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小ロット化が一段と進むなか、対応し利益を出すためにはワークフローの重要度が増しています。改めて、CIP3からCIP4へのワークフロー標準化の流れを振り返ります。
デジタル化の進展により写植、版下、写真製版、集版、刷版と細かく分かれていたアナログ工程が統合され、DTP(デスクトップパブリッシング)の文字通り、1台のPCでプリプレス工程が完結するようになりました。
それとともにデジタル化されたプリプレスデータを印刷、後加工の機器制御に有効活用しようという動きが生まれてきました。
1995年にドイツの機械メーカーであるハイデルベルグ社を中心に15社が集まりCIP3という標準化団体を立ち上げました。CIP3とはThe International Cooperation for Integration of Prepress,Press and Postpressの略称で、プリプレス、プレス、ポストプレスという印刷物の製造工程をデジタルで統合することを目的とした標準化団体です。
集版データ(面付け済みの出力前データ)から版面情報(絵柄の網点面積率)、裁ちトンボや折りトンボの位置などの情報を取得し、紙の作業指示書ではなくデジタルデータを直接、製造機器に伝えることで印刷機や断裁機、折り機などの自動プリセット(事前設定の自動化)を実現しようとするものです。
そして、CIP3が定めたデータ交換のための標準フォーマットがPPF(Print Production Format)となります。データを送る側も受け取る側も相手のメーカーを意識することなくデータ交換できることが標準化の最大の利点です。
PPFのデータフォーマットには当時、印刷業界のデファクトスタンダードであったPostScriptが採用され、PPFファイルの中にはジョブ名、サイズ、頁数、トンボの位置、色情報、そして50.5dpiの版面の低解像度画像が記述されます。CIP3のPPFファイルは印刷機のインキキーのプリセット用途で大きな効果を発揮し、現在でも多くの印刷会社で利用されています。
デジタル化のさらなる進展、高速ネットワークの普及という流れを受けて、CIP3は2000年にCIP4 へと形を変えました。「Processes in」という言葉が追加され、The International Cooperation for Integration of Processes in Prepress,Press and Postpress となり、3つの“P”から4つの“P”へということでCIP4となりました。
CIP4が定めている標準化フォーマットがJDF(Job Difinition Format)です。JDFの最大の特徴は、PPFではデータの流れがプリプレスからそれ以降の工程への一方向であったものがJDFでは双方向のデータ交換が可能となったことです。
これにより作業結果(作業にかかった時間、使用した用紙枚数など)を製造機器から返すことができます。実績情報や製造機器の現在の状態を報告するときにはJMF(Job Messaging Format)というJDFの簡易版のようなデータ形式が使われます。
また、JDFでは、データフォーマットがPostScriptから、より汎用性の高いXMLに変わることで適用範囲が大きく拡がりました。プリプレス機器からだけでなく業務管理システムや生産管理システムと製造機器が直接データ交換することが可能になったのです。
JDFの仕様書には、JDFを発行しJMFを受け取ってワークフロー全体を管理するシステムがMIS(Management Information System)であると書かれ、それ以降、印刷業向けの業務管理システムをMISと呼ぶことが多くなりました。MISが司令塔となり、プリプレス、プレス、ポストプレスの製造機器とJDF/JMFをやり取りしながら、製造の自動化、ワークフローの統合管理を行う姿が理想像として提示されました。これは一般の製造業でいうところのCIM(Computer integrated manufacturing:コンピュータ制御による統合生産)となります。
もうひとつの重要な要素が、製造のワークフローとビジネスのワークフローの統合です。ビジネスのワークフローとは見積り、受注処理、生産(日程)計画、進捗管理、資材調達、出荷処理、請求、集金といった営業や工務の担当者が主に担当する業務のことです。
業務管理システム(MIS)と製造機器が直接コミュニケーションをとれるようになったことで、両者のフローを統合し一元管理することが可能となります。事務所に居ながらにしてリアルタイムに設備の稼働状況が把握できる、工程間の待ち時間のロスや材料の無駄使いを発見できる、あるいは受注一品別の精緻な原価管理ができるといったメリットが見込めます。
それとともに印刷工場の枠を超え、お客様の発注段階から、お客様に印刷物が届くまでをひとつのワークフローとしてとらえ、それをトータルで最適化するという「全体最適」という概念が叫ばれるようになりました。背景には印刷技術の成熟化が進み、製造機器単体での生産性向上には限度があること、一工程一部門単位での改善活動(“部分最適”)が必ずしもトータルの生産性を上げることにはならないことがあります。
もうひとつJDFの見逃されがちなメリットとして、指示(処理)内容と処理対象のデータ(PDFなど)をセットで受け渡せることがあります(JDFではなくPDFの仕様として、PDFファイルのなかにJDFの指示情報を埋め込むことも可能となっています)。XMLのハイパーリンクの機能を利用して外部ファイルを参照します。プリプレスワークフローのシステムでは、ホットフォルダを利用して自動処理を行うものが多くなっています。
ホットフォルダごとにプリフライト、トラッピング処理、プルーフ出力などの処理手順を定義しておき、オペレータが仕事に応じて、処理したいデータ(PDFなど)をホットフォルダに入れると定義された自動処理が行われるというものです。
これが処理内容と対象データをセットで受け渡せるとなると、異なるシステム間での連携が可能となり自動化の範囲がさらに拡がります。遠隔サイトとの連携も容易となります。実装面が追いついていない面はありますが、普及が進むWebToPrintサービスにおいても重要な概念といえるでしょう。
新聞や雑誌の広告制作など、1社対1社ではなく、多社対多社で制作のやり取りをするような場合、さらにワークフロー標準化の意味合いは増すことになります。
(教育コンサルティング部 花房 賢)
※本記事は、改訂作業中の「はじめて学ぶ印刷技術 印刷・製本加工編」に加筆したものです。