JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。

メディア産業の制作マネジメント部門へと向けた変革 記事No.#1603

掲載日: 2009年07月13日

メディア産業全体をひとつの会社組織として見たとき、従来の印刷会社の仕事内容は「メディア産業の制作管理部門」と言える。言い換えれば、コストセンターであったということである。

 

コストセンターとは、コストに関する予算のみを持ち、収益の予算を持たない部門のことである。そのため、コストセンターはコストに対してのみ責任を持つことになり、部門目標はそのコストの抑制・削減に向けられる。そのため工場をコストセンターと規定すると、コスト削減が至上命題となり、生産のシンプル化に向けて進んでいく傾向が強く、利益率が高い製品であっても複雑な製造工程、柔軟な生産プロセスが必要な受注を受け付けなくなることにもなりかねないのである。

一方、収益とコスト両方の予算を持ち、利益目標が与えられる部門をプロフィットセンターと言う。ここでは収益はより大きくコストはより少なく、が目標となるため、上記の工場を今度はプロフィットセンターと規定し直すと、利益が生じるものであれば製造・生産の工程を工夫して受注に繋げる動きをとるようになる。
以前も書いたことだが、組織経営のコンセプトは「管理」から「マネジメント」にシフトしつつある。変動性の高い経営環境が続く中で、経営の持続、事業の成長を担保することと真剣に向き合ったとき、「管理」という支配技法ではかえってリスクを負う可能性が高いことに気付き、会社がイノベーション、新陳代謝を繰り返しながら成長を遂げていくあり方が求められだしたのである。それを促すのが「管理」と外見上は同じに見える「マネジメント」という技法だったのである。

「管理」とは起こってしまった結果を扱うことに力点があり、会社の最終管理者である経営者の支配を後方で支えることになりがちなのに対して、「マネジメント」はこれから起こす目的に全体を誘うことに力点があり、経営者をはじめステークホルダー全体を同じ軸で同じ方向に向けることを目指す。
そして今、印刷会社の土台は揺らぎ、他の産業以上に変動性の高い経営環境の中にある。サービス力、企画提案力の向上とそれを強みとした収益の向上に向けて印刷事業を再構築していくと言うとき、目指す先には明らかに「メディア産業のコストセンターからプロフィットセンターになること」という目標があるのである。その実現のためには「メディア産業の制作管理部門」から「制作マネジメント部門」への変革が同時に必要なのである。

この変革は、今の経営資源を磨き込み役割規定を変更していくことで拓ける、充分可能な道筋なのである。しかし、充分可能ではあるが、その達成のためにより自覚的に注力しなくてはいけないのは、管理部門として長い年月過ごしてきた風土を、マネジメント部門にチェンジする、意識改革、風土改革であろう。

管理部門、バックオフィスという定型業務型のオフィスでは、スタッフそれぞれのタスクが、全体の部分でありながら、独立しているため、個々がそれぞれのタスクをつつがなくこなすことに主力が置かれ、仕組みが成熟すればするほど、そのタスクが何を生み出すかということになかなか頭が行きかねる状態になる。せいぜい、そのタスク運用の効率化、合理化に頭が向く程度である。そして、他のタスク担当者からなにがしかのデータ提供や、情報提供を求められても、「それが何を求めて聞いてきているのか」ということに意識も好奇心も向かわず、ただ「分かった」「今忙しいから、いつまで?」的なやり取りになり、あるいは「彼は言葉遣いがなっていない」「この忙しい時期に、無理言ってきて」的なストレスをただ溜めることになる。

一方、マネジメントの走るオフィスは柔軟なアイデアが必要な非定型業務型のオフィスでもある。そういう企画業務主体のオフィスでは、それぞれ「どういうことをやるのか」「その為の原資はどう考えるのか」的な大まかな合意があるのみで、そのプロセスの構築はそれぞれがその都度考えるやり方が主体である。そのため、矛盾や混沌や不合理と思えるような行動、作業や会話が日常多発する。既に見えるもの、考えられたものを元に仕事をはじめる定型型と異なり、まだ見えないもの、まだ考えられていないものを生み出すのが仕事のポイントになるために、常に「目的は何か」というところに強い意識が行き、他部署の人間が何か助けを求めてきたとしても、その目的が明示されないと「何を言ってきているのか?」「何語を喋っているのか?」と不可解になってしまうのである。

この特性の違いを理解して、後者により力点を移していくこと、それが「メディア産業」からプロフィットセンターとして認識され、制作マネジャーとして信頼を勝ち得る途なのであり、印刷産業進化の重要なキーワードである「イノベーション」と「プロデューサー」を自社に産み落とすことにやがては帰結するのである。イノベーションが管理部門の中からは生じ難いことは、コストセンターのコンセプトから当たり前のことなのであり、それはマネジメントオフィスの中でこそ基盤が形成されるのである。
プロデューサーは管理部門からは育ち得ず、組織上存在が許容され難いのであり、しかしマネジメントオフィスの中で育まれると、より高いより遠い目標の獲得に向けて動けるようになるのである。

(C) Japan Association of Graphic Arts Technology