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グラフィックのコンテンツに関連した仕事は非常に広範にある。それは人が目にするものはすべてグラフィックスにどこかで関係しているからである。建築やプロダクトデザインをする人工的なモノは当然ながら、自然物も人にとってはグラフィックス表現の重要な要素である。視覚表現という言葉を言い直すと、人が何かをしようとした場合は、それを他人に対して表現するのに「視野の構築」をすること、とでもいえるだろうか。難しい言い方のようだが、いろいろなところで行われていることである。
この分野は近年のデジタル機器・プリンタの発達に見るように、社会の隅々まで道具がゆきわたってきた。少し前の時代なら、お店で店頭POPを描こうとすると、何色もの大小マーカーのセットを買ってきた。その前の時代はポスターカラーを水で溶いて筆で塗っていた。が、今やパソコンになって絵の具やマーカーのセットは揃えなくてもよくなった。
こういった道具揃えが視覚表現の第一歩であったのが、デジタルで障害が取り除かれたこと、またデジタルカメラで画像が容易にデジタル化できること、さらにネット上の画像検索でいろいろなグラフィック素材に触れることが可能になったことなどから、「24時間いつでも視覚化スタンバイ」な世の中になったといえる。
そのために単純な視覚表現は幼児からお年寄りまで自由にでき、あるいは「見慣れた世界」では業務担当者の作業への組込みがされるようになってきた。POPなどはPOPのシステムにデザインテンプレートや素材が用意されていて、組み合わせ指示とプリント操作くらいしかすることがない状態である。こういうグラフィックス制作のコモディティ化はもっともっと進んでいくだろう。いま盛んになってきたPhotobookもその流れの中にある。学習教材もそうなるだろう。ここでいう「見慣れた世界」とは、2次元の平面に素材をマッピングすれば済むものである。
だが人が感情表現や視覚効果を駆使したい欲求はとどまるところがないものなので、グラフィックスに関しては表現デバイスが増えたら増えただけ表現技法も増えるような進展をしてきた。手描きから版画・印刷を経て、映画、TV、コンピュータディスプレイというように技術が増えるにしたがって、人々は視覚の体験を増やしてきたといえる。イベント会場、アミューズメントパーク、テーマパークのような、見て、体験して、全身で楽しむところにもさまざまな視覚の仕掛けが導入され、バーチャルリアリティ(VR)、立体映像など疑似体験で楽しむ要素が付け加わっている。
また博物館におけるデジタルアーカイブにも同様なVRや立体視が取り入れられ、そういった表現が街中ではデジタルシネマとして見られるようなこともでき、一部の衛星放送でも行われるようになった。こういった視覚の仕掛けはまだ見慣れない世界を表現するには都合がよいので、「視覚情報処理はイリュージョンに向かう」でも述べたように、今までのメディアにはない新たな興奮を呼ぶものとして着目されているが、次第に身近なコンテンツになっていくだろう。それに合わせて2次元でコンテンツ制作していた人も「見慣れた世界」の先入観から抜け出て、VRや立体視の理解を深めなければならない。
今日動画が誰でも扱えるようになったように、VRも扱いが楽になっていくのだろうが、楽になるのは操作面だけであって、コンテンツの面白さを考えるのはいつの時代も同じだ。同じ努力をするなら、人々に視覚の新しいエクスペリエンスをしてもらえるような、今日のビジュアライゼーションの先端を気に掛けておこう。
2009年9月1日 Visualizationシンポジウム 「見えることの楽しさ 」
~立体映像、視覚トリック、新しい映像表現、CG・SIGGRAPH報告など~