要望に応えるべく過去データを効率よく管理しないと要求に応えることができません。
これが、CDやDVDメディアで棚管理されていると、検索時間にタイムラグが発生し、効率よいとは言えません。
既にデータサーバー環境を構築しているのであれば、それが小ロット、多品種に対し容量が足りるか、運用上問題ないかなどを見直す必要があります。
このような要求に対応すべく、FFGSでは在版を効率よく簡単に管理するデータサーバーである『X-BUCKET』を商品ラインアップしています。
▲図5
X-BUCKET は、簡単にデータを効率よく管理できるデータサーバーです。WebブラウザとOSのフォルダ操作の組み合わせで操作を行います。このためスキルを必要としないシンプルな運用が可能で、検索のためのキーワードを自由に設定できることが特徴です。導入においてもシンプルで、価格を抑え容量の拡張は必要に応じて可能など、導入しやすいシステムとなっています。
また、問題発生時へはリモートメンテナンスで早期解決が図れるのは一般的ですが、自然災害などのダメージがあった場合を考慮し、遠隔地バックアップを自動で行なう仕組みも搭載しています。例えば、東京、大阪に拠点があった場合、設定しておくだけでどちらかにダメージがあった場合でも使い続けることができ
るというわけです。(図5)
デジタルワークフローとは、小ロット、多品種の市場要求に対応するため全体最適化を目的とし、印刷、つまり、オフセット、デジタル両方の出力デバイスを効率的かつ戦略的に活用することだと考えます。
更に、今後は印刷ワークフローに囚われず、時代の変化に対し最新技術をもって対応するよう印刷業界全体で進化を続けて行きたいと考えます。