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狭義の生産性と、広義の生産性

掲載日: 2010年01月07日

DTPの狭い世界に固執しすぎていると取り残される。PAGE2010特別連載(4)

月刊「プリバリ印」2010年2月号でAdobeのInDesignやIllustratorの製品責任者の方々にインタビューをする機会があった。詳細は「プリバリ印」2月号に譲るが、面白かった話として、イギリスのロンドンで非常に著名な広告会社を訪問した時の話があった。そこは歴史の長い代理店で、クライアントも数多く、印刷媒体ものをかなり長年にわたって扱ってきた企業で、4階建てのビルであった。

1階がWebデザイン、Web開発の階で約100人が働いていて、2階はFlashなどインタラクティブな開発やそのデザイナーが100人ぐらい、3階はビデオグラファーとかフォトグラファーが同じくらいて、4階には8人しか人がいなかった。そこは印刷関連の仕事場だったので、印刷媒体はもうやっていないかと思ったそうだが、そこは一人当たりではいちばん稼いでいるところだったという。DTP環境がよくなって(AdobeCSの新バージョンが出るたびに)生産効率が良くなった例として挙げられた話である。

このDTPの合理化でコスト削減できた分を再投資して、新しいスキルのトレーニングをしたので、1階、2階、3階にいた人たちというのは、実は昔4階のDTPで働いていた人たちだという。印刷業務がなくなっているわけではなく、その他のデジタルメディアも含めて対応することがクライアントから求められるようになったから、それとDTPとの編成をやり直した結果である。

この話はDTPの生産性向上といっても、最後のページの流し込みが少人数でできるようになった狭義の生産性のことだけではなく、実はテキストや写真という素材はWebの側で先に処理されて使われるので、そういった部門を一緒に持っているから、印刷物もWebも含めた広義の生産性も向上したということである。この会社は大きいのでこういったことができるのだと、他人事のようにかたずけることはできない。なぜなら今日ではネットで企業同士がつながれば、どこでもこういったことは可能になるからだ。

今のパソコンの能力はかつてにワークステーションやミニコンを遥かに越えていて、それにブロードバンドがあれば、もう制作の仕事はハコモノ・設備指向ではなくなって、制作チームの組み立てや管理能力がビジネスの源泉になるわけだ。また外注(BPO)とのよい関係を築くことも同様に大切である。要するにプロジェクト管理能力が非常に大切になるし、それさえ身に着ければDTPだけではなく、WebやCGの仕事も同様にできるようになるのだろう。

さらに考えてみると発注者との関係も同様なのだ。印刷関連は発注側からみると調達・外注であるのだから、発注側の仕事のプロジェクトにうまく当てはまるようなビジネスユニットとして自社の機能を売り込むことが重要になる。従来は発注者側でも製品の開発や物品の調達と、販促資料、あるいは顧客サポートは別部署の異なる仕事であったかもしれないが、バリューチェーン・サプライチェーンの考え方で、次第につながって有機的なITシステムになろうとしている。

さらにさらに、この流れは今はASPサービス・SaaSとか、これからクラウドコンピューティングとして企業を超えてコンピュータ利用ができようとしているので、ビジネスのあり方、サービスのあり方が大きく変化していくといわれているところである。DTPの狭い世界に固執しすぎていると、何時の日か大きく取り残されていることに気づくようになるかもしれない。今までのグラフィックアーツの仕事は、あまりにも人に依存しすぎていたのがツールで自動化されてきたのだから、ビジネスプロセスの開発や、もっとクリエイティブのほうに力を注ぐ必要があるだろう。

関連情報:2月3日(水)10-12 A0セッション「ビジネスが変わる 販促が変わる」

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