JAGAT Japan Association of Graphic arts Technology


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プレミアムチケットをワンtoワンでバリアブル印刷

掲載日: 2010年01月08日

クライアントが死蔵しているデータを発掘・分析し、商品企画やDM 制作に結び付けることで大きな成果をあげている。

(株)アイ・シー・ティー(以下、ICT)は、1990年創立。その本業は、ソフトウェア開発である。時代の趨勢とともに、汎用機から、クライアントサーバー、さらにウェブアプリケーションなど、プラットフォームを変えてきている。その一方で、新たなビジネスとして顧客管理をベースにしたマーケティングで実績を上げている。顧客データを分析し、顧客の嗜好に合った商品、サービスを提供し、着実に成果を上げている。

芸能プロダクションの会員管理が発端

ICTの顧客管理ビジネスへの関わりは、約15年前に遡る。ある芸能プロダクションに会員管理とイベントの受付システムを納品したのがきっかけだ。

「その芸能プロダクションには、コンピューターを使う運営専門の方がいらっしゃいませんでした。システム納品後、会員管理のシステムも、だんだん規模が大きくなり、社内で運営するのが難しくなってきました。そこで、弊社にその運用をアウトソーシングされたのです」(清水知幸氏/以下同)。

顧客管理ビジネスは、当該プロダクション1社だけだった。「弊社のメイン業務はアプリケーション、システム開発です。こういう仕事では、メーカー系との取引が多いのです。いわゆるB to Bビジネスですね。ところが、顧客の会員管理というのは、B to C、つまりエンドユーザー相手のビジネスになります。エンドユーザーとの取引には、ノウハウがなかったわけですが、1社とは言え10年以上、エンドユーザーとお付き合いしてくると、そのノウハウも自然と培われてきます」。

そのノウハウを他のユーザーでも利用できるのではないかと考え、新規事業として立ち上げたというのだ。
死蔵データを掘り起こすICTの基本ビジネスモデルは、以下のとおりだ。

まず、企業内に蓄積された顧客の個人データを分析する。その分析結果に基づき、個々の顧客に最適の商品またはサービス(ワンtoワン)を提案する。その具体化のためにバリアブル印刷が可能なオンデマンド印刷機を利用するのである。

「現在では、ほとんどの企業がなんらかの形で顧客情報をデータとして蓄積しています。しかしながら、そのほとんどの企業で蓄積された顧客情報を生かせていないのです。多くの場合、顧客情報管理を外注しており、しかも、その外注先に顧客情報を利用した企画提案を求めることはありません。商品企画の提案などは、顧客データ管理をしているのとは別の企画会社などが行っている例が多いようです」。

つまり、顧客データは死蔵されており、データを持たない企画会社などが商品企画を提案するというのが、現在の一般的なプロセスなのだという。かつては、これで一定の成果が上がっていたが、極限まで消費者の財布の紐が固くなっている今日、このようなプロセスで製作された商品では多くの成果は望めなくなってきているのだ。

同社では、死蔵されたデータを掘り起こし、これを徹底的に分析し、その結果をダイレクトに商品企画やDM 制作に結び付けていることが、大きなリターンを生むことにつながっている。

顧客管理システムに定番はない

最近は、顧客管理システムをCRM(Customer Relationship Management)と呼ぶことが多く、またそのためのパッケージソフトも多く出回っている。

顧客分析のノウハウが身についていない企業としては、これらのソフトに頼りたいところだが、清水氏はこうしたソフトには懐疑的だ。
「CRMはパッケージ化できないと思いますよ。ある程度のコア的な分析方法はつくれるし、実際パッケージとしてたくさんありますが、ある企業が売っている客層をどのように分析するかが問題です」。

たとえば、モノとチケットでは、販売方法が全く異なる。さらに、同じようにチケット販売をしていても、スポーツ系と、コンサートなどエンターテインメント系とでは、客層が異なり、分析方法も異なる。「ビジネスによって、販売方法、顧客へのアプローチ方法など、異なる要素が多すぎるのですね」。

「弊社は、もともとシステム開発がメインの企業ですから、システムが適切でなければ、それをつくり直す提案をしたいところですが、バリアブル印刷、ワンtoワンの話をしている時には、CRMの話はしません。それは、話がシステムのほうにずれてしまい、本題から遠ざかってしまうからです。ですから、CRM導入の可否を顧客企業から問われれば、『システム化は不要です。データを貯めてくれるだけでいいです』と言うようにしています」。

それでは、ICTはどのような顧客に最適化した企画を提案してきたのだろう。ここで、プロ野球球団千葉ロッテマリーンズ(以下ロッテ)の事例を紹介しよう。

1578_01.jpg千葉ロッテマリーンズロッテの事例では、最初に企画されたのは、新しいタイプのシーズンチケットである。これは、ロッテ球団主催の全試合(72試合)に入場できるチケットである。

シーズンチケットは、従来、冊子体裁で全試合分が印刷されていた。したがって、1枚1枚のチケットのデザインはみな同じで、試合の開催日付と対戦相手が違うだけ、という体裁になっていた。

これに対して、ICTの提案は、シーズンを春、夏、秋に3分割し、デザインも季節により変更し、さらに、サイズをノート大に拡大し、広告を入れたり、購入者の好みの選手の写真などを入れるというものだ。

「普通にシーズンチケットをつくる場合には、販売見込み数を一度に印刷します。そのため、売れ残った分は在庫になります。最終的には、廃棄処分にしなければなりません。ところが、バリアブル印刷だと、注文が来た段階で印刷できます。しかも、そのつど内容が変えられます。球団にとっては、在庫管理、廃棄の負担から解放されるわけです」。
しかも、従来のチケットは1シーズン通しであったのが、シーズンを分割することにより、販売機会が増える。さらに、好きな選手の写真が入っているため、試合後も多くのファンが捨てずに記念品的に保存しているケースが多いという。これがベースモデルとなり、その後はいろいろな企画チケットがつくられている。また、今年は小口化して開幕から10試合分のチケットも販売している。

オンデマンド印刷機メーカーと協業

ICTはオンデマンド印刷機として、リコーPro C900を使っている。これを選んだ理由を清水氏は、次のように語る。

「コストパフォーマンスが高いです。弊社が求める機能とスピードを持ったオンデマンド印刷機は、従来だと数千万円はしました。それが同等の機能を持ちながら、半分以下の価格ですから。価格だけでなく、リコーさんの保守体制がしっかりしていたこともあります。機械的なメンテナンスだけでなく、運用面で、使用する紙に配慮してもらったり、非常にきめ細かいチェックをしていただきました」。

さらに、ICTのオンデマンド印刷の利用例が紹介されたことで、リコーのプリンターの売上が上がるという相乗効果が出たり、「リコーさんのお客さんを弊社に紹介してもらうことも」あるなど、オンデマンド印刷機を媒介して、メーカー、ユーザーの協業関係も進展したようだ。

印刷会社の支援も

最近のオンデマンド印刷機は、一般的にはオフセット印刷機よりも表現力が高い。リコーPro C900もそのレベルのマシンだ。とは言え、万能ではない。

「ひとつはサイズ、もうひとつは色ですね」。リコーPro C900のサイズはA3ノビ(320×480mm)が上限。ICTが手がける印刷物では、イベントに関連してポスターなども多い。そのため、A3オーバーの印刷物の受注も多い。
色に関しては、たとえば「芸能人などは肌の色を非常に気にされます。肌の色は非常に微妙なので、常識的にはこれでいいというレベルでも、お客さんが納得されないことがあるのです。プリンターの性格のようなもので、どうしてもお客さんの好みにならない場合もあるのです」と言う。

こうしたサイズ、色の場合、提携している印刷会社などに外注するという。また、短納期の大量印刷物を受注した場合も同様に外注する。

(「プリバリ印」2010年12月号より一部抜粋)

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