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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[2]
カラーマネジメントエバンジェリストを自覚している私としては、これまで「安易なICCプロファイル信仰」に警鐘を鳴らし続けてきました。「インプットプロファイルの安易な運用」「考えなしのプロファイル変換(=乱用ということ)」など使うな!くらいの強い否定をし続けてきました。なぜそんなにこだわっていたのか?って、理由は簡単「一利あっても千害ある」からです。
本連載は当たり前のことを復習し直して、知識をより確かなものにすることを目的としています。つまり、今更若い人にこんなこと聞けないと思っている年齢層の人たちを対象に(実は若い人にこの傾向が強いかも?「こんなこと今更親父には聞けないよ??」)、もう一度デジタル知識を復習(もしかしたら予習?)してもらいやすいように工夫しているつもりです。
ですから、なるべく簡単に説明することを旨としていますが、シャイな年齢層の読者に本当に役立つ知識は、分かりやすさとは相反してディープな話題がほとんどで、正直な話、分かったつもりになるだけならいくらでもテーマはあるのですが、そういうテーマのほとんどは役に立たないというのが現実です。
第1回目はまず手始めにICCプロファイルを取り上げ、そのサワリ(それでも十分ディープ?)として禁断のスミ版に触れてしまいましたが、内容はお分かりいただけたでしょうか? 少々心配になっております。
大事なことは「デジカメで撮影した品質が悪いからといって、それがデジカメ本体の品質が悪いとは限らない」ということなのです。つまり、「印刷が悪い」とか、「製版が悪い」とか、「顔が悪い?」とか、デジカメ本体とは別の理由で印刷結果が悪くなってしまっても、「デジカメの品質はイマイチ」と決め付けたがっている人にとっては格好のえじきになってしまうのです。
確かに初期のデジカメというか、初期のCCDの性能はこの程度だったのは本当です。CCDの実用化は空対空ミサイル「サイドワインダー」の熱戦センサーで始まったようなものですから、もともと赤外域の感度は高いのです。だから赤外カットフィルタが必要だったのですが、フィルタを効かせ過ぎると逆に赤色が出にくくなるという困ったシロモノでもありました。
従って、初期のデジカメでは紫色などがおかしくなるため、「赤外カットフィルタ等のノウハウ(フィルタ類を外してしまうという暴挙に出る方もいました)」や「色相を回転させる」などのウルトラC級のテクニックが必要だったのですが、今になっても同じことを言い続けているのには困りものです。自分の苦労したことを昔話として話したい気持ちは心情的に120%理解しますが、自戒の念も込めてまず自分に言い聞かせたいと思います。
最新式のデジカメの性能は素晴らしく、今更銀塩フィルムなどとは比べるべくもありません。男前の俳優(歌手?)や子供のロックグループが宣伝している一眼レフデジカメなどは初期のデジカメから比べたら1桁ゼロが少ない値段にもかかわらず、色品質のレベルはゼロを2つ足したくらいに向上しています。
デジカメの品質はまだまだ進化しそうですが、そのデジカメを使う人間やデジカメで撮影したデータを使う人間が進化しなくては、トラブルばかりが増えることになってしまいます。だからデジカメのメリットを理解したら、そのメリットを生かすために技術を冷静に分析し、今できることを実行することが必要です。
ここまでは前回の復習でした。ICCプロファイルの間違った使われ方で、デジカメの品質まで疑われてしまっているという話ですが、このことだけではなくICCプロファイルにまつわるトラブル話は後を絶ちません。
どうも最近ICCプロファイル万能主義が印刷業界にまん延しているようです。ICCプロファイルを理解した印刷会社は、運転免許取り立ての新米ドライバーのように運転したくてしょうがない様子ですが、運転免許なら車庫でバンパーをこするくらいで済みますが、印刷用のICCプロファイルとなるとそうもいきません。下手すれば仕事がなくなってしまうこともあるのです。英会話で新しい単語やセンテンスを覚えた場合、実践して自分のものにしていくことは大変結構なことで、実践練習の相手の外人さんもその辺は十分理解してほほ笑ましく接してくれるはずです。
ところが印刷用のICCプロファイルの場合は、印刷事故や信用喪失、ましてやクライアントの営業成績につながってしまうので、お得意さんが「やっぱり実践で練習しないとね。失敗を恐れずやってください」なんて、ほほ笑ましく言ってくれることは120%あり得ません。
つい先日も私のところに「広告原稿でJMPA(オフ輪用のプロファイル)用のCMYKしかないというんですが大丈夫ですか? 印刷所はプロファイル変換するから全く問題ないとは言っています。しかし……」という質問がありました。こういう質問が苦手な私ですが「色域の大きいものから小さいものへは変換ができるけれども、小さいものから大きなものへはまずいんじゃない(枚葉用プロファイルであるJapan Colorのほうが大きい)。豚肉ミンチを牛肉ミンチと言ってるようなものだしぃ」と説明したんですが、どうも理解してくれないので「元のRGBをもらえばそれで片が付くんだよ。それがRGBワークフローというものだから……、つまり元のRGBからJMPA用に変換したり、Japan Colorに変換したり、グラビア用に変換したりすれば全く問題ないでしょ!?」と説明したのですが、ついには「プロファイル変換は郡司先生が良いと言っていた」と言い出す始末でほとほと困ってしまいました。
「プロファイル変換」と「プロファイル指定」の話は、次回ゼロから解説し直すとして、今回のところは「指定はペケだが変換はOK」という具合にまずは思い込んでください。私も含めてCMS(カラーマネジメントシステム)を偉そうに講釈する先生は、「プロファイル指定でカラースペース(プロファイルの付け替え)を変更すると色が変わってしまうから絶対に使ってはいけません」「プロファイルを変える=印刷条件を変える。つまりRGBからCMYKなどにカラースペースを変える場合には、必ずプロファイル変換を使わなくてはいけません」と口を酸っぱくして力説しているので、誤解されている方は多くないと思うのですが、逆に「プロファイル変換ならやってもよいんだ」というポジティブシンキングに走られる方が多くて実に困りモノなのです。そしてその困りモノが前述の印刷所の例です。
RGBワークフローとはRGBデータを基本として、その基本のデータになるべく忠実に再現しようとする極めて単純なフローです。かつてはこの中心データにCMYKが君臨していた(CMYKフロー)のですが、印刷はOnly One MediaからOne of themにシフトしているのです(かといってまだまだ特等席にいることは忘れないでください)。themのメディアはWebだったり、ビデオだったり、DVDだったり、インクジェットだったりと、元RGBデータに対して忠実に再現しようとするメディアはたくさんありますが、印刷もthemの一つだと割り切って考えてください。
レンダリングインテントというカラースペースを変換する時のキーワードがあります。大きいものから小さいものへどうやって色を動かすか? つまり再現できない色はバッサリ切ってしまうのか(バッサリ切ると言っても白になるわけではありません。端っこの色として再現)、少しずつ寄せてそれらしく再現するか?というレンダリングインテントと呼ばれる方式(絶対的、相対的、知覚的、彩度保持)によって色は変わるのですが、現在のPhotoshopでは知覚的という方式がデフォルトとして使われています。
かつて北米では相対的、日本では知覚的というような流儀があったのですが、デジカメ時代になって階調が一番大事ということで全世界的に知覚的に統一されました。CMSの世界では知覚的がマナーからルールとして順守すべき項目となっているのです。大事なのは、この知覚的の場合は階調重視ですから何回もプロファイル変換をすると、階調は保持するものの色は変わってしまいます。ましてや何回もやると縮帯(帯域圧縮)という現象が起こり、色のネジレやジャンプが目立ってしまうことがあります。
それでは例をお見せしましょう。元画像としてのカラーチャートはAdobe RGB色域のRGBデータでできています。これをPhotoshopでプロファイル変換してその結果を比較します。
(1)Adobe RGB→Japan Color
最初は定番RGB to CMYK変換です。Adobe RGBからJapan
Color 2001 Coatedへの変換は、このように何の問題もなくCMYK変換されるのが分かります。
(2)Adobe RGB→Japan Web Coated(JMPA)→Japan
Color
今度は文中の例のようにJMPA(PhotoshopではJapan Web Coated
(Ad)という名前になっている)に1回変換してからJapan Color 2001
Coatedへ変換します。いったん小さくなったカラースペースですから、失った色域は戻ってきません。
(3)Adobe RGB→Japan Web Coated(JMPA)→Japan Color→Japan Web
Coated(JMPA)→Japan
Color
文中の例が元RGBからJMPAに変換された保証はどこにもないので、考えられるケースとしてJapan Color 2001
CoatedからJMPAに変換したものから再度Japan Color 2001に変換したものがこれです。彩度をかなり失っているのがお分かりいただけると思います。
以上の3つはすべてAdobe Photoshopに添付されているプロファイル、つまりトーンのつながりに細心の注意を払って作られているオマケのプロファイルなので、品質としては三ツ星クラスなのです。もってまわった逆説だと分かりにくいですね。
Web2.0時代というのはGoogleに代表されるように「タダより高い品質はない」「高モノ買いの銭失い」という時代なのです。プロファイルも正直な話、Photoshop付属のプロファイル以上のものは、専用ソフトに付いているものや高額のサポート料で作成されたものを含めて見たことがありません。ですからPhotoshop付属のプロファイルでは注意深く見ないとトーンジャンプは分かりにくいと思いますので、高額プロファイルが1回でも入るとどうなるか? というものをお見せしますが、Web2.0時代は象徴していると思います。
(4)Adobe RGB→Sプロファイル(A社プロファイルに変更)→Japan
Color
日本を代表する機器メーカーA社が作ったJapan Colorのプロファイルの後に、Photoshop付属のJapan
Colorプロファイルに変換したものです。こういう機器で吐き出されたCMYK画像を再度プロファイル変換するのは「?」とだけ感じていただければ今回は十分です。トーンジャンプがどういうものなのかは? 拡大図を付けて置きます。話だけ聞くとJapan
ColorからJapan Colorだから色は変わらないし、問題ないと思うかもしれませんが、現実はこんな感じです。
(5)Adobe RGB→Tプロファイル(B社プロファイルに変更)→Japan
Color
これも日本を代表する材料メーカーのプロファイルですが、以前から比べると大幅にリファインされていますのでもっと良くなることを期待しています。
日本を代表するメーカー2社の、責任あるプロファイルでもこのレベルですから、皆さんの会社の自社プロファイルというのは、ビックリしてしまうレベルにあるのですよ。実はこのチャートでPhotoshop付属のJapan Colorと、自社プロファイルでの印刷サンプルを比較したりすると同様のショックを受けられるかもしれません。蛇足ながら色が違っても仕事は通りますが、トーンジャンプは(製版)事故になってしまいます。
(プリンターズサークル・2007年8月)