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現実のブログ・SNSの成果物は取るに足らないもので、それをビジネスに乗せるのは難しい。しかし、すぐれたものもあるのは事実である。
UGC(user-generated content)とはユーザー作成コンテンツ / ユーザー生成コンテンツのことで、プロの作り手ではなく一般の人々によって作成されたさまざまなコンテンツの総称といわれている。これは昔から同人誌や自費出版という一般人の作るコンテンツと何が違うのか? これらがオンラインになっただけだという見方が日本では強い。
かつては顔見知りの同好の志によって行われていた活動が、インターネットによって外の世界と接点が出来ただけのことで、それらの総和はブログ・SNSという大規模な『メディア』となったが、コンテンツビジネスの延長線上ではなく、サークル活動の延長線上で捉えようという考え方である。
現実のブログ・SNSの成果物は取るに足らないもので、それをビジネスに乗せるのは難しい。中には玄人はだしのものもあるが、実際には玉石混交で「マスメディアのコンテンツに劣る」「品質がバラバラ」「著作権他法に準拠しているかはっきりしない」などの批判がある。
しかしBlog・SNSの文章、インターネットのコンテンツ共有サイトに投稿された画像・写真・音声・動画・アニメーションなどのファイルに、すぐれたものもあるのは事実である。これは金鉱脈にも似ている。金の採掘は1トンの土から何グラムの金を見つけるような作業なので、UGCも10万分の1の確率でよいものがあれば、意味はあるのではないか。
大多数の投稿されたコンテンツの意味の重さよりも、あらたなコンテンツの担い手を見つけ出すことの方が重要である。同人活動というのは、全くの趣味活動の人とプロ志向の人がいて、まずプロデビューしたい人にとってUGCメディアは有効で、これらを経由してプロ化した人はいろいろな分野で登場した。
一方で商業主義に拒否反応をもつ信条の人もいて、プロの誘いを断って同人作家でいる場合もある。それと最近のUGCコンテンツの増加を見ると単なる軽い遊びという人も結構増えている。これらは直接商業化しないにしても、こういうコミュニティが下支えになることで、コンテンツの評価とか登竜門が機能することになる。
大衆人気を得つつも破綻するといわれながら拡大してきた動画投稿サイトYouTubeは、グーグルが約2000億円で買収し、動画ではTVの放送がエリア限定なのに対して世界的なインフラになろうとしていて、世界にコンテンツを発信したいTV局にとっては、敵ではなく味方として動き始めている。
最近ではTVのニュースにもYouTubeから拾ったネタが取り上げられることが日常になったが、一方で極ローカルな世界にも役立っていて、この落差というかスケーラビリティが今までのメディアにはないところである。そこに新たな価値があるのではないかと思わせられる。
YouTubeのコンテンツは、http://www.youtube.com/watch?v=CgxCrpXoh-A のように、無意味な文字コードで識別できるようになっているが、1文字で数十から100は識別できるのだから、億の数を識別するにも数文字で済む。上記のような文字列でも億の億倍(京)の識別ができることになり、ほぼ際限のない世界がうまれている。
2008年のYoutube video awards Japan の「ハウツー・科学と技術」部門で入賞した、「やきとりじいさん」は、元は埼玉の人が2004年に作詞・作曲した歌で、それを2007年に福島市で開催されたイベント『やきとりンピックin福島』で歌ったときに話題になり、2008年になって『福島市やきとりキャンペーンソング』として第一印刷がCDを制作・発売した。
2008年5月に福島出身の体操家岡田麻紀さん(桜の聖母短期大学講師)が『メタボ対策』体操の振りを考案し、『やきとりじいさん体操』として6月に動画をYouTubeに投稿した。前述のURLがそれである。
これがブレイクしてYouTubeの賞をとるとか、全国各地のイベントやメディアなどに多数出演するようになった。「やきとり日本一」を自認する街が集まる「やきとりサミット」にも乗り込み、各地をまわって「やきとりじいさん」を踊る姿もYouTubeにアップされている。
UGCはきっとプロ・アマの境界を限りなく曖昧にしていくだろう。よくビジネス/マーケティングの観点からも注目されるが、それとは別に人々の関係やコミュニティのあり方など、社会の性質を決める要素そのものに作用する何かがある。アメリカではオンライン民主主義という言い方もある。