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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[9]
印刷業、特に製版に従事していた人は色を熟知していると思われているが、どうも単純にそうだとも言えないようだ。というのはアナログ時代(卵白版の時代ではなく、ダイレクトスキャナ時代)に色を出していたのはスキャナであって、スキャナを使っていたオペレーターが色を熟知していたわけではないということだ。ハイエンドスキャナは少々おかしなことをやっても赤は赤、空は青に出るように設計されているが、コンシューマー系スキャナのRGBデータとは単にガンマ圧縮されてディスプレイでまともに見えればよいようなコンセプトで作られている。しかし、デジタルカメラからのRGB信号は+色演出されたものと考えるべきで、ハイエンドスキャナからのCMYK画像信号に近くなっているのである(スキャナ屋の言葉では「色とグレーを離す」と言ったりしていたが…)。
印刷関係者はどうもRGB vs. CMYKで考える癖があるようだが、「RGBかCMYKか?」という区別はナンセンスだ。もう一つの癖というか、症候群はグレー信奉症だろう。印刷関係者に画像再現で大事なポイントを尋ねると決まって「グレーが大事だ」と答えると思うが、これは大いに「?」ものである。色演出された色信号ならグレーが重要だと言ってグレーバランスを揃えれば適正な色の画像が得られるだろうが、測色的(演色的な処理をせずに色とグレーが接近している)なRGB信号の場合、「グレーが重要」などと言って調整すれば「色が足りなく」なったり、「色カブリして」しまうだろう。特にシャドー部は顕著で「成り行き」といって、撮りっ放しにするのもノウハウなのである。この道何十年の色のベテランは「CMYKなら分かっている」と言うが、色が分かっていたのはハイエンドスキャナであって、そのオペレーター本人が色を作れるかというと大いに「?」である。デジカメなら曲がりなりにもAdobe RGB(もしくはsRGB)域にまともな色をはき出すので色は保証されている。逆説的だが、印刷業界にとってハイエンドスキャナのように頼れる存在はデジカメなのである。しかし、そのデジカメも決まり切った色を出してくれるのはJPEGのほうで、一部で持てはやされているRAW現像ソフトはコンシューマースキャナのようにガンマ補正くらいしかしていないものもあるし、ただドハデナ色を出せばよいと勘違いしているものもあるので注意しなくてはいけないのだ。もっとも色が分かっている人間にとっては、色をこねくり回していない素直な特性のRAWデータとRAW現像ソフトが一番使いやすいが、冒頭に触れたとおりハイエンドスキャナを使い慣れたオペレーターにとってはある程度色演出を施されたものでないと使えない?はずだ。
そこで今回は「印刷業界のためのRAWデータ/現像」というテーマで初歩的な話について述べてみたい。次回に解説をプラスさせていただくので乞うご期待だ。さて、RAW Fishと言えば生魚(刺身)のことでRAWとは「生の」という意味だが、デジカメのRAWデータとはCCD(CMOS)から出てくる生データのことだが、後でセットアップを変更できるというフレキシブル以外に根本的なポイントがある。図1をご覧いただきたい。
一般的(3CCDやフォビオン以外)なCCDの1画素はRGBデータを持っているわけではなく、1画素はRか、Gか、B、1種類の色しか情報を持っていない。だからベイヤー配列などの配列の工夫やほかの画素から残り2色の情報を取ってきて、RGBセットの1画素データを作るノウハウが工夫されたりしているのだ。このRGB1画素にすることをデモザイクと呼んでいるが、倍率変更と同様に性能の良いアルゴリズムというのはいろいろ考えられる。しかしJPEGデータのように、リアルタイムでデモザイクを行うにはスピードのこともあり現実的には落ち着く妥協点で製品が設計されている。RAW現像の場合はデモザイクをソフト上で行うためスピードの制約は受けないし、新しいアルゴリズムが開発されたりすると、解像性や色調が進化してくることも大いにあり得るのだ。
このように純正とサードベンダー製は大きく性格が異なるのだが、印刷業界で標準と考えられるもの、つまりAdobe製品を例に説明したい。個人所有のカメラ(私は予算の許す限りNC2社カメラを同時に使うことにしている。今は一眼デジカメがN、コンパクトデジカメがCを使っている。アナログはEOSなのでCさん堪忍ドスエ)がNIKONのD80なので、これを例に説明する。まずカメラの設定だが図10を見ていただきたい。
デフォルトはJPEGモードになっているのでRAWモードにする必要があるが、私の場合は念のためRAWとJPEGの両方で撮影できるモードを利用するようにしている。撮影したRAWデータはいわばセットアップ前のデータなのでデモザイクとセットアップが必要になるわけだ。これを現像と呼ぶがNIKONの純正はもともとNIKON Captureだったが、現在は図11のCapture NXにアップグレードしている。Adobe製が図12のPhotoshopのカメラRAWプラグインだが、もしもカメラマンが社内にいるようなら図13のLightroomを使用してもよいと思う。私個人の使い勝手は慣れもあってPhotoshopをついつい使ってしまうが、中身は変わらない。その後のこともあるからPhotoshopを使用すればよいと思う。しかし、RAWのことも含めてPhotoshopは最新版を使うべきだ。それにしてもCEPS時代DS社製のスキャナは-14%から113.5%まであって便利だと感じていたものだが「100%以上があるわけないじゃないか! 理論的におかしい」などと言われて怒られていたものだった。しかし、RAWだって全く同じなのに、今やもろ手を挙げて絶賛とは? そりゃ、ないだろうとも思ったりするが、世の中そんなものなんだろう。しかしRAWデータは現像前のデータであり、仕上がり基準が決められる前の段階というのをくれぐれも忘れないようにしていただきたい。未現像のフィルムを印刷会社に入稿したりはしないのと同じだ。あくまで品質基準を作り出す場合、フォトレタッチャーへの入稿などの場合のみ、RAW入稿を基本としている。これは原則としてたたき込んでいてほしい。
(プリンターズサークル・2008年3月)