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株式会社ビジュアル・プロセッシング・ジャパン
コーポレイト本部 マネージャー 鹿島 功敬 氏
クラウドという言葉自体が非常に流行っていて、内容がよくわからないまま、「クラウドは安い」とか、「何かわからないがクラウドはいい」とか、そういう話が多い。技術的な問題を語る前に、クラウドがどうやって、特に印刷業のビジネスに役立つのか、どういう形でクラウドがビジネスの中に位置付けられるのかといったところから話をしていきたい。
社名にジャパンが付いているので外資系の会社だと思われることが多いが、100%日本の法人である。もともと創業メンバーは、日本シリコングラフィックスという外資系のワークステーションベンダーを立ち上げたスタッフがスピンアウトして設立した。
非常にレベルの高いワークステーションを販売していた会社がバックグラウンドなので、いわゆる映像とか印刷とか、高解像度のデータを扱う現場に対するシステムなり機材の販売というところをバックグラウンドにしている会社である。
設立は1994年1月6日、今年17期目の会社で、社員数は43名である。事業所は国内に3拠点あり、本社は東京の渋谷にある。今年9月に移転したばかりで、渋谷と表参道の間、こどもの城の裏手あたりにある。あとは関西方面の拠点ということで、大阪の心斎橋にも営業とサポートの拠点を置いている。
もう1つは、沖縄県の宜野座村に事務所がある。これは3年ほど前に立ち上げた。実は、沖縄の事務所というのが今日のクラウドセミナーというテーマの中で結構大きなポイントになってくる。沖縄県に事務所を作った理由は非常にシンプルで、沖縄県をベースにしたクラウドサービスを事業としてやるというのが目的である。
沖縄県にはメリットが2つある。1つは、地質学的に地震が起きないと言われている。といっても、去年、震度3の地震が起きて、沖縄県で地震が起きないということは言えなくなってしまったが、いずれにしても、あまり地震は起きづらい、地質学的に大きな問題が起きづらいという地理的な背景があって、かなり大手の会社もコールセンターとかデータのバックアップを沖縄県でやっている。
2つ目は、値段が安い。米軍基地問題とかいろいろな問題がある中で、国からいろいろな助成金が出ている関係で、非常にレベルの高いファシリティとか、非常にスピードの早いネットワーク回線を、非常に安い値段でレンタルすることができる。そこで、我々も沖縄県の宜野座村に事務所を持って、そこを起点にクラウドサービスをお客様に提供している。価格面も結構安くなっている。
事業内容は、コンテンツ制作現場に向けたシステムコンサルティングというのが基本的な我々の事業内容である。お客様がユニークで、コンテンツ制作現場という言い方をしているが、印刷業とか新聞社、出版社、広告代理店とかデザインとか、企業の内部で販促用のカタログとかWebを作っているような部署、そういった、Webでもカタログでも紙でもタブレットでも、何かしらのコンテンツを制作している、もしくは制作に関わっている方が我々のお客様になる。
そういったお客様に対して、ここ最近のケースとしては、システムインテグレーション、またシステム販売、開発、サポート、全般のトレーニングをソリューションとして提供している。基本的なビジネススタイルはあくまでシステム販売だが、その中の一環として、クラウドサービスというものもお客様に提供している。
クラウドというとGmailとかエバーノートとか、フェイスブックとかもそうだし、いわゆる日常的なアプリケーションである。メールの受け渡しとかコミュニケーションとか、一時的なファイルの保管とか、そういったものがクラウドというふうに理解されていて、プリントビジネス全般の事業の中で、何でクラウドを使うのかというところは、あまり考えられていないような気がする。
まず、基本的な事業環境が変わってきたため、クラウドというサービス自体が必要になったというところが結論だが、その話をするときには、よく三河屋のサブちゃんというキャラクターの話をする。
サブちゃんはサザエさんに出てくるキャラクターで三郎さんという人だが、1軒1軒御用聞きをして、いろいろなご家庭からしょうゆとか味噌とか、そういう注文を受けてくる。
「こういう人がもういなくなったのではないか」ということを、セミナーのスターティングのポイントとして言わせてもらう。サブちゃんがいなくなったというのは1つのたとえであって、ある意味、仕事のスタイルがかなり変わってきている。
最近、街の中を歩くと、特に東京などでは、昔ながらのパパママストアというか、文房具屋さんとかお米屋さんとか、個人でやっている本屋さんとか、ああいうローカルに根を持ったアナログのモデルの会社というのは、基本的に最近なくなっていると思う。
こういった形で事業自体が変わってきているのが、1つはクラウドが必要な背景になってきているのではないか。街中の本屋さんがなくなったとかお米屋さんがなくなったという話をしたが、要は、生態系が変わってきている。今まではお米を買ったり本を買ったりするのは、街の中なりどこかに行って、何も考えなくても自動的に、例えばサザエさんの家なら、お米が5キロ要るんじゃないかとか、味噌が足りないんじゃないかとか、そういうことまで気を回してもらっていたカルチャー、ビジネスがあったが、どちらかというとインターネットとかグローバル化の中でビジネスのモデル自体が変わってきている。
例えば、本を販売するというビジネスドメインの中で言うと、Amazonというネットショッピングの業態が出てきている。もともとAmazon自体、1つの小売のような会社だったが、彼らはネットワークを使って、営業チャネルを、Webサイトを使って営業するという考え方の中でビジネスを広げてきた。
先ほど生態系と言ったのは、これまで本を買っていた本屋さんから仕事をどんどん取っていっている。そういうことが1つあったように思う。
Amazonというのは、基本的には営業エリアをワールドワイドに広げていくという事業計画のもとに、クラウドサービスを採用して、営業的なアクティビティをWebサイトに置き換えている。
クラウドなりネットワークのサービスを使うことによって、かなりの商品点数をカバーできている。Amazonという会社は、本だけではなく、家電とかブランド品とか食料品とかおもちゃとか、非常に多岐にわたる商材を販売することが可能になっている。
これはAmazonの内部的な業務効率をクラウドにして高めた結果、こういうことができるようになって、より幅広いお客様に対する商品の訴求ができるようになっている。もしお酒を買う人がいたら、Amazonのお酒の中身を細かく見てみるといいと思う。ベルギービールとか、結構コアな商品まで、非常に品揃えが豊富になっている。
さらに、Amazonのお薦め機能、レコメンデーションという言い方をするが、いわゆる顧客の購買利益に基づいて、興味を持ちそうなお薦め品を薦めてくれる。こうしたものをやることによって、1つのお客様からの受注の拡大を狙っていく、そんなことをしているのではないかと思う。
Amazonは結構成功していて、ビジネスの規模はよくわからないが、大体レポートを見ているとこんな感じである。これは去年の今頃の結果だが、少なくとも8ヵ国でビジネスを展開している。経常利益で言うと、この3年間で9倍近くビジネスのボリュームを上げている。かつ、取扱い製品のグラフ、品目に関しては、10品目以上の製品取扱いに成功していると聞いている。
売上としては、ただの街の流通屋さんから、クラウドを使ったことによって販売的なメンテナンスとか、内部のコストリダクションとか、かなりうまい具合に成功しているようだ。これが1つ新しいモデルであるAmazonのビジネスの成果ではないか。
国内にもこういった事例はたくさんある。カクヤスさんは酒屋さんで、当然街中にもたくさんあると思う。カクヤスさんは、もともと母体は三河屋さんという街の酒屋さんだった。
街の酒屋さんが、カクヤスという名前にしてフランチャイズ展開を始めた。フランチャイズ展開するだけでなく、クラウド上の何かしらのサービスを使った上で、カクヤスのネットショップというのを運営している。
企業の中で、例えば社員が飲むお茶とか、そういうものを担当している人は結構カクヤスを見ているが、非常に値段が安い。カクヤスさんの年間売上のかなりの割合が、実はクラウドを使ったWeb経由の注文ではないかと言われている。
もちろん、Amazonと比べても劣らないくらい、非常に配送スピードも早いし、レスポンスも早い。これもクラウド的なサービスを使って内部の効率を高めたり、新しいお客様を見つける、そんなツールに使っているようだ。
印刷業界では、ここが元祖だと思うのが、プリントパックである。プリントパックはクラウドを使ってうまく事業展開をされて、印刷業界でも存在感を高めてきたのではないかと思っている。
ネットワーク型という言い方をしているが、ネットワークとかインターネットのテクノロジーを使った事業展開をしていかないと、印刷業界でも専門的なスキルを持っている会社以外は仕事がうまくいかなくなるのではないか。
次にクラウドの話をもう少し細かくしていきたい。このセミナーでの私からの提案は、是非、今日の参加されている方には、ネットワーク型ビジネス、クラウドを使ったいろいろなモデルのビジネスがあるので、そういうモデルに移行するべきだというのが、基本的なメッセージである。
ネットワーク型ビジネスをやろうかという話になると、実は結構いろいろなことに気を使う必要がある。
例えば、オンラインでお客様とデータの受け渡しをしたりとか、Webから注文を取ったりとか、そういうところが多分印刷業にとって一番手近なクラウドとの関わり合いだと思うが、そういう場合にしても、例えばセキュリティの問題を気にしなければいけない。
それから、ERP、業務的なボトルネックをどうやって解消するかとか、決済をやるならECサイトが必要かとか、物理的なものをカバーするのであればHCMが必要なのか、CRM、顧客管理はどうするか、SEOはどうするか、リスティングの戦略はどうするか、コンテンツの管理をどうしようかとか、非常にさまざまなことに悩まなければいけない。
今までIT的な素養素地がない会社に、明日からこれを全部網羅して仕事ができるかと言うと、絶対できるわけがない。基本的にはITの知識、機械、ハードウェアの知識とか、ネットワークの知識とか、アプリケーションの知識とか、いろいろな設備を導入しなければいけない。明日から年間1,000万かけて人を雇って、3,000万円かけて機械を買って、すぐビジネスを始められるかというと、そういうことにもなかなかならないのではないか。
その中でクラウドコンピュータ、クラウドシナジーということがある。クラウドコンピュータとは、インターネット上にある何かしらのコンピュータを、ユーザが自分で導入しないで、使った分だけ月額でお金を払って利用するというサービスになる。
クラウドのメリットは、まず必要な分だけ利用できる。逆に、不要な分は利用フィーを払わなくても構わない。それが1つ目である。
2つ目のメリットは、低コストで導入利用ができる。やはりシステムを購入したりエンジニアを雇ったり、そういうコストがかからない。
3つ目は、セキュリティが高いというところである。インターネットのネットワークを使った仕事をするにあたって、企業はいろいろCSRの考え方からセキュリティ対策を施す必要がある。クラウドは基本的にはある程度のセキュリティ対策を基本的なパッケージの中に盛り込んで月額使用料として提供しているので、あまり導入側はセキュリティを気にしなくてもいい。セキュリティが高いというところがクラウドのメリットだと思う。
クラウドというのは2つ目的があって、1つはシステムを導入したり車を1台買うほど多い頻度で使わないというときのためのソリューションである。たまに使うとき、もしくは定期的に使うけれどもシステムを導入しても費用対効果がないときに使うといいのがクラウドというのが、1つ目のポイントである。
2つ目は、セキュリティ面の考え方である。セキュリティにはいろいろな種類があって、1つは、例えばウイルスが入ってきたらどうしようかとか、悪い人がいてデータを取られたらどうしようかとか、社内の情報を取られたらどうしようかとか、何かしら悪意がある第三者に対する対策としてのセキュリティである。災害とか、突発的なシステムトラブルに対するセキュリティもある。言い換えると、リスク対策とか、そういう言葉になると思う。日々皆さん仕事をしていて、突然災害が起きて、明日下版するデータが取り出せなくなったらどうしようかとか、今年大きな地震が起きてそういうことを考えた人もいると思う。
一般的にクラウドサービスというのは、データを安全に機械が止まらないような仕組みで提供している、非常に堅牢なデータセンターの中にあるコンピュータの中で運用されているので、例えば突発的な停電とか地震とか、そういった要素の中で仕事が止まるとかデータがなくなるといったリスクが非常に低いのが、クラウドのメリットだと思う。そういうセキュリティというところも含めて、クラウドという選択肢を考えていただいてもいいのではないか。
沖縄の話をすると、お客様で、教育関係のテキストの編集をしている出版社がある。もともと、社内にサーバを1台立てて編集制作システムを導入していたが、3月の地震でまさに仕事が止まった。外部からの入稿を受け付けることができなかった。
また、いろいろ電源系の問題があって、支給されたデータがなくなってしまったということがあったそうだ。そこから、その出版社はシステムを完全にクラウドに移行して、沖縄のクラウドシステム上ですべてのデータを管理してBPSの仕事を始めた。そんなケースも出ている。事業継続に関する一番コアな部分が止まらないような仕組みとしてクラウドを使うという考え方もある。
クラウドサービスの話をしていくと、最近、キヤノンがやっているセールスフォースドットコムは、営業支援のためのクラウドサービスである。営業マンの日報管理とか、営業マンのスケジュール管理とか、大事なお客様に対する商談の進捗管理等を、従来は社内でシステムを使ったり、システムを導入していただく会社もあるが、それを全部クラウド上でやっている、そういうセールスフォースというサービスもある。
また、私も使っているし、かなり使われている人も多いが、GoogleのGmailとかGoogleカレンダーといったクラウドサービスもある。あとはネットワークのスピードを最適化するサービス、アカマイというのもある。IBMがやっているライブスイート、いわゆるグループウエアのサービスもある。
ここまで申し上げてきたような背景があって、クラウドサービスというものが業務のコア部分に採用されてきているというのが、業界全般というかマーケット全般のクラウドサービスの状況だと思う。
企業における業務のコアをクラウドに置き換えている会社も結構あるという話をしてきたが、印刷系で業務のコアをクラウドに置き換えたところはどこなのかというのが、ここからの議論である。
当然いろいろなことがあって、印刷工程全般の中で何が重要だとか、何が重要ではないとか、そういうことはなくて、基本的に全部重要な業務だが、我々がお客様に提案しているのは、印刷に使うコンテンツ、即ちプリプレスのDTP関係のデータが一番の業務のコアなのではないかと思っている。
例えばお客様から原稿を受け付けた広告のデータであるとか、カメラマンが撮影した写真の素材であるとか、2週間かけてデザインを組んできた組版のデータであるとか、そうしたデータがある日突然なくなってしまったらどうするか。
出版系のお客様では特に、お客様から預かっている在版データが万一なくなったらどうしようか。地震で使えなくなったらどうしようか。何かしら問題があって刷れなくなったらどうなるのか。そういうことを考えていくと、プリプレス関係のデータというのは、1つ印刷業にとって資産だということに間違いはないと思う。
そういったこともあるし、印刷工程全般を見てみると、どうしてもデータの入稿から始まる、DTP、プリプレスの業務プロセスというのは、かなり印刷工程全般の中でも時間が非常にかかる部分であることに間違いはないだろう。
当然、最近はお客様であるとか外部のパートナーであるとか、外注とか、海外も含めて、ネットワークを使っていろいろな方と並行して仕事をしなければいけないというような事情がかなり増えている。
当然、地震が起きて都内の印刷会社の機械が動かなければ、ある程度遠くに送らなくてはいけないし、トラックが動かなければ離れたところからデータを取りだしてプリプレスなりの作業をやらないといけない。
そうした意味で、我々はデジタルパラダイス・プロダクションストリームという名前のクラウドサービスをお客様に提供している。沖縄県に置いてあるデータセンターを使って、そこにあらゆるデータを置いてもらう。
そして、ファイルの入稿とかデータの管理とかファイルの受け渡し、編集作業、原稿のライティング作業、デザイン作業、校正作業のようなものを全部沖縄のクラウド上でやろうというソリューションである。
基本的に、全部Webのブラウザから使うことができる。Webのブラウザからクラウドにアクセスして、管理しているコンテンツを確認したり、データをダウンロードしたり、ファイルをアップロードしたり、そういった機能を非常に安い価格で提供するためのクラウドサービスがデジタルパラダイスである。
今日はイメージをWebサイト上で紹介したい。沖縄県をベースにしたクラウドサービスで、大きく分けると3つポイントがある。
1つはファイルの共有と管理というものをお客様に提供している。
ファイル管理とかデータ管理は、非常にニーズが高い。在版データの管理とか、お客様の預かりデータの管理等をクラウド上でやることによって、ファイルの堅牢性、セキュリティという感覚で言うと、安定したクラウド環境でデータを管理することによって、それが何かでなくなるリスクを最小限に抑えることができる。
2つ目は、インターネットを使って、許可があれば誰でもアクセスしてデータを使うことができる。例えば離れたところにいるデザイナーとか、出版社の方とか、離れた外注の印刷所とか、そういったところの方でも簡単にデータを取りだしてアプリベースの作業をしたり印刷をしたりすることができるようになっている。
デジタルアセットという機能を提供しており、すべてプレビュー付きで管理できる。ユニークなのが、大容量ファイルの受け渡しに対応している。ネットワーク環境だと、どうしても100ギガとか200ギガといったレベルのデータをインターネットを使って送るということが難しいが、そういう大容量データの受け渡しにも対応している。
かつ、当然、管理されたデータを多目的に活用できる。あとはデータベースの構築ということで、属性情報を付けたデータベースを作って管理したり、フォーマットの変換をしたりできる。
よく、印刷で使ったEPSをWebサイトに画像を流用したいのでJPEGにしたいとか、そういうことが結構ある。通常のPhotoshopを使って変換していくが、デジタルパラダイス上ではWebのブラウザから画像フォーマットの変換を行うことができるようになっている。
あとは、レジューム機能ということで、何かしらネットワーク上の障害が起きても、データのアップダウンが中断してもまたやり直し、再開してくれる。確実にデータを送ることができるという機能が付いている。
以上がデータを共有するための機能だが、2つ目に、デジタルプルーフという、オンラインで校正をする機能がある。ある程度プリプレス業務を使った上で、紙面のページネーションができてきたら、今度はWebのブラウザ上からオンラインで校正することができる。そういった用途にも使える。
どうしても最終的には色校まで出して確認する必要があるが、初校からの中間プロセスを最近はデジタルで行ったり、Web上で行ったりすることが多い。特にカタログとかチラシ系では、校正を行う人が100人、200人という規模になることがあり、PDFや紙でやっていると非常に時間がかかるので、オンラインを使って、クラウド上にあるファイルに対して何十人、何百人が同時にアクセスして一斉に校正することによって時間を減らそうということもある。
オンライン校正というのは、最近は印刷会社のサービスメニューの1つになっているケースもあるようだ。テキストを出したり、ファイルを添付して差し替え指示したり、差分の確認等の問題とか、全般的な進行管理もクラウド上から行うことができる。こういったものもクラウドとして提供している。
3つ目は、編集するための機能、デジタルエディットがある。Web上からアクセスして、何十人もの人が同時に編集作業を行うことができるというソリューションである。クラウド上にあるデータに対して、インターネットを使って直接クラウドにアクセスして、クラウド上で原稿のライティングから誌面のデザインまで、全員が並行して行うための仕組みである。当然、こういった進行は全部リアルタイムに表示されるので、誌面の台割り管理にも対応している。
紙媒体の制作というところにテーマを絞って紹介してきたが、他にコンテンツの配信機能というものがあり、Webサイトはもちろん、ツイッターとかフェイスブックに、管理したコンテンツをワンタッチで展開することができる。
特に最近はソーシャルメディア対応が必須になっている。カタログとかチラシとか、プロモーションの企画を立てるときに、印刷業に対してソーシャルメディアの対応とかソーシャルメディアの提案等を希望されるお客様が多いので、コンテンツ配信機能というものもご紹介している。
プロダクションストリームという製品は、カタログとWebサイトに細かい情報が載っているので、興味があればご覧いただきたい。また、先週、プロダクションストリームの価格を改定し、今紹介した中のデジタルアセットという、ファイル管理、データ管理のソリューションを、1テラバイト月5万円で提供することにした。価格感が安いので、是非ご検討いただければと思う。
幾つか、印刷業界でもクラウドに取り組んだ事例が出てきている。1つ紹介したいのは株式会社研文社という大阪の会社である。去年、デジタルパラダイスのクラウドサービスを採用された。
この会社は大手の百貨店のカタログ印刷をされているが、単純にコスト削減の目的でクラウドサービスを契約された。1案件あたり153万円の削減とあるが、これはグループワークの生産性を高めるためのツールとして導入された。
百貨店のカタログ制作というのは非常に忙しい。いろいろなところから写真が入稿されてきて、それを取りまとめて、制作指示を出して、進捗をクライアントに伝えて、校正をして、データの受け渡しをいろいろなデザインプロダクションにして、という作業がかかってくる。
もともと、この会社自体、そういったお客様に対してかなり太いコネクションを持っており、事業の中の柱としてはそれなりのレベルのお金を年間いただいているような関係があった。
百貨店で配布するカタログなので、何かしらトラブルが起きたときに、カタログ制作が止まってしまうとまずい。かつて、外部からウイルスをもらったことがあって、一度それで失敗している。そういった経緯があったので、クラウドサービスを導入して、まずはカタログ制作を止めない仕組みを導入された。あとは、セキュリティ的に堅牢なクラウドサービスを使われた。
かつ、先ほど紹介したWeb上でのデータの受け渡しとか、オンラインでの校正とか、進捗の管理とか、そういった要素を入れたことによって、内部のプリプレスの制作コストがかなり落ちたと聞いている。そこが1案件あたり153万円という結果になったのではないかと思っている。
さらに、こういったサービスをクライアントである百貨店に提供されて、当然、百貨店も自分たちの仕事が楽になるので嬉しいということで、そういった意味で囲い込みに成功しているのではないかというコメントを、担当の方からいただいている。
いろいろ紹介してきたが、クラウドといっても、事業の中のどの分野をクラウド化していくかということを考えていかないと意味がない。
最近、クラウドでセミナーをやると人が集まるし、何でもクラウドにすればいいというような感覚があるが、それは間違っていて、まず、クラウドのターゲットにすべき分野を明確にする必要がある。
クラウドをどの分野に適用するかを考えるときには、クラウドのメリットとは何かということを考えることが重要である。まずセキュリティ的な問題である。セキュリティも2つあって、第三者に対する何か悪いものを防ぐというものと、事業の継続性を確保するという意味でのセキュリティがある。
2つ目は、コストが安い。3つ目は、堅牢というところである。ある意味、止められないような業務とか、資産上重要なポイントをクラウドに移していくとか、クラウドサービスを併用するような考え方をしていくべきではないか。
こういった安価なツール、クラウドというのがいろいろなメーカーから出ているが、使う、使わないで、かなり事業上差がつくのは歴然たる事実である。是非、クラウドの技術を使うという考え方に目を向けていただければと思う。
質問:沖縄でクラウドサービスを公開されているということだが、沖縄県内では早くても、関東とかにデータを転送するときには遅くなってしまうのではないか。
鹿島氏:基本的には変わらない。沖縄県の場合、沖縄から本土の間に非常に太いインフラがあり、そこのスピードでコントロールしているので、極端に遅いということはない。ほぼ同じだと思う。
今沖縄は結構注目を集めていて、IBMとかCSKとか、大手のソフトウェア系の会社とかがネットワークのデータセンターとして使っているので、スピードについて心配することはないと思う。
質問:IBMとかCSKが使っているということは、それをシェアすることなので、同じ太さをたくさんのデータセンターが利用すると、そこの回線をみんなでシェアすると遅くなるのではないか。
鹿島氏:それは一般的なインターネットの原理原則で、ユーザが増えればネットワークスピードが落ちるのと同じような話である。この先データセンターが全部沖縄に集まればそういう可能性は出て来るが、今のところ、スピードが遅くなるという話は聞いたことがない。
今、沖縄にコールセンターやデータセンターをかなりの会社が移していて、もうピークになっている。逆に、一部コストの面で、沖縄から中国とかインドネシアとかベトナムとか、海外に移転する会社が出てきたくらいである。この先、爆発的に沖縄の需要が増えることは多分ないと思う。
大体、都内にサーバを置いたのと同じ感覚で運用できると思うが、ただ、ネットワークの話なので、何があるかはわからない。
質問:印刷のデジタルデータをWebのアプリ上で編集できるのか。
鹿島氏:オンラインの校正作業は全部Webのブラウザから行うことができる。それは注釈入れ作業、赤入れ作業である。編集作業に関しては、基本的にはInDesignなりInCopyというツール、アドビのソフトから、直接システムにチェックイン、チェックアウトして作業を行う。
質問:InDesignとかInCopyの場合はオペレータの手元にツールが必要で、そこからチェックインするためのツールがない場合にはどうすればよいのか?
鹿島氏:契約するとチェックイン用のプラグインを無償で提供するので、そこからチェックイン、チェックアウトして作業を行う。セールスの方が自分でちょっとデータを編集するとか、DTP作業を行うという話を聞いたことは今までないが、そういった作業を行う場合は、やはりプラグインがないと、パソコンから行うことはできない。
ケースとして多いのは、進行状況の管理をしたいとか、校正作業である。こういった目的で使う人が多くて、その場合はノートパソコンを使ったり、最近はiPadの表示にも対応しているので、iPad上から赤入れしたりすることが多いようだ。
質問:ネットワークは専用線を引く必要はないのか。
鹿島氏:お客様によって違うが、専用線を引いているところはあまりない。
何件か、完全にその企業のグループ内と関連会社の中だけというクローズにしたいときは、専用線ないしVPN的な形で対応しているところもある。その辺は求めるセキュリティのレベルによって違ってくると思うが、どのパターンでも対応している。
質問:そのときにはギガないとだめなのか。
鹿島氏:ギガはまだ高いので、大体100メガbps契約が標準である。
2011年12月20日TG研究会「印刷業界におけるセキュリティ対策とクラウド利用」より(文責編集)