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基準コストの算出に必要となる稼働時間の定義と、把握の難しいプリプレス部門の稼働時間の「見える化」について
受注一品別に社内の製造原価を把握するには、工程別に掛かった作業時間×基準時間コストを算出するのが一般的である。
基準時間コスト=年間コスト÷年間総稼働時間
で表される。基準時間コストは部門ないし設備単位で設定する。コストと稼働時間は前年実績ないし次年度予算の値を用いる。
ここで注意が必要なのは稼働時間の定義である。
下図は作業時間の分類を図示したものである。
実働時間(A)・・・・・出勤から退勤までの勤務時間から昼休みや会社が定めた休憩時間を引いたもの。
直接作業時間(B)・・・・・実働時間から間接作業時間を引いたもの。間接作業時間とは、朝礼や朝の諸準備作業、紙待ち・版待ちなどの待ち時間、機械故障やメンテナンス、終業時の後片付けなどの時間である。
主体作業時間(C)・・・・・直接作業時間から準備作業時間を引いたもの。準備作業時間とは、印刷機でいえば、紙積み、版換え、ブラン洗浄、色調調整などの前準備作業の時間と刷本排出などの後処理時間である。
「稼働時間」には、(B)の直接作業時間の値を用いることをJAGATでは推奨している。
(C)の主体作業時間を稼働時間として印刷機の稼働率を算出している企業もある。確かに生産性の向上には、準備作業時間を短縮し、主体作業時間の比率を高めることは非常に効果があるが、「原価」という観点では、(B)の直接作業時間が妥当と考える。判断の基準は受注と紐づいた作業時間かどうかである。
印刷機の場合、稼働時間の把握はそんなに難しいことではないが、プリプレス部門、特にDTP制作の稼働時間の把握は非常に難しい。一人のオペレータがレイアウト、画像補正、イラスト作成など細かい作業の積み重ねを自己完結で行うことが多いからだ。また、営業との打ち合わせや次工程への申し送り、過去データの検索やバックアップなど、受注に紐づく直接作業なのか間接作業なのかの区別がグレイな項目も多い。
page2012カンファレンス「1から始める見える化 」の中で富沢印刷の富沢社長から「制作部門のオペレータに作業日報をつけるようにと指示したところ、当初は日報上の作業時間は勤務時間の半分くらいしかなく、実は半休ではないかと目を疑った」というエピソードをご紹介いただいた。
あまり細かいことは言わず、受注番号と作業内容と作業時間を記録するようにと指示すると、こうなることが多い。無意識のうちに図1でいう(C)の主体作業時間のみ記録してしまうからだ。
「日報に記録がない時間は働いていないことになるから」と、より細かい記録を求めたところ、「こういう場合はどう記録したら良いのか?」、「この作業は受注に紐づくとみるのかどうか?」など問題点が続々でてきたという。
その都度、ひとつひとつルールを決めていくのは手間も時間もかかるが、こうしたプロセスを踏むこと自体に意義がある。議論を重ねるごとに時間に対するコスト意識が高まって、運用が定着するころには自ずと稼働率も高まるようになる。
「気付き」の機会を得ることで、社員自ら考えるようになるのが「見える化」の大きな効用である。
(花房 賢)