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日本人は子供のころからいろんな刺激を受けているので、新しいビジュアルの世界と交流しながらDTPも伸ばしていける。
日本は少子化のために学校はどこも生徒を集めるのが大変になっている。親御さんも学校も若い人がどんな仕事に意欲的に取り組むのか考えるのに苦労している。決して若者にこびるものではないが、若者がやる気を出さない仕事というのは、別の方法に置き換わっていくというのも歴史の必然である。かつてのアナログプリプレスに比べればDTPは楽で創造的な要素も加わった。今では写植や製版を知らない人が印刷物制作の過半数ではないかと思う。
しかしDTPは写植や製版の代替品ではない。DTPの最初のコンセプトはPublishであって、具体的にはニューズレターやミニ新聞やフライヤーなどが自分で自由に作れるようになる技術ということで、アメリカでは民主主義を底から支えるものといわれた。Syebold会議ではロシアや東欧の地下新聞がQuark国際版で作られている(ベルリンの壁崩壊以前だったので)ことや、コミュニケーション技術の発達の先に10年後にはアラブとイスラエルの和平の日がくるだろうと、真顔で語られたものだった。
実はこの議論はその後はインターネット上にシフトして行って、DTPの話題ではなくなった。ではDTPに残されたものは? 意外とスケールの小さな話に終始するようになって、全く写植や製版の代替のようになってしまった時代もあった。しかし近年はまた変わりつつある。それはCDのジャケットくらいのクリエイティブは個人で自由に作れるので、ミュージシャンがMySpaceのようなSNSで好みのイラストレータ・クリエータを見つけたり、その逆の提案がされたり、創造しながらコラボするというジャンルもでてきている。コミケに代表される同人誌も盛んで、カメラマンもデジタルの時代はパソコンを駆使するようになった。DTPはグラフィックスを楽しむ人の手に移りつつあるのだ。
このような人たちが多くグラフィックス分野の仕事に就くようになると、業界の印象も変わってくるだろう。専門学校が生徒の争奪戦をする中で、調理の学校が実習体験をしている風景を見たが、食べ物を作ることは皆が楽しそうで微笑が満ち溢れていた。DTPにも多くの学校があるが、「印刷業界に就職」ということ以外に、やはりやって楽しいという要素も若い人に味わってもらいたいと思う。上記のような若い自由なクリエータの様子を、何とかDTPにつなげることができるといいのだが。
グラフィックスの面白さというのは、実は人間は子供のころからいろいろ経験しているものにもかかわらず、大人になって仕事人間になると感性が働かなくなってしまうらしい。毎日見るTVやネットや印刷物でも凝ったクリエイティブはいっぱい見ているはずなのに、もうひとつ感動が沸きにくくなっている。そのひとつにやはり著名な先生を評価して知らない人は評価しにくい権威主義のようなものが業界人にはみられる。こういった色眼鏡をはずす努力をしないと、子供が見ても面白いというものを作ることはできなくなってしまうだろう。
そこで「見えることの楽しさ 」という原点に帰るために、最近話題の ~立体映像、視覚トリック、新しい映像表現、CG・SIGGRAPH報告など~ DTPの周辺にある刺激的なテーマをとりあげたVisualizationシンポジウムを企画した。おそらくアニメのセル画のような、今やCGと称する仕事は今後中国で作業されることがもっともっと多くなっていくであろう。しかし日本人は子供のころからいろんな刺激を受けているので、もっとクリエイティブな仕事を中心にできるだろうから、新しいビジュアルの世界と交流しながらDTPも伸ばしていけるとうれしい。
2009 年9月1日 Visualizationシンポジウム 「見えることの楽しさ 」
~立体映像、視覚トリック、新しい映像表現、CG・SIGGRAPH報告など~