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バリアブル印刷により、名前入りのオリジナルラベルのワインをWebで販売しているアピックスの事例を紹介。
友人の結婚記念に、友だちの名前を入れたラベルのワインをプレゼントできたら…。素敵だろうけれども、どうしたら用意できるのかもわからないし、お金もどのくらいかかるのか想像できない…。そんな思いに応えるのが、アピックスが始めた通信販売サイト「sense121」だ。富士ゼロックスDocuColor 8000 Digital Pressの可変印刷(バリアブル印刷)機能を活用して、手ごろな価格でパーソナライズドラベルを実現している。
アピックス は1920年に河村青写真調整所として創立、戦前、戦後は青焼きを中心としたビジネスを行っていた。1950年代からはマイクロ写真加工やオフセット印刷機を導入し、印刷業と総合情報加工業として発展してきた。その後、デジタル化社会の到来を見越してオフセット印刷機を廃棄し、その代わりにデジタル印刷機を導入。現在はオンデマンド印刷、総合文書情報管理サービスを主体としたビジネスを行っている。
その同社がオンデマンド印刷での新しいビジネスを模索して立ち上げたのが、バリアブル印刷機能を活用して個人名の印刷されたラベルのワイン、吟醸酒をインターネットで販売する「sense121」サイトの運営である。
同社では3年ほど前から、よりオンデマンド印刷の市場を広げるために、バリアブル印刷を活用したワンtoワンに特化したビジネスを2年前から企画し、商品化を進めた。それが「sense121」に結実した。
このビジネスのきっかけについて、社長の河村武敏氏は次のように語る。
「これまでもB2Bではワンtoワンのビジネス事例はあるのですが、個人情報の関係などで、お客様に提案するにも、『これがワンtoワンの事例です』とわかりやすく紹介できませんでした。ですから、どのように説得力のある説明をして利用してもらうかが課題でした。そこで、なんとかワンtoワン商品を“ 見える化”して、『なるほど!』と思ってもらえるような、わかりやすく紹介するケーススタディーを作ろうと、ウェブでのパーソナライズドワイン・吟醸酒の通信販売を行う「sense121」をオープンしました。このビジネスは当社にとってチャレンジでもあるのです」。
2008年7月の「sense121」オープンに先立ち、バリアブル印刷機能を紹介する商品として、顧客の名前を入れたパーソナル吟醸酒を企画し、自社のお中元として贈った。引き続き同年10月のeドキュメントJAPAN2007に出展し、パーソナライズド吟醸酒を来場者にプレゼントするデモンストレーションを行った。このデモンストレーションでは、酒造会社の協力を得て、ブースに設置したパソコンでラベルデザインを選択して文字を入力してもらい、その場でプリントしパーソナルラベルを作成して、180mlの吟醸酒に貼ってプレゼントした。この企画は大好評を博し、700人近い来場者がワンtoワンのサービスを体験した。
これらの実績をもとにいよいよ事業化に取り組み、2008年4月にインターネットとカタログによる販売を目的に、酒類販売業免許を新たに取得するとともに、壽酒造(株)、丹波ワイン(株)と業務提携を行った。そして、同年7月に「sense121」をオープンした。
現在、「sense121」で扱う酒類はワインと日本酒。ワインは丹波ワインで赤・白ワイン、スパークリングワイン(ロゼ、白)のほかビンテージワインも用意されている。日本酒は壽酒造の「國乃長」で、大吟醸酒と吟醸酒の2種である。丹波ワインは知る人ぞ知るワインで、「鳥居野」は世界食品コンテストのモンドセレクションで金賞を受賞している。
ラベルデザインは、「母の日」「父の日」「クリスマス」「バレンタインデー」用など、季節のイベントに合わせて専用のものも用意しているが、デザインにはかなりこだわっている。というのも、名前がひとつひとつ変わるので、名前が変わってもおかしくないデザインにしなければならないからだ。
この事業を担当する総合企画部の重松えみり氏は、「個人の名前を入れる部分は商品パッケージで言えば、商品名がコロコロと変わるようなものなので、普通ではあり得ません。いくらベースになるデザインがよくても、可変部分はそれぞれに文字数や文字が違いますから、文字数によってバランスが崩れてはダメなのです。短くても長くても違和感のないデザインでなければなりません。それには、通常のデザイン常識で行ってもよいものになるとは限らないのです。ですから、バリアブル印刷とはどのようなことなのかをよく知っているデザイナーにお願いしています」と、こだわりを語る。
もうひとつのこだわりは、印刷するラベルの紙だ。「どうしてもピカピカのラベルにだけはしたくなかった」という重松氏が選んだのは越前和紙。コート紙に比べると仕上がりがしっとりした感じになり、糊づけしても剥がれにくい。
また、スパークリングワインのラベルでは金の箔押しがアクセントになっているが、これには珍しいアメリカ製の小型箔押し機を使用している。
これまでに延べ2,000本程度を販売している(取材時まで)が、購入者からはサプライズや感動の声が寄せられている。誕生日プレゼントや結婚式のお祝いというようなニーズが多いのだが、父の日にプレゼントしたら「飲むのがもったないくて飾っている」といった人も少なくないという。
「お酒に名前入りのオリジナルラベルでもらえるというのは、通常のプレゼントに比べるとスペシャル感というものがありますから、プレゼントされる方はもちろんですが、贈り物をする方にも喜んでもらっています」と重松氏が語るように、利用者の評判は上々で、リピーターも増えているようだ。
通常のウェブサイトからの購入は個人向けがほとんどだが、「BIZ for 121」として法人向け、大口注文向けの販売も行っている。通常のサイトと違うのは、個人向けの注文の場合はいくつかのデザインテンプレートからの選択になるが、「BIZ for 121」では完全オリジナルのデザインラベルでも注文できる。したがって、自分たちでデザインを行ったデータを納品して、それを使用することもできる。また、大口注文の場合には、ハーフボトルでの対応も可能になっている。完全オリジナルのラベルデザインで注文できるとのことで、これまでも企業の周年の記念品や、ゴルフコンペの景品などに利用されている。河村社長もゴルフのホールインワン記念としてオリジナルワインラベルを作成したという。
売れ行きを全体で見るとワインと日本酒が半々ぐらいであるが、季節やイベントによって売れ筋は異なる。たとえば、「母の日」のプレゼントでは日本酒はほとんど注文されないが、「父の日」となると圧倒的に日本酒が売れる。
どのようにして、より多くの人に「sense121」のサービスを知ってもらい、注文してもらうかが今後の課題だ。
現在は、定期的なメールマガジンの発行、クリスマスやバレンタインなどのイベントに向けてのインターネット検索連動広告などを利用している。これからは、異業種とのコラボレーションなども行って、「sense121」をアピールしていく。
その第1弾として企画しているのは、弁当などに使う仕切りのカップを製造するメーカーが新規事業で取り組むケーキ店と一緒に、スパークリングワインとマカロンを組み合わせたギフト商品である。こういったコラボレーションで少しずつでも露出する機会を増やしていきたいと、河村社長はこれからの意気込みを披露してくれた。
「シャンパンバーでスイーツを食べながら、シャンパンを飲んでもらう。異業種とコラボレーションすることで、情報を発信してお互いの商品を知ってもらう。
このような遊び心からの商品企画にもチャレンジしていこうと考えています」。
お客様の役に立つ、お客様の目に“ 見える”、ワンtoワンのオンデマンド印刷のケーススタディーを作りたいという思いから始まったビジネスは、まずは順調なスタートを切った。これからも「sense121」を中心に様々な企画に取り組んでいくという。今後の展開が楽しみである。
(『プリバリ印』2009年8月号より)
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