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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[4]
ICCプロファイル変換について少々刺激的な話題を投げ掛けたので、ギョウカイ関係者から問い合わせを受けている。しかし、最初に恐れていたおしかりを受けているわけではなく、「実際にはどういう点に注意して運用すべきか?」「実用的にはどのへんが限界か?」などという真面目な質問が相次いだ。あまりに真剣だったので私もフンドシを締め直して、言葉を選びながら解説せねばと思っている次第である。
正直な話、今号から毎回新しい話題をポンポンっと歯切れよく行こうかとも思っていたのだが、こんなに真面目に質問されたのではもう少し郡司(マスター)風の問題の捉え方や、「脱線している時が一番の本質的説明なんだ」という独特の言い回し方に慣れていただく意味もあって、少々回りくどいが、今回も同じところの再確認をさせていただきたい。口調も堅苦しく始めてしまったが「である調」で問題点の再確認をさせてもらった。
まずICCプロファイルに関しては、「プロファイル変換」を魔法のつえのように考えて安易に乱発したら、とんでもない「トーンジャンプの嵐」になってしまうという警告をしたかったのだ。アドビシステムズが純正で作成しているような滑らかなトーンなら複数回の変換にも耐えられるが、残念ながらアドビ以外のほとんどのICCプロファイルでは、2回以上変換するとジャンプが目立ってしまうというのが現実なのである。ダメだダメだと言っていても話が終わらないので、ここは現実的に「4×4変換は1回を目安にしておく」という一つの実践ラインを提案しておきたい。それ以上はあくまで元のRGB画像に戻って考えるという「RGBフローの大原則」にのっとればよいのである。簡単です!?よね。
かつては「カラーマッチングシステム」だとか?「カラーネゴシエーションシステム」だとか?の無意味な定義論争で時間を費やしたこともあったが、最近こんな話を聞かないのは喜ばしい限りである。しかし、聞かなくなったのは印刷・(製版)業者とクライアント・広告代理店間であって、クリエイターと印刷・(製版)技術者との溝はいまだに深く、どうもカラーマネジメントと言うよりは、画質の好みにこだわっているようなのである。要するにレタッチしようがしまいが、「好みのアガリならよい」ということ、つまり「画像が最適化されていればよい」ということなのである。
まず最初にハッキリさせなくてはいけないのが、「だれのための、何のための最適化なのか?」ということである。つまりカメラマンについての最適なのか、デザイナーか、クライアントか、読者なのか?ということだ。これに関連して、部分最適or全体最適という言葉がある。カメラマンだけで画質を考えると部分最適に偏るのが常で、逆を言えば製版技術者(ノウハウ)の存在意義にもつながっている。
実は全体最適とは、製版技術者にとってハイエンドスキャナの奥義中の奥義とも言うべきものなのだ。ドラムスキャナ全盛時代、スキャナの達人たち、特に名人と呼ばれる人はHanakoなどの女性誌や通販カタログをスキャニングする場合、ほとんどセットアップをしなかった。この言い方に誇張はあるが真理でもある。例えば、Hanakoの画像を1点1点、時間を掛けて念入りにセットアップしようものなら、素晴らしい品質が得られるどころか、バラバラの調子で見苦しい結果になってしまう。「スキャナを信じれば良いものが上がる」とは、「スキャナの鉄人」の口癖だったが、これは100%AIセットアップに任せるということではない。正確には標準データをいかに作り込んでおくか?ということを意味している。達人が言う「スキャナのセットアップをしない」とは、イイカゲンにするのではなく、良い加減にするわけだ。つまり標準データというものを徹底的に突き詰めておく。
これさえしておけば八割方はうまくいくものだ。同じくICCプロファイルも突き詰めていくと、精度は格段にアップする。安易なデバイスリンクは単なる付け焼き刃でしかないことが、プロファイルを突き詰めた経験がある人間には容易に理解できるはずだ(デバイスリンクも含めてプロファイルについては連載が進んだところで詳説するので、今回はこんなものということだけ理解していただきたい)。
ここではあくまで技術として色の最適化を目指しているのだが、カラーマネジメントを情緒的なものと混同する人間の心理は理解しているつもりである。しかし、あくまで本流はカラーマネジメントフローでの最適品質を求めていきたいのである。これさえ踏まえていれば、「レタッチするべきではない」なんて無粋なことは言いたくない。
「死人を撮影しても湯上りピンクになってしまうデジカメの絵造り」(最近のコンパクトデジカメの多くはこんな感じ)や、「プロ向けの画像最適化ソフトなど」も使い手側の認識さえしっかりしていれば、異を唱えるものではない。写真の真ん中より上にブルー系統の色の分布が多ければ「空」と認識し風景画モードで最適化したり、画像の真ん中にオレンジ系統の色の分布が多ければポートレートとして認識したりと、プロ向け最適化ソフトはそれぞれがんばって作り込んでいる。全体最適に関しても分からない人間がマニュアルでやるよりは、「すべて最適化ソフトにお任せ」にしたほうがはるかに安定することは事実である。
この連載が始まってからの品質論議で口を酸っぱくして言っていることはスミ版問題だ。「デジカメを使うと品質が落ちる」「DTPの画質はどうもスミっぽい」「RGBフローはすっきりしない」などの文句のほとんどはスミ版に起因する。もちろんドットゲイン0%で、常に安定して印刷できればスミ版が問題になることなどない。しかしドットゲイン0%の印刷は存在しない。従来の製版は「印刷は不安定」という前提に立脚していたので、色カーブやマスキングが、印刷でふらついても比較的問題ないようにできていて、今まではスミ版のドットゲインがこれほど問題にされることはなかった。特に従来製版では、シャドー部だけ硬く入るようになっているスケルトン基調のスミ版が使用されていたので、顔などの明るい部分にスミが入って問題になることなど考えられなかった。
しかし、印刷もインクジェットプリンタや液晶ディスプレイのようなデジタルデバイスの一つという認識に立脚しているICCプロファイル方式では、ハイライト部からたっぷりスミが入ってしまう。ハイライトから入るようになると30%程度のスミが中間部から入ってくるので、わずかなドットゲインでもスミっぽくなってしまうトラブル発生する可能性が捨ておけなくなってくる。
なぜスミだと問題になるのか? 簡単明りょうに言えばスミインキはプロセスインキの中でも特殊だからだ。要するに日本のスミインキは「スミノセ」という言葉があるくらいだから、下地(下色)を透過しにくいのだ。だからCMYを反対色とした場合とスミではデータを作成した時の状態さえ再現できれば同じ結果が得られるのに、印刷がふらつくとスミが多くなってしまうとよりくすんで(スミっぽくなって)しまうのだ。
欧米のスミインキは「リッチブラック」(ただスミをノセただけでは下地・下色が透けてしまうので、Cの60%を下地に敷くこと)という言葉があるくらいだから、下地の色成分を透過してしまうので日本ほどスミの影響を受けないのだ。むしろいかにスミをたっぷり使うかが、歴史的に見て芸術的なカラー印刷再現技法になってくるくらいだ。レンブラントの油絵を想像いただければ雰囲気は理解いただけると思う。
こんなことをコメントしてくると、「スミ版問題を解決するのはデバイスリンクプロファイルで」なんていう説明がまたまた始まってしまうかもしれないが、デバイスリンクはあくまで付け焼刃的なものなので、印刷用CMS技術完成のためには、プロファイル技術やCMS技術そのものを再検討していくことも、今後必要になってくるかもしれない?
つまり、現在のICCプロファイル(技術)とはドットゲイン10%なら10%用のプロファイルが必要で、15%なら別のプロファイルが必要になるというものなのだ。しかし、印刷に関したパラメータはある程度規則的に(線形に)動くので、もしキャリブレーション的手法が可能なら、もっと印刷に適したことができるかもしれない。そのような試みも現実に欧州を中心に始まっている。もしくは、印刷が絶対的な安定性をもてば現状のICCプロファイル技術で何ら問題がないというのは既にお分かりだと思う。要するにICCプロファイルは安定したデバイス用に考えられていたのだが、印刷はその対極にあるものだ。それをうまく応用しようと思ったらそれなりにリファインする必要があるというわけだ。
最近は「RGBフロー」という言葉が至るところで聞かれ、少々鼻につく。またRGBフローと言いながら、その実態は「CMYKと何が違う?」というものが多い。まず「RGBフローとは?」などと大上段に構えなくとも、RGBデータを主体に考えているワークフローがRGBフローで、CMYKデータを主体にしているのがCMYKフローと考えれば簡単に割り切れる。
例えば、イラストレーター(ソフトではなく人間、特に印刷を熟知していると言ってセミナーなどやるタイプ)が、「RGBの場合、彩度を高くし過ぎるとCMYKで色が破たんする」と言ったりするが、こういう考え方はRGBデータで入稿しかつCMYK分版をInRIPセパレーションしようと、RGBフローとは言えない。まさしくCMYKフローそのものなのだ。標準色空間いっぱいにRGBデータで描き、その色をCMYK空間にICC的に変換するのがRGBフロー的CMSである。そして見た目差がないようにするのがレンダリングインテント(知覚的とか相対的というマッピングノウハウで、今後の連載で解説していく)などのノウハウで、ICCプロファイルの出来不出来で品質は異なってくる。このへんはあまり議論されないが、プロファイルのレベル差で印刷品質は大きく変わってくるのだ。
デジカメでRGB入稿してもCMYK主体に考えるならCMYKフローということだが、これが決して悪いと言っているのではない。印刷中心のフローなら、スキャナの代わりにデジカメになっただけだから何ら不都合なことはない。問題なのはRGBでハンドリングしながら、実態がCMYK時代と変わらない場合だ。Adobeアプリでも標準になっているように、印刷にはAdobe RGBを作業領域(ワーキングカラースペース)設定するのが好ましい。この連載で訴えてきたので多くの読者には理解されていると思う。アドビ的な考え方では、Adobe RGBカラースペースを素直にICC的なCMS手法でアウトプットまでもっていけばよいのだが、今までのしがらみからか? いったんsRGBなどのカラースペースに圧縮してから、好ましい色作りをしてAdobe RGBに近い(ここまでは大きくしないが)領域に出力したりする「なんちゃってRGB(CMS)フロー」とも言うべきものが存在している。D.P.E.ショップのミニラボ機、いわゆるお店プリントなどがこれに当たるが、実はコンシューマーレベルのインクジェットプリンタも近いことをやっているのだ。「いやぁA社のインクジェットプリンタのブルーは素晴らしいですね!」「B社は赤がよく出る」などというのも圧縮はしていないがこの類に入れてもいいだろう。正確にsRGBを再現するプリンタを各社が作っていただけでは製品に差が出ないだろうし、ミニラボ機などでは街のD.P.E.ショップの設備投資サイクルまで考慮しなければいけないだろうから、お家の事情としては理解できる話ではある。
「なんちゃってRGB、なんちゃってCMS」を濃縮還元ジュースに例えると、絞りたてのAdobe RGBをsRGBに濃縮(ビタミンCはなくなっていると思うが…)し、還元する工程で素材の味を生かす(元味に戻す)というより、好みの味に仕上げているということだ。現時点での画像処理技術でも愛媛ミカンの濃縮ジュースをバレンシアオレンジっぽくしたり、カリフォルニアオレンジにしたりは朝飯前のレベルにある。これにケチを付けるつもりなどない。そういうことを熟知して使うのが大事なんだということを言いたいのだ。
自分で撮影したデジカメデータを、製版知識をフルに活用してPhotoshopでレタッチして「お店プリント」に出したことがおありだろうか? いくら「画像処理なしでプリントしてください」と店員さんに頼んでも結果は悲惨だったはずだ。しかし、デジカメで撮りっぱなしのデータを「お店プリント」に出した時の品質は実に素晴らしい。少々の逆光くらいものともしないだろう。同様に、スキャナ代わりとして専用RGB to CMYK変換ソフトを使用した場合も、印刷に特化しているだけあってプロ級の品質が得られる。
ただし、このように作られた品質というものは、アナログ時代の感性・価値観が生きており、少々作り過ぎが気になる。つまり厚化粧なのだ。最新のデジタルカメラのように、色を正確にデータ化するようになると、現在のオーバーコレクションの度合いは、半分程度に抑えたほうが「今風の画質」に近づくと思うがいかがなものだろうか?
蛇足(だそく)として一つ付け加えておく。最新機種になると、かつてのカラースキャナのようにデジカメ自身が色を作っているので、製版側は何もしないほうが好ましい色になることもある。コレは逆説だが本当の話だ。むしろ「オーバーコレクション過ぎる」とは、カメラメーカーに言いたいくらいのものだ。もちろん前提条件として印刷の安定化は必須で、不安定だとある程度のオーバーコレクションは必要である。
蛇足の蛇足で、CCDに関してはCCDからのRGB信号がハイレベルになってきたので、そろそろナチュラルメイクを志向すべきということで間違いがないが、CMOSセンサがフルサイズ一眼で一般化してきた現状では、もう2、3年厚化粧時代が続くことが予想される。実はCMOSから出てくるRGB信号とは、そのままではとてもまともな色にならない。かなりなぶって美しい色にしているのが裏話である。だからCMOSセンサの色再現は実は色作り技術の成果とも言えるのだ。これも今後の進歩に期待したいが、デジタルらしい薄化粧の画質は必ず実現できるはずだ。
もう一つ、蛇足の蛇足の蛇足で付け加えさせてもらえば、現在液晶テレビの品質が加速度的に良くなっている。有名ブランドの高品質テレビはAdobe RGB域をカバーしているし、フラットパネルディスプレイの技術革新は進み、医療系も考慮すると、動画も含めてAdobe RGBに若干暖色系(血の色)をプラスしたあたりの標準カラースペースを中心にしたCMSフローに落ち着くのではないかと思う。ちまたではいまだに「記憶色」とか「好ましい色」論議は盛んだが、ストレートな素直な色の精度は小手先の色作りよりはるかに好ましい。散々色作り(ゴマカシ)をしてきた張本人(ワタクシ)が言うんだから間違いはない。デジタルカラーの本当の奥深さはこのへんにあると断言できる。アナログとは異なり、デジタル信号は250と251は信号がなまって差がなくなることなどないのだ。デジタルの恐ろしさとはそういうことでもある。
動画の編集現場でビデオ信号は白基準や黒基準が決まっているが、微妙な色の感じはマスターモニタと言われるモニタでのチェックが基本となる。もちろんこのマスターモニタ(マスモニ)が狂っていれば、合わせた色も狂っているのだが、長い間このしきたりでやってきている。製版現場は長い間CMYKでやってきたのでCMYK網%でチェックする癖が染み付いているが、一度Adobe RGBキャリブレーションモニタの品質を見ていただきたい。ナナオのCG221という商品が現在、グラフィック業界でのマスモニの地位を確立している。マスモニまでいかなくても20万円を切る価格で準マスモニと言えるべき品質のモニタがそろっている。ナナオのCG241W、SAMSUNGのXL20、NECのLCD2690WUXiなどひと目見ただけで普通のモニタと大違いなのがワカル実力機だ。
「カラーマネジメントは難しくて分からん」が口癖の社長も「色が良くなるなら」と言って、印刷機を始めとした機械に数百万円投資することにはあまり抵抗を示さない。だまされたと思ってモニタの品質を上げて見ることを勧めたい。とにかくまず第1にモニタの品質アップだ。モニタの品質をアップすればレタッチ技術や色に関する感性も研ぎ澄まされるし、レタッチ技術の上達は3倍早くなる(習熟度は3倍になるはず)。今、中国の大連ではDTPエキスパート技術試験に備えて技術者を養成中だ。つい先日も彼らにAdobe RGBモニタを使ってもらうイベントを開催したが、真っ白の彼らを見ているとビジュアルの大切さをつくづく痛感できる。残念ながら彼らがこのモニタを常時使うことはできないが、モニタの重要性は実証できた。もし設備投資をお考えなら、その筆頭にAdobe RGBキャリブレーションモニタを導入してほしい。まずは何よりのカラマネの第1歩だ。それに「コレを買えば品質がコレだけ上がる」「アレを導入すれば生産性がアレだけ上がる」という合理的な代物だ。若いオペレーターなら、確実に品質も倍、生産性も倍になることだけは保証する。ではでは。
(プリンターズサークル・2007年10月)