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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[13]
こちらの勝手な都合なのだが、今この原稿を書こうとしているのと時を同じくしてdrupa2008が始まったところである。drupaは印刷関係の世界4大展示会の親分格として有名で、そのほかの3つ、北米のPRINT、英国のIPEX、日本のIGASを尻目に世界一の印刷展示会の名を不動のものにしている。逆にPRINTやIPEXの相対的な地位の低下は事実として認めないわけにはいかない状況だ。IGASは4大展示会の中では一番の後発だったが、正直大健闘していると言える。将来的には中国の展示会にその地位を明け渡すことになるのかもしれないが、なかなか善戦しているというのが(私の)率直な感想である。かく言う私もdrupa後半戦に行くことになっており、バタバタの状況の中、原稿を書いている次第である。
drupa期間中は会場のデュッセルドルフ近郊はすべてが特別価格で、ホテル代などは4~5倍に跳ね上がる。日本からのdrupa視察では1泊8万円なんていう部屋に泊まられる方もいらっしゃるはずだ(しかし部屋は日本のビジネスホテル並み)。私の場合はというと、はなからデュッセルドルフ市内はあきらめて、隣町のケルン、それも写真関係では世界一の展示会であるPhotokina(フォトキナ)※が行われるケルンメッセのホテルを予約したら、通常料金でアッサリOKだった。もともとデュッセルドルフとケルンは東京と大阪、ロンドンとパリ、尾張と三河、高崎と前橋(急にローカル?)のように互いに張り合っている街なのである。ケルンはローマ時代からの歴史ある都市だから、新興工業都市のデュッセルドルフあたりと一緒にはされたくないのだろうが、今はドイツ最大の大聖堂とオーデコロンのほう(だけ)が日本人には有名だろう。余談だが、ケルンの英語読みがコロンなので「ケルンの水をオーデ(水)コロン」と呼び、ただの水を瓶詰めにして売り出したら世界的な大ヒットになったのだから宣伝いかんでは世界的な大ヒットになる例でもあるのだ。本当は草津の湯の花と大差ないということである。余談の余談だがケルンメッセ横には市営浴場(日本風に言えば冷たいので鉱泉)があり、ここはキレイで安いしお奨めである。もう少し余談を続けるが、ケルンとデュッセルの街自体を比較すると「デュッセルドルフのほうを美しいと感じる日本人が多いのではないかしら?」と思う。ビールだってデュッセルドルフでは上面醗酵のアルトビア(ちょっとコクがあり色も味も濃い目で、ワタシテキにはこちらが好み)だが、ケルンではケルッシュ(のどごしスッキリのラガータイプ)が好まれ、何かにつけてライバル心むき出しなのだ。ケルッシュの味というより「オラが街のもんが一番ダベサ」なのである。一般的に上面醗酵のアルトに対してケルッシュは下面醗酵と考えられているようだが、アルトビアのおいしさに嫉妬したケルンの住民がまねして作ったのがケルッシュというのがどうも本当の話らしいが、真偽のほどは調べていない。もしもケルン人にこんなことを聞こうものなら生命の保証がないからで、ご了承いただきたい。しかし、こんな性格を知っているとホテルなどの予約にも随分役に立つのである。さすがにdrupa期間中はケルン市内もカキイレドキなのでエッセンなどのデュッセルドルフ周辺都市みたいな特別価格になるが、「Photokinaの行われるメッセ併設のホテルならもしや?」と思ったのが大当たり、日本のビジネスホテルの料金で部屋が確保できた。デュッセルドルフメッセはdrupa、ケルンメッセはPhotokinaが看板展示会だから面子というものも少しはあるのだろう(?)。飛行機だって日本発の場合、ルフトハンザや日系の航空会社から満杯になっていくが、オーストリア航空あたりを使用してウィーン経由でケルンを目指せばルフトハンザよりも直線を飛んで行けてかえって便利なのだ。ましてや、ほかの航空会社よりもずっと安い。要するに発想を変えるだけで、逃げ道や可能性は必ず残っているということである。そういう発想ができるようになるために、おじさんになってまで勉強したり、情報収集したりをするのである。
※Photokina 2008(9月23日~28日)
drupaの話題をまくらにして始めたが、私が行くこともあり次回はdrupaをネタにしてみたい。そこで今回だが、前述した例のように見方を変えてみると「ああこういうことだったんだ」ということが、色の世界でも実に多いので、そんなものを再確認しながらdrupa前の再整理をしてみることとする。
さて先日あるベンダーの方からいくつか真面目な質問をされた。1つ目の質問は「モニタの色温度が異なってもEye-Oneなどのキャリブレーションツールを使用すれば、色は合うのではないですか?」というものだ。これは結論から申し上げるとモニタの色温度=紙白なので、色温度設定が異なると見た感じの雰囲気は大きく異なってしまう。印刷目的のためなら5000Kに合わせないといけない。図1のように、
(1)色温度は5000Kが(マナーではなく)ルールである
(2)ガンマは1.8が紙に近くなる
(3)モニタ管面輝度は80cdを目安に
人間の目は明るい部分、紙白などに敏感なので、いくら色を合わせても白色点に引っ張られてしまう。だから数台のモニタの場合は白色点をそろえる必要がある。プリンタの場合は紙白込みでカラーマネジメントすることも欧米では常識だが、モニタの場合は現実的とは言えない(一部の最高級モニタなら可能かな?)。ガンマはなかなか説明が難しいのだが、1.8(1.6くらいが一番近いかも)のほうが2.2よりも紙のシミュレーションには向いている。これもAdobe RGB絶対といった場合は2.2なので注意が必要だ。このように標準色空間の場合は、しゃっちょこばるとsRGB、Adobe RGBは2.2、Pro Photo RGBは1.8のように設定しなくてはいけない。管面輝度の80cdは色校正紙とモニタを見比べる場合に、80以下に下げないと紙とモニタが合いにくくなる。部屋の明るさも同様で薄明るいくらいの500luxあたりがよい。色校正室(2000lux)のように明る過ぎたり、マルチメディア制作室のように薄暗いと、紙とモニタを合わせようとしても絶対合わないのだ。
モニタの色温度の話題を出すと決まって、「個人的には5500Kを奨める」なんて人が現れるのだが、こういう人の使用しているモニタを計測器で測定すると、5500Kでモニタ上の実測値が5000Kになっていることが多い。要するにその人の目は正しいということなのだ。このようにモニタの設定画面で色温度や輝度を合わせる数字というものは、1000や2000は平気で狂っていると考えておくべきものなのである。
同じく「sRGBもAdobe RGBも大差ない」という人もいる。カメラマンに多いようだが、これも眼が悪いというより、その人のカメラがsRGBモードもAdobe RGBモードも大差ないだけの話なのだ。ひどい物になるとAdobe RGBのほうが、再現色域が小さい場合もあるくらいなのだ。パッと見た目に派手めに出すだけでごまかしている場合が非常に多い。また再現色域はだいたい同じにもかかわらず、再現色が異なる場合も多々ある。これはデジカメメーカーが忠実再現モードといっておきながら色演出を施していることによって起こるものだ。例を見ていただきたい。図2はそのものズバリ忠実再現だが、図3はかなり色演出している。色相環を撮影したものなので、忠実なら放射線状に線が延びているべきものなのである。図3は右下の暖色系部分(肌モノ)が入り組んでいるのが分かると思う。こういうカメラで撮るとどんな人でも湯上りピンクの理想肌に映るが、女漫才師のオセロなどは白黒の区別が付かなくなってしまう。印刷会社的な見地からすると、「図2のようなストレート再現のほうが後々データはいじりやすい」というのが率直な要望だ。図3だとこれ以上レタッチしたら画像の調子を破壊しかねない。限界値までカメラが色をなぶっているということだ。
では、Adobe RGB域の色とは存在しないのかというとそうではなく、海や血や糸(アパレル素材の蛍光色など)の色はAdobe RGB域を楽にはみ出している。一つ例をお見せするが、図4の海の中を見ていただきたい。すべてのピクセルが見事にsRGBの外に位置しているのが分ると思う。「ええ、それじゃsRGBモニタではこの絵は真っ白になっちゃうんですか!?」と驚かれる人がいるが、「残念、白ではなく黒くなってしまうんです」と答えると皆さん慌てふためいてしまう。実際はそれなりに圧縮されて見えているには見えているのだが、もちろんAdobe RGB再現モニタを使用すればエメラルドグリーンの調子再現は言うことない。
そのほかに誤解されていると思ったのが、キャリブレーションツールを使ってモニタの色合わせをするということが、さもすごいことをやっているように考えられていることだ。しかしモニタのキャリブレーションツールは基本的にRGBの色点を決めて、ガンマを設定しているだけなのだ。だから精密に色を合わせることは難しく、その必要がある場合はハード的なキャリブレーション機能を持ったものが必要だ。いずれにしろRGBワークフローではモニタが命である。パソコン本体と同等の価格くらいは惜しまずに投資することをお奨めする。
第2番目に注意しておきたいことが、ICCプロファイル至上主義とでも言おうか?プロファイルの盲目的な信仰に対する警鐘である。質問内容は「ICCプロファイルを使えば、どんな印刷機でも色を合わせることができるのでは?」というものだが、これを拡大解釈して、自社標準を持てとか、わが社の印刷品質をとか言うのだが、安易にプロファイルに頼り過ぎているようである。確かにカラーマネジメントの基本概念は魔法のようなものだったが、8ビットの制約やプロセスインキの特性(色のつながり)などで便宜上sRGBやAdobe RGBなどのワーキングカラースペースが必要になったりしているのだ。印刷物の発注にしても欧米、特に北米では「SWOP(アメリカの印刷標準規格)で3万枚」と契約書に明示されている。印刷結果が「平均色差がΔE3.5以上だったら損害賠償いくら」まで決められるのが普通である。最近は商業印刷用のGRACoL規格が幅を利かせているが、初めから「標準印刷規格で色差いくつ以内に収めて納品」という印刷契約は「この色校正どおりに印刷します」よりは、ずーーーーっと品質管理されている感じがしないだろうか?
私が印刷発注者だったら「御社の規格で印刷すれば品質の良いのは分かったけど、少しくらい悪くてもいいからJapan Colorで印刷して」と言ってしまう。自社基準だと印刷会社の変更が利かなくなるが、標準印刷ならA社B社C社自由自在だからだ。欧州でもFOGRAが中心となって標準印刷規格の制定に躍起になっている。大変けっこうなことだと賛成したい。だからJapan Colorの普及などには多少の問題には眼をつぶり、良いことをまず実現するように活動してきたつもりだ。ただし印刷標準規格をどんなにきっちり作ろうと、ICCプロファイルの出来不出来で台なしになってしまうので注意してほしい。
図5、6、7は皆同じくJapan Color 2001用に作られたICCプロファイルだが、図5はPhotoshopにおまけに付いているもの、図6はある印刷会社があるメーカーに頼んで自社用に作ってもらったJapan Color 2001用プロファイル、図7はJapan Color2001ができたころに付いてきたプロファイルだが、日本の印刷で一番品質がいいのはおまけの図5である。図6はGCRのスミ版変換量が多く、スミっぽくなったり、西陣織の金色帯などはRGBにUSMを掛けたりすると色が緑っぽく変わってしまう。図7は論外でトーンジャンプの嵐になってしまう。このように今まで日本では考えられなかった「おまけが一番品質的に良い」という世界がカラーマネジメントの世界でもある。このようにプロファイルは簡単にできないことや現実の印刷を考えれば考えるほど、好き勝手なプロファイル運用よりは標準印刷での運用が一番ということは理解いただきたい。このへんも含めて世界のカラーマネジメント事情をdrupaで見てくるつもりである。
(プリンターズサークル・2008年7月)