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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意[18]
今回はマスター郡司の考える画像ビジネスについて語ってみたい。そして次回にはそれを具体論に落として、技術的なまとめに持っていければと考えている。
カラーマネジメントというキーワードは当たり前の常識として、画像ビジネスを整理してみると次の3つに分類することができる。もう一度言うが、「カラマネ」は常識として考えておくことがあくまで前提となる。
「スキャナからデジタルカメラに移る時、さんざんデジカメ、デジカメと騒いだのはおまえだろうが!…」という言葉が聞こえてくるが、銀塩からデジカメに移行した時の理由が、画質もあるがコストダウン(画質もデジカメのほうが数段良いが)が決め手だったように、デジカメよりもCGのほうがコストダウンになるのだ。
今回はくどい説明はしないが、工業製品のほぼ100%はCADシステムで設計されている。そしてそのCADシステムからCGへは簡単にコンバートできるので、手間が省けてコストダウンになるのだ。CADソフトとCGソフトは同じメーカー製だったり、別会社でも互いに緊密な情報交換を行ったりしているので親和性は非常に高い。
「こりゃすごい」と夢みたいに誤解してしまう恐れもあるが、昔のPDFレベルだと思っていただきたい。今はほとんどのアプリで「~.pdf」を選択して保存すればOKだが、昔はDistillerを駆使しなくてはまともなPDFは作成できなかったのを思い出していただければ理解できるハズだ。このようにCADデータからのコンバートによるワークフローのシンプル化なのだが、「これだったらデジカメよりもシンプルだな!」と理解いただけると思う。
自動車や飛行機などとCGはマッチするのは当然と思うが、東京大田区や東大阪市の町工場で作っているネジ1本だってCADで設計されているわけである。華々しいアイテムにばかりに目がいくが、考えてみればすそ野は非常に広いのだ。風景、食べ物、人物以外の印刷対象はCGと思って間違いない。…と、本日はここまでにしておいてCGのカラマネの話に移ろう。
現在のCGソフトはアドビ風カラマネには対応していない。見た目(モニタのカラマネが重要)で決めるか、8ビットRGBデータなら256階調値で指定していけばよい。
図1をご覧いただきたい。これはCADからのコンバートではないが、Shadeという日本の誇る(今や一太郎とともに数少ない日の丸ソフトだ)CGソフトで作成したCMYKRGBビリヤード球である。図2はAdobe Photoshopの情報パレットでチェックしているところだが、イエローの一番彩度の高いところにカーソルを当てている。R255、G255、B0とはR+G=Yなので想像がつくと思うが、実はYの反対色であるBが0ということがイエローなのだ。Red球(一番彩度の高い場所)だったらRが255になればよいことになる。
このように作画(ShadeでRGB値を指定)した後にAdobe RGB領域に256階調(0から255)を配置したければ、図3のようにPhotoshopのプロファイル指定でAdobe RGBを選択すればよい。その結果、得られる色調分布図が図4であり、RGBCMYK目いっぱいに色調が伸びているのがお分かりいただけると思う。sRGBなら図5のように、ProPhotoRGBなら図6のようになる。
ただし、ProPhotoで指定した画像をプロファイル変換でAdobe RGBに持ってきても微妙に色の調子は変わるので注意が必要だ。「プロファイル指定」は色がシフトするが、「プロファイル変換」はシフトしないと丸暗記するだけでは能がない。このようにCGを印刷原稿に持ってくるにはちょっとしたテクニックがポイントになり、それがビジネスにつながるのである。これがCG画像の色を合わせる基本だが、Photoshop CS4になるとまた状況は変わってくるが、これは後ほど紹介したい。
2つ目の画像ビジネスがレタッチャーである。色や画像の調子に関する責任をレタッチャーと言われるクリエイターが一手に引き受け、Photoshopなどの画像処理ソフトでなぶり倒して作品を仕上げている。ハンドレタッチャーも真っ青というくらいの手間暇を掛けているのだが、Photoshopで300レイヤーくらいの画像処理はごく普通というレベルである。
こういうレタッチャーへの入稿はTIFFやJPEGではなくRAWデータが基本となる。色や調子はカメラマンではなくレタッチャーが決めるのだから、自由度のあるもののほうが適しているわけだ。そしてRAW入稿の場合、カメラマンはクリエイターというよりは単なる素材提供者、素材オペレーターということになる。だから報酬もレタッチャーが群を抜いて高額を得ているのが現実である。
RAWデータを印刷原稿として使用するためにはRGBデータに現像しなくてはならないが、そのために必要なのが現像ソフトである。図8はPhotoshopのRAW Plug-inでRAW現像している画面だが、CS2あたりから使用レベルに達してきたので、印刷業界としてはこれを使用しても悪くはないと思う。もちろん純正品が一番いいことは言うまでもないことだが、非純正では粗悪品も多いので注意が必要だ。
図9は露光量をプラス4絞りアップしているところで、図10は逆にマイナス4絞りダウンしているところだ。プラスマイナス8絞りというのは、レタッチャーが撮影しているのと同じで、実際のカメラマンは重い機材を担いで原料を採ってくるガテン系という位置付けになってしまう。
図11は周辺光量の調整機能で、ひと昔前はレンズ設計でまず第一に気にしなくてはいけないのが、周辺光量が暗くならないことだったが、最近はチョチョイノチョイで全く気にならなくなってしまう。純正品を使うともっとすごいことができる。各撮影条件でのレンズ収差はメーカーでは分かっているので、わい曲や色収差を純正現像ソフトでは修正してしまうのだ。図12は一例だが、NikonのD80でVR18-200mm (f3.5-5.6)で撮影した画像を、そのまま純正現像ソフトであるCaptureNXで開くと自動的に10%のわい曲補正が掛かるようになっているのだ。補正値を極端にすると図13や図14のように自由自在に変形することが可能だ。要するにかつては熟練カメラマンのノウハウだったアオリ撮影も、レタッチャーの手の内に入ってしまったということだ。
このビジネスを印刷業界に強要するものではないが、画像処理を売りにしてきた会社は多くあるはずである。そんな会社はこの領域まで含めたら新たな展開もできるのではないかと考える。カラマネというよりクリエイトの世界ではある。しかし、モニタやチェック用のプリンタはきっちりカラマネされている必要があるのは言うまでもない。
これは今まで印刷業界が目指していたことであり、カラマネもこれを実現するためにあるものである。このへんについては次回ゆっくりまとめさせていただくが、前述したRGBCMYKビリヤード球を使った色分布図で見ていけばこうなる。RGB画像を枚葉印刷(JapanColor)で印刷すると、図15のように右曲がりのダンディーになってしまう。しかし、広色域印刷のKaleidoを使用すれば図16のようにストレートに色が伸びたまま再現できる。これがオリジナルの色の調子を残すということであり、色再現の神髄なのだ。
使用するプロファイルも素直な滑らかなものを使用しないとガタツキなどの原因になる。GCRなどの設定で、反転などの現象が出てくることは珍しくないが、印刷はアナログ的な要素が強いので、少しでも印刷条件が変化するとトラブルが顕在化してくるので、滑らかなトーンに仕上がっているプロファイルを使わねば問題になることは覚えておいていただきたい。図17と図18は両方ともJapanColor用のICCプロファイルであるが、どちらが良いかは一目りょう然だろう。
正確な色再現が求められる場合にはRGBやCMYK技術による色再現では不十分なケースが多くなってきた。ほかのデバイスがデジタル化によって安定してきたので、印刷やRGBカメラのメタメリズム(条件等色と言って光源によって色が異なって見えるようなトラブルを言う)が顕在化してきたのだ。そういう世界ではさまざまな色再現が試みられているが、最右翼として考えられているのが分光色再現である。図19は胆道閉鎖症という病気で、新生児の胆道が詰まっていると胆汁が腸に行かずに栄養分を吸収できずに半年くらいで亡くなってしまうという怖い病気だ。チェックは赤ちゃんの便の色でチェックするのだが、白い便の場合は要注意で緊急に胆道のバイパス手術が必要になる。
図19は各都道府県がお母さん宛に出している葉書の例だが、このカラーチャートでお母さんが新生児の便をチェックして早期発見につなげている。母子手帳に印刷している都道府県もあるということである。ひょんなことでこのチャートの作成に関わってしまい、分光色再現によるチャート作成に取り組んでいるのだが、病院で分光撮影した赤ちゃんが緊急手術して命が助かったりするケースも増えてきており、「カラマネで命が救えた」と感動を覚えている次第である。図20はお医者さんがモニタでチェックしている様子だが、ナナオのキャリブレーションモニタが縦に2台並べておいてある。このへんの様子は次々回にでも詳しく報告するが、お医者さんだってカラマネの時代なのだ。「カラマネをしないとクライアントとも意思の疎通ができなくなる」ということだけは肝に銘じていただきたい。
(『プリンターズサークル』2008年12月号より)
もう一度 学び直す!!マスター郡司のカラーマネジメントの極意