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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[17]
先日ISOの規格委員会に参加した。もちろん内容は詳しく話せないが、色表記をCMYKで求められているので、それがナンセンスであることを理論立てて主張してほしいというのである。CMYKデータに詳しい委員の人はほとんどゼロで、CMYKデータはデバイスディペンドな値で、全くイイカゲンというのがおおかたの認識らしい。
確かにCMYKというのは多分に経験則的で、インキや紙について定量的で明確な基準値があるわけでもなく、ましてや(印刷)条件も各印刷会社でマチマチ、その上マチマチの条件すらも安定して維持できないのでは、イイカゲンと言われても仕方ないと認めざるを得ないだろう。
これに対して郡司としてはこう答えている。
「印刷の標準化は北米を筆頭にまずオフ輪規格であるSWOP(Specifications Web Offset Printing)が普及し、最近では商業印刷用枚葉印刷向けのGRACol(General Requirements for Applications in Commercial Offset Lithography)も広く浸透している。メジャーリーグ(北米プロ野球)の米国チャンピオンを決めるアメリカンシリーズにもワールドシリーズと銘打つお国柄だけに、どこにも米国印刷規格という表示はないが、北米を中心として印刷バイヤーと印刷会社の契約時にも「SWOP基準でパンフレットを2万部発注」という具合に工業規格として機能している。契約時に罰則規定も含まれるのがアメリカ的である。
欧州でもEUROSCALEが制定されたが、本家本元の意地でFOGRAががんばってFOGRA~(印刷方式に合わせて番号が当てられている)という実に欧州というか、ドイツらしい新規格に集約されつつある。もちろんPhotoshopにもタイムリーに反映されているのは言うまでもないことで、このPhotoshopのプロファイルがデファクトのようになっている。日本でも欧米ほどまでとはいかないが、Japan Color 2001やJMPA(雑誌協会カラーターゲット)は市民権を得出している(実際かなり進んだ)」 と前置きして、従って、現在のCMYKは皆さんが認識しているほどイイカゲンなものではなく、共通認識できるくらいの素地はでき上がっているが、今回の規格が金属やプラスチックでの色規格となるとCMYK表示は適切ではないだろう。
しかし、単なるRGBデータというのも怪しげな部分は多く含まれている。色再現域を規定したからと言って、白色基準がバラバラだったり、見え(アピアランス)による影響など、課題は少なくない……云々(うんぬん)というものである。
図1 CMYK Characterization data
さて、ポイントをまとめながら(くどいとは思うが、大事なのでご勘弁願いたい)、今回の本題である標準印刷規格の親父の小言的な話につなげていきたいと考えている。
まず印刷発注時の色品質についてだが、印刷発注者がごくごく普通の一般人なら「モニタで見ている色が、印刷でそのまま出るとは限らない」などと言われてもピンとこないのが普通だろう。これよりは、「あなたのモニタの色調整はずいぶん狂っており、本来はこれが正しい。見た感じとしての再現は近くに持っていくことができるが、細かく見ていった場合にはグリーン系などが異なってくる。それは発色メカニズムの差なのでご理解いただきたい」と説明すれば、基本は理解され、後は妥協点のラインを調整するという作業が残るだけになるはずだ。そしてグリーン系(orブルー系)が出難い、つまり出難さの明確な基準、どの色がどれくらい出ないかの定量的な基準を明示できることが大事なのだ。
こんな回りくどい説明ではなくストレートに言おう。要するに印刷発注者がどういう色品質の印刷物を契約したかが、ハッキリするような明確な印刷標準規格が必要なのである。かつて印刷業で言われていたことは、「印刷会社はチャンピオンデータを常に顧客に提供すべきであり、そのあかしが校正刷りである」である。これも印刷発注に慣れている人にとっては、「基準が明確だ」とも?言えるかもしれないが、初めての人間に「たまたま印刷した校正刷りが色基準になる」というのは理解不能だろう。どんな工業製品にも工業規格があるとおり、印刷にも工業規格が存在し、その規格に沿って発注・制作・納品・支払いが行われるべきであろう。
印刷業界以外の人間が初めて印刷というものに触れた時に感じる一番不可解な点が、「品質基準がないこと」だということを印刷関係者は肝に銘じるべきである。日本の工業製品だってJIS規格をきっちり定めたことからスタートしたのだ。もちろん、日本のお手本だったドイツはDIN規格という非常に厳密な工業規格を作って世界に冠たるドイツ製品への信頼を勝ち取ってきた。しかしそのドイツでも長い間、印刷だけは別枠として考えられてきた。印刷規格と言ったって、紙や材料や印刷機の規格が決まっているだけで、印刷物の規格が明確に決まっているわけではなかった。
これははなはだ不可思議なことで、素人には分かりにくいことだったに違いない。こういう質問に対して印刷業界は、「印刷とはさまざまな条件によって微妙に異なるので標準化が難しい技術なんだ。だから校正刷りがその基準となる」と言い訳していた。時には居直りとも取れる「印刷とは文化的、芸術的なものだから、おのおのの会社で、最高のものを作っていくものだ」なんて訳の分からないことを言っていたものだ。
要するにアナログ時代は安定させようにも難しかったので、いろいろ理屈を付けて逃げていたが、デジタル(CTP、CIP3)になれば印刷も安定し、規格化も可能になってきたということだ。安定できるのであれば、安定させたほうが良いに決まっている。工業で言うところのカラーマネジメントは「ICCプロファイルさえ使って色を合わせればよい」ということではなく、ビジネス的な工業としてのカラーマネジメントは印刷標準規格があり、その印刷標準規格に沿ってワークフローを組み立てて実行するということにある。
JMPAの標準プロファイル(品質が良ければプロファイル自体の固定化までは必要ないが、決まっていて悪いことではない)が決まっており、モニタも色校正用プリンタも印刷機も標準化されていれば、印刷発注者(バイヤー)、出版社、デザイナー、カメラマン、印刷会社は問題なくカラーマネジメントできるはずだ。
印刷でコストがかさむのは、各工程で品質がばらつくため、行ったり来たりすることに主原因がある。校正刷りが行ったり来たり、ああでもないこうでもないと繰り返されるのだ。当然校正刷り自体が安定しないのだから、むなしい努力をしていたということにほかならない。これを言ってはオシマイだが、これまでの「行ったり来たり」は「努力している振りをしていただけ」とも言えるのだ。
しかし、デジタル化を最大限使用すればワークフローとしてのカラーマネジメントの恩恵に有り付けるのは間違いがない。その恩恵とは、「ワンストップワークフロー」ということである。行ったり来たりがなく、プリンタでOKどころか、モニタでOKなら印刷でもOKということだ。これなら素人でも納得するはずだが、欧米では印刷が生き残るための最低限度の条件が標準化によるコスト減だが、コスト減だけに限らず、標準規格で印刷しないなんてことは、本質的な理由でナンセンスとしか言いようがない。私自身がdrupa2008を見学して強く感じたのは、欧米の印刷業界がインターネットやほかのメディアの存在を冷静に受け止め、印刷の良いことが認められるためにはコストダウンと納期短縮、つまりワンストップワークフローが不可避というコンセンサスをほとんどの印刷関係者が持っているのだ。だから標準印刷の規格化を急いだのだ。
前述したとおりアメリカでSWOPやGRAColなどが先べんを付けたのだが、欧州も印刷発祥のプライドもあるのだろう。FOGRA(ドイツ印刷関連団体認証機関)が本格的に規格化を進めた。これによって欧米では印刷だけが特殊という感覚は少なくともなくなったと言える。そしてGRAColやSWOP、FOGRA準拠のモニタやプリンタがどんどん発売されているのである。モニタでは日本のナナオ製品が米国のSWOP、GRACol規格からいち早く認定を受けている。カラーマネジメントと言うと難しく構えてしまう人も少なくないと思うが、このように標準印刷規格に沿った製品を使っていくというのが、本来の生産現場でのカラーマネジメントなのだろう。
しかし正直な話、肝心の玄人の中にJMPAやJapan Color 2001に難色を示す人がいるのは困ったことである。自社プロファイルを使って独自の印刷をしたり、印刷時に調整して好みの仕上がりに調整するより、印刷標準規格に基づいたワークフローを構築するのが工業としての印刷産業の本道である。このへんをぜひぜひ履き違えないでいただきたい。
また先ほどから触れているFOGRAの27は枚葉のコート紙規格であるので、図2にCMYK曲線も付けて参考に掲示しておく。またPhotoshopのカラー設定画面も図3に付けておく。
まずは印刷標準規格に沿ったワークフローを構築するのが大原則であり、その際に使用するICCプロファイルも自社で独自開発のものを使用するより、デファクトを使用することだ。そのデファクトとは紛れもないPhotoshopに準備されているAdobe製のプロファイルだ。デジタル世界でのデファクトの力というのは、半端なものではない。かつてCEPSでScitex社がリーダー的な位置に付けたのも製品やコンセプトの優秀性もあっただろうが、PhotoshopでScitex LW(サイテックスラインワーク)がサポートされたことが一番のアドバンテージだったということは衆知である。Photoshopに装備されている印刷標準規格の意味を理解し、デジタル時代にマッチするように印刷機をセッティングしておくことがデジタル時代の印刷会社の役目である。
話は変わって、デジカメは当たり前になったが、CGと言ってもピンとこない印刷関係者が多い。しかし、ビジネスがコマーシャルを基盤にしたものであるならば、CGに移行するのは自明なのだ。CGになると色指定自体も設計データどおりに指定されるようになり、ほとんどの印刷会社が現在行っているような力業で色を合わせるというやり方は通用しなくなってくる。IllsutratorもCGならば色域をフルに使用できるし、印刷関係者もその色域を理解した上で印刷設計をすることが大事になってくる。
図4のビリヤードはAdobe RGBを意識して、数少ない日本製CGソフトであるShadeを利用して作画したものだ。それをJapan Colorで印刷すると再現域は図5のようになり、東洋インキから発表された広演色インキKaleidoを使用すれば図6となる。このようにCGを生かした再現ができることが分かると思う。RAWデータにこだわる会社は、ぜひこのようなCG画像に目を向けていただきたい。付加価値で差を付けるならCGが早道だ。
CIExy色度図を出すと、ほとんどの人が絶対値にこだわってしまうが、肝心なのは形なのだ。形が保たれれば元データの雰囲気は再現されるが、形がイビツになると「イメージが異なる」というクレームになる。図4、5、6の形を見ていただければその感じは理解していただけるはずだ。こういうことに長(た)けていることがCGを印刷用画像原稿としてハンドリングできる基礎的な素養となるのだ。
(プリンターズサークルにて連載中・2008年11月)
もう一度 学び直す!!マスター郡司のカラーマネジメントの極意