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2012年10月24日(水)にCIP4国際会議“Interop”の特別併設イベントとして「IT/JDF技術で切り開く印刷ビジネスの進化」と題した無料セミナーが東京・品川のAP品川コンファレンスルームで開催された。
“Interop”とはInter-Operabilityの略称で、CIP4に加盟している各社がJDF製品やそのシミュレータを持ち寄ってお互いにJDF/JMFデータのやり取りができるかどうか接続の検証を行う場である。
また、仕様の改善に向けてJDFへの要望や課題をさまざまなテーマで議論している。今回の会議ではデジタル印刷の後加工、自動面付け、JDF1.5の仕様などが検討された。JDF1.5のトピックはギャンギング(異種多面付け)とWeb to Printの仕様追加で、Web to Printで入ってきたジョブをギャンギングして印刷するというワークフローに対応していく。2013年夏頃のリリースが予定されている。
“Interop”は2003年からスタートし、年に2回の割合で定期的に開催されている。ヨーロッパ-北米-アジアパシフィックの順で順番に開催し、名乗りを上げた企業がボランティアで世話役(ホスト)を務める。日本における開催は今回が4回目でキヤノンマーケティングジャパン(株)がホストを務める。ちなみに過去3回は大日本スクリーン製造(株)【2004年春(6th)】、富士フイルム(株)【2006年春(10th)】、(株)小森コーポレーション【2008年秋(15th)】となっている。
今回のセミナーは、本来はメーカーの技術者向け会議である“Interop”において、JDFの意義、現状や可能性をユーザにも広く知ってもらおうとCIP4ジャパンとJAGATが共催という形で開催したものである。
セミナーの冒頭の、CIP4のCTO(最高技術責任者)であるDr.Rainer Prosi氏とCEO(最高経営責任者)であるHenny van Esch氏からは次のようなプレゼンがあった。
まず、世の中の変化として、人々はよりスピード感を求めている。情報はTwitterやFacebookを介して瞬時に世界中に拡散し、iPadやタブレットが市場を席巻している。印刷業界はこのような動きに大きな影響を受け、ジョブの受注方法・入稿形態の変化(Web to printなど)、印刷単価の下落、校正手段の変化(リモート校正、オンライン校正)、超短納期(当日ないし翌日)などへの対応を迫られている。
その対応手段として大きくクローズアップされるのが“自動化”である。自動化の効果が見込める場面として、
・顧客によるWeb to printからMISへのジョブ取込み
・MISから生産ワークフローシステムへのジョブ投入、製造
・生産システムからMISへの実績情報のフィードバック
・MISから顧客への進捗情報やコスト情報のフィードバック
がある。製造の自動化だけでなく、幅広い業務において自動化が可能である。
自動化をすることによって、作業効率の向上はもちろんのこと、作業指示書の電子化によるミスロスの軽減、そして見逃せない効果として、精度の高い実績データのフィードバックにより、受注一品別のきめ細かい収支把握が可能となり、経営の意思決定力が向上する。
JDFは印刷業界において世界唯一のジョブ情報と作業プロセス、パラメータを記述する言語であり、JDFを利用することで、製造と顧客、MISを統合することができる。また、標準規格であり少ないカスタマイズで各種の自動化が可能となる。
つづいて加藤製本株式会社の専務取締役である加藤隆之氏からは、「ユーザ視点でのJDFに対する期待と課題」というテーマでお話を伺った。
加藤氏のお話で印象深かったのは“スマートプリンティング”というキーワードである。デジタルメディアに押され気味の紙メディアであるが、その魅力はまだまだ健在である。ただし、送り手と受け手のミスマッチが起こっているため、十分な効果を生み出しにくくなり需給ギャップを引き起こしている。
このギャップを解消するのが“スマートプリンティング”である。“スマートプリンティング”とは必要な情報を収集、加工、分析することによって、必要な情報を必要な時に、必要な人に印刷して届けることと定義している。
印刷手段としてはオフセット印刷機よりもデジタル印刷機の方が適しているし、さらにはプリプレス、プレス、ポストプレスという境界線がないような印刷システムを構築する必要がある。それを実現するのがJDFととらえている。
しかし、製造現場の視点で考えたときに、最大の難関はポストプレスであると認識している。切る、折る、接着するなど紙に対してさまざまな負荷を与えており、それを制御するためのパラメータは単純にはデジタル化できない。逆にいうと製本現場にはデータ化されていないノウハウ(アナログ知)が山のようにある。
これらのノウハウをデータ化するためにはメーカーの協力が不可欠であり、そのためには積極的に情報を開示して協力していきたい。
また、JDFは社会の環境変化にグラフィック業界が対応するために生まれてきたものであり、JDFを使いこなすためにはユーザ自身も変わる必要があるという問題提起をしていただいた。
最後に私見となるが、現状のワークフロー、ビジネススタイルに対してJDFをどうあてはめるかという視点ではなく、あるべき姿、あるべきビジネスはどうかという視点から具体化に落とし込んでいくほうがJDFによる自動化の近道であると考える。
パネルディスカッションで紹介していただいたユーザ事例においても、現状にとらわれすぎず、できない理由ではなく、どうしたら実現できるかという考え方が成功のカギというお話であった。
本セミナーがJDFを題材に自社の今後の展開を改めて考える好機となったのではないだろうか。
(JAGAT 教育コンサルティング部 花房 賢)